国民が四人増えた模様です。

 お母さんが部屋を見渡しながら言う。

「あのう、ご両親にもご挨拶をしたいのだけど、ご在宅かしら?」

「え?

 ううん、わたし、一人でここに住んでいるの」

と答えると、お母さん、驚いていた。

 そうだよね!

 そうだよね!

 わたしみたいな女の子が一人暮らしって、おかしいよね!


 だから、グチっちゃった!

 ママは容赦なく厳しいんだって!


 こんな、女の子を一人、森に放り込み、この場所を支配するようになんて、無茶も良いところだって!

 でも、容赦なく厳しいけど、優しいところもあって、一応、結界に守られた家を用意してくれたって事と、これも一応、その期待に応えるために、ここに国を作ろうとしていることを一生懸命説明した。

 聞き終えたお母さん、「なんだか凄いお母様ね」と気圧されたように言ってた。

「うん!

 ママは凄いの!

 でも、ママと違ってわたしは普通の女の子って事がなかなか理解してもらえないの!」

「なるほど……」とお母さん、少し考える素振りを見せた。

 そこで、わたし、名前すら聞いてないのに気づいた。

「わたしね、サリーっていうの」

 そう言うと、お母さんはにっこりと微笑んだ。

「わたくしの名はヴェロニカ――」そこまで言うと、首を横に振った。

「いえ、ヴェロニカです。

 よろしくお願いします」

 上の女の子の背中に手を当てながら「そして、この子はイメルダ」下の女の子に手を当てながら「この子はシャーロット」と紹介していく。

 最後に一番下の子に視線を向けながら、ヴェロニカさんは少し、悲しげな笑みになる。

「この子は生まれたばかりなの。

 だから、まだ、名前すらないのよ」

 視線を赤ちゃんに向ける。

 気持ちよさそうに眠ってる。

 可愛い!

「名前がないなら、付けてあげればいいのに」と言うと、少し困ったように眉を寄せながら「そうね……」と言った。

「でも、何であんなところにいたの?

 こんな赤ちゃんまで連れて」

 すると、ヴェロニカさんの目つきが少しキツくなった。

「わたくし達は……捨てられたのです」 

「え?

 捨てられた!?」

 女の子達、イメルダちゃん、シャーロットちゃんも驚いている。

 ヴェロニカさんは続ける。

「嫡子を、男の子を産めない女などいらないと。

 そんな女が生んだ、女などいらないと」

「はぁ!?

 そんなことで?」

 意味が分からない。

 しかも、娘まで?

 え?

 それって、当たり前のことなの?

「お、お父さんが?」

 訊ねて失敗したと思った。

 もしそうなら、娘に聞かせる事じゃない。

 でも、ヴェロニカさんは首を横に振った。

「あの人は知らないでしょう。

 ……これは、夫の親族が独断で行ったこと」

 多少、救われるのかな? 分からない。

 当事者にならないと、分からない。

「夫は、わたくし達が生きていると知れば助けたいと思うでしょう。

 でも、相手が……わたくし達を守りながら戦うには強大すぎるのです。

 そして、自分が目障りだと思った者は排除しなければ気が済まないたちの者達なのです。

 もし、戻れば、今度こそ、わたくしも、娘達も、殺されるでしょう」

「お、お母様……」

 シャーロットちゃんが震えながら、ヴェロニカさんの腕にしがみついている。

 上の子であるイメルダちゃんも顔面が蒼白だ。

 ヴェロニカさんがこちらに強い視線を向けてきた。

「サリーさん、聞いての通りわたくし達親子は、もう、どこにも行くところがございません。

 もし、よろしければ、”この国”の民として受け入れてくださいませんか?

 よろしくお願いします」

 そう言いながら、ヴェロニカさんは膝を突き、頭を深々と下げた。

 娘ちゃん達もそれに習って、頭を下げる。

 わたしは――なんて言ったらいいのか分からず、「うん……」と頷くことしかできなかった。



 ヴェロニカさん達母子にはゴロゴロルームで休んで貰い、わたしは、ご飯を作ることにした。


 しかし、男の子を産まないだけで、普通、殺そうとするかなぁ?

