第十一章

冬籠もりをしよう!

 朝、起きた。


 何時も寝ているベッド――その脇の床からムクリと起きる。

 そして、掛け布団代わりのコートをハンガー(物作り妖精のおじいちゃん作)にそっと掛け、ベッドに視線を向ける。


 少しは熱が下がったかな?


 冬が本格化して、家の外では猛吹雪となり数日が経った頃、可愛い妹ちゃんであるシャーロットちゃんが風邪を引いてしまった。

 ベッドの側で腰を下ろし、シャーロットちゃんの様子を見る。

 眠るシャーロットちゃん、まだちょっと苦しそう。

 おでこに付けている布を取り、手で触れてみる。


 でも大分マシになったかな?


 そばに寄ってきた、妖精メイドのウメちゃんも心配そうにシャーロットちゃんの顔をのぞき込んでくる。

 だから、「ちょっと熱が下がったみたい」と教えて上げつつ、再度湿らせて、布をおでこに付ける。

 すると、シャーロットちゃんがそろそろと目を開けた。

「ごめん、起こしちゃった?

 気分はどう?」

「のどいだい」

 可愛いシャーロットちゃんの声が、しゃがれてしまっている。

 可哀想!

「すり下ろし林檎、持ってきて上げるね」

「うん」

 シャーロットちゃんが嬉しそうに頷いてくれた。

 そして、少し上目遣い気味に言う。

「ぐぢゅり(薬)、いらない」

「……ごめん、それは聞けない」

 わたしが首を横に振ると、薬嫌いの妹ちゃんは絶望した顔になる。


 いや、気持ちは分かるよ!

 この世界の薬って、本当に不味いもんね!

 でも、飲ませないと言う選択はあり得ないのよ。


 わたしが哀れんでいると、部屋の扉が少し開き、外からヴェロニカお母さんが覗いてきた。

「シャーロットの調子はどうかしら?」

 ヴェロニカお母さんは、エリザベスちゃんに風邪を感染うつすわけにはいかないから、シャーロットちゃんとの接触を禁止させている。

 あと、イメルダちゃんも、念のために極力近づかないように言っている。

 お姉ちゃんといっても、イメルダちゃんだってまだまだ子供だからね。

 なので、イメルダちゃんは現在、ヴェロニカお母さん達と一緒にゴロゴロルームで寝起きしている。

「大分良くなったけど、もう少しかかりそう」

 わたしの返答に、ヴェロニカお母さんは「そう」と表情を曇らせる。

「ごめんなさいね、シャーロット。

 本当なら、側にいて上げたいんだけど……」

「ううん。

 だいじょうぶ」

 シャーロットちゃんからもヴェロニカお母さんが見えるようで、表情を緩ませながら首を横に振った。

 ヴェロニカお母さんも表情を柔らかくさせながら、「サリーお姉さまの言うことをちゃんと聞くのよ」と言っていた。


――


 妖精メイドのウメちゃんにシャーロットちゃんをいったん任せつつ、寝間着から着替えて部屋から出る。

 手に持っていた、汚れたハンカチ等の洗い物を入れた袋を下ろし、まずは石鹸で手を洗う。


 そして、手を消毒する。


 使用するのは、町の酒屋さんで買った一番アルコール度数が高そうなお酒だ。

 臭いがとにかくキツくて、嗅ぐだけで酔っぱらいそうになる劇物だ。

 だけど、消毒をしないと、接触感染する可能性があるから、嫌々ながらも手をそれで洗っている。

 台の上に木製の深い鉢を置き、白いモクモクで瓶を持ち上げ傾けながら洗っていると、イメルダちゃんが顔をしかめながら近づいてきた。

「おはよう、サリーさん。

 それ、本当に意味あるの?」

「おはよう。

 まあ、石鹸で事は足りると思うけど、一応ね」

「ふ~ん」

 そんなことを話していると、天井から気配を感じる。

 視線を向けるとスライムのルルリンがびよ~んと垂れ下がってきた。

 そして、使用済みのお酒の入った鉢に、ベチョリと着地する。

「……ねえ、サリーさん。

 スライムにお酒を飲ませて大丈夫なの?」

「……大丈夫じゃない?」

 よく分かんないけど。

 まあ、ここ数日変なことになってないから、問題無いと思う。


 たぶん。


 そんなこと話していると、申し訳なさそうに眉を寄せるヴェロニカお母さんが近寄ってきた。

「ごめんなさいね、サリーちゃん」

「ん?」

「シャーロットの看病をさせてしまって」

 なんだ、そんなことか。

「別にいいよ。

 大したことないし」


 シャーロットちゃんの看病だけど、初めはシルク婦人さんが行おうとした。


 だけど、エリザベスちゃんのお世話や皆の食事の料理を担当する関係上、あまりよろしくないって事で、わたしが立候補したのだ。

 ヴェロニカお母さんもしようとしてたけど、こちらもエリザベスちゃんに授乳しなくちゃだから、良くないしね。

 わたしたちのやりとりを見ていたイメルダちゃんが言う。

「ねえ、サリーさん。

 わたくしも手伝おうか?」

「いや、イメルダちゃんだってまだまだ子供だから、感染うつっちゃうよ」

「わたくし、もう十歳よ!

 それに、ここ数年、風邪なんて引いたことないんだから!」

「いやいや、慣れない場所での冬ごもりだもの。

 風邪を引く可能性は高いって。

 わたしに任せてくれれば大丈夫なの!」

 続けて、「この頼りになるお姉さまに任せれば大丈夫!」と冗談っぽく言うも、冷めた感じに「でも、サリーさん、なんかうっかりをしそうで頼りない」と返されてしまった。


 お姉さまへの道は遠い。


 その後、シャーロットちゃんが風邪を引いてから元気のないケルちゃんを励まし、汚れたハンカチ等を白いモクモクで手早く洗った後、シルク婦人さんから壷やら籠を受け取った。


 そして、朝の日課をこなすために、飼育小屋へ向かう。


 付き添いメンバーは、何時も通り、スライムのルルリンと妖精メイドのサクラちゃんだ。

 外から吹雪いている音がガンガン聞こえてくるので、家から入れるようにしてくれた物作り妖精のおじいちゃん達には本当に感謝だ!

 入り口を開けると、ふむふむ、みんな元気そうだね。

 ちなみに、赤鶏さんが温めていた卵も孵化して黄色いヒヨコさんが生まれてきた。


 性別については、よく分からない。


 っていうか、わたしもヴェロニカお母さん達も、ヒヨコだと性別を判断することが出来ない。

 大きくなったら、鶏冠とかで判断できるだろうから、それ待ちと言うことになった。

「ほらお食べ」と言って大麦を与えると、雌の赤鶏さん達と一緒に、嬉しそうについばんでいる。

 可愛い!

 お、今日は大人の赤鶏さん、三羽とも卵を産んでくれたみたいだ。

 朝だけではなく、夜も卵が使えるね!

 卵を回収した後、山羊さんを見る。

 元気?

 え?

 早くご飯?

 はいはい、分かりました。

 乾燥させた牧草や大麦を上げると、嬉しそうにもぐもぐ食べている。

 はいはい、沢山お食べ。

 山羊さんから乳を頂き、清掃係のスライム君達を労い、家に戻った。

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