 しかも、娘ちゃん達まで。

 婿養子とかやりようはあると思うんだけど……。

 それとも、貴族(推測)ってそういうものなのかな?

 Web小説にも悪役令嬢等、貴族物の小説が多数あったけど、そっちの方は余り読まなかったからよく分からないや。


 ゴロゴロルームから、ヴェロニカさんがイメルダちゃん達に説明する声が聞こえてくる。


 多分、わたし他人に聞かせる物では無く、身内だけの内容が含まれているのだろう。

 だから、わたしは極力聞かないようする。

 というより、聞くのが怖かった。


 白いモクモクで作った鍋でスープを作る。


 前に買った鍋もあるけど、急いでいる時はやっぱりこの方が早いからね。

 作り終えたら、改めて前に買った鍋そちらに移し、暖炉に設置する。

 すると、入り口のドアが開き、妖精姫ちゃんが入ってきた。


 え?

 なに?

 外?


 引っ張られるまま外に出ると、すっかり暗くなっていた。

 雨はどうやら止んでいた。

 そんな中、何故か発光する妖精ちゃん達が飛び回っていた。

 妖精ちゃんって、暗い中だと光るんだ!

 え?

 光らせているだけ?

 なるほど。

 すると、町がある方角からゴロゴロと何かを転がす音が聞こえてきた。

 あ!

 ひょっとして!

 わたしが水たまりを避けつつ駆け寄ると、おお! 近衛騎士妖精君達が台車を持ってきてくれていた!

 わぁ~い、ありがとう!

 駆け寄り、台車の覆いに溜まった水を落とし、中を検める。

 うん、問題ない。

 などと頷いていると、妖精ちゃん達がワッと群がってきた。

 そして、ケーキとティーポットを持ってさっさと、家に向かって飛んでいく。

 いや、えぇぇぇ……。

 まあ、いいけど……。


 物置――というより、車庫というのが正解かな?

 台車を移動させると、家に戻る。

 妖精ちゃん達がテーブルの上で、ケーキを食べる準備に忙しく飛び回っていた。

 あ、ヴェロニカさん達が食事をする場所を確保しなくては。

 妖精メイドのサクラちゃんに空けてくれるようにお願いをする。

 そして、スープ皿に先ほど作ったスープを装う。

 具が大きいからフォークもいるかな?

 お嬢様だから、ナイフもいるかな?

 まあ、適当に置いておけばいいかな?

 ゴロゴロルームに顔を入れて訊ねる。

「食事が一応出来たんだけど、食器が二人分しか無いの。

 誰から食べる」

 ヴェロニカさんが「ありがとうございます」と微笑んでから、イメルダちゃん達に「行ってらっしゃい」と頷いた。

 イメルダちゃんは堅い表情で「はい」と答えると、シャーロットちゃんの手を取りこちらにやって来る。

 そして、丁寧に頭を下げてから「よろしくお願いします」と言った。

 う~ん……。

「丁寧語なんていらないよ。

 もっと気楽にして」

 すると、ヴェロニカさんが小首をひねる。

「女王陛下に対して、そのような無礼は許されないと思いますが」

 じょ、女王陛下って……。

「ここは、建国予定地だけど、まだ、ただの家だから!」

って答えたら、「あら? じゃあ、気楽にさせて貰うわ」と面白そうに笑った。


 そうそう、構えられると困るの!


 イメルダちゃん達にもニッコリと微笑むと、コクりと頷いてくれた。

「じゃあ、靴を履かせるから」と座るように促すと、イメルダちゃんは「自分でやってみます!」と決心したように腰を下ろし、靴に足を入れた。


 じゃあ、シャーロットちゃんのでお手本を見せてあげるか。


 シャーロットちゃんを座らせ、靴を履かせると、イメルダちゃんはそれを見ながら丁寧に真似をする。

 もう片方の足には迷いが無くなってる。

 頭が良さそう!

 それにしても、脱いだり履いたりは面倒だなぁ。

 スリッパ!

 スリッパがあれば良い!

 後で、手芸妖精のおばあちゃんに作れないか聞いてみよっと。

 あ、その前にヴェロニカさんの服、仮でも良いのでどうにかして貰わなくっちゃ。

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