新たなる住人、じゃなく、隣人?

 荷車をゴロゴロしながら、我が王国に到着!


 いやぁ~疲れたぁ。

 弱クマさんを荷車に詰め込み、町に入ろうとする所で大騒ぎになった。

 わたし、冒険者組合の組合長さんの言うとおり、クマさんが見えないようにカバーを掛けて持って行ったのに……。

 話を聞いていなかったのか、若手の門番さんが『弱クマ? なんだそれ?』とか言いながら、それを無造作に外して、弱クマさんとご対面――『ひやぁぁぁ!』とか声を上げて、何故か詰め所にあったテーブルに突撃した。

 そこから、乗っていた皿が落っこちて割れるわ、その上に手をついて若手門番さんがまた絶叫して外に逃げ出すわ、その騒ぎのために巡回兵さんが飛んできて、弱クマさんと対面し、『うひゃぁぁあ!』と腰を抜かし、『警報をぉぉぉ! 警報をぉぉぉ!』と叫びだして、けたたましい鐘が鳴り響き、外門が閉じ、内門が閉じて、わたしはポカンとしている間に閉じ込められてしまった。

 外からは、『あの少女はもう駄目だ! 諦めるしか無い!』とか聞こえるし、『だったら、中に火の魔術をぶち込もう!』とか聞こえるしで、流石のわたしも、ちょっとヤバいんじゃ無いかな? って思い始めると、『いいから、さっさと開けろぉぉぉ!』という野太い声が聞こえてきて、内門が少しだけ上がり、下から顔が覗いた。


 門番のジェームズさんだった。


 恐ろしい顔をさらに険しくさせていたから、今度はわたしが『ひゃぁ!』って声を上げてしまった。

 そこから、門番のジェームズさんと駆けつけてきた組合長のアーロンさんのお陰で、誤報と言うことで片をつけて貰い、組合長さんと冒険者組合の魔獣解体場まで向かった。

 すると、今度は職員さんが『こ、これは! ”森の悪魔”!』『本物だ!』『しかもこの大きさ、ここの冒険者組合が始まって以来のものだぞ!』などとワァ~ワァ~叫びだした。

 そして、どこで倒した? とか、どうやって倒した? とかギャアギャア聞かれて、お金を貰って、外に出る頃にはぐったり疲れてしまった。

 本当は、町中を見て回ろうと思っていたけど、もう、そんな気力も無く、受付嬢のハルベラさんに赤鷲の団のアナさんに渡して欲しいと、綿入れ袋を預かって貰い、例のケーキ屋さんで”王妃様のふんわり焼き菓子”を三ホール購入すると、さっさと帰ってきたのだ。


 あぁ~疲れた。


 家に向かって荷車をゴロゴロしていると、妖精姫ちゃんが凄い勢いで飛んできた。

 何事!?

 え?

 ついて行けば良いの?

 ついて行くと、朝に会った巨大ハチの女王蜂さんが結界の外に立っていた。

 お供周りも周りを飛んでいる。

 あれ?

 先ほどぶり。

 すると、妖精姫ちゃんが結界の外に出て行く。

 ちょっと!

 説明して!

 森の中を南東方面に少し行った所に少し開けた所が有り、妖精姫ちゃんがそこで止まって身振り手振りし始める。


 え?

 この辺りを開墾するの?


 妖精姫ちゃんが木に印をつけていく。

 どうやら、伐採するべき場所を印しているらしかった。

 うん、分かった。

 分かったけど、先ずはケーキを家の中に置かせてね。

 ハイハイ、ダッシュで行ってきます!

 急いで、”王妃様のふんわり焼き菓子”を家の中に運んだ。

 物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った、冷蔵庫もどきにそれを保管する。

 で、戻った後、妖精姫ちゃんの言うとおり、ガツガツと伐採する。

 応援のつもりか、兵隊蜂さん達が上空を飛び回っていた。

 あ、見張りをしてくれているのかな?

 そんなこんなで一時間ほどかけて、結構な広さに広げた。

 我が家四つ分と同じぐらいかな?

「この後どうするの?」

と訊ねると、妖精姫ちゃんが種を持ってきた。

 え?

 これを育てるの?

 うん、え?

 そっち?

 妖精姫ちゃんの指示通りの場所に種を植えると、植物育成魔法を使う。

「育てぇ~」

 すると、芽が出て、ムクムクと大きくなって……。

 ちょっと、大きくなりすぎじゃ無い!?

 我が家裏の大木再びか! と慌ててその場を離れる。

 けどそこまでは大きくならなかった。

 まあ、一般的な大木(?)ぐらいだ。

 成長が止まると、枝から黄色い花が咲き乱れる。

 あ、これシナの木だ。

 前世で、理由は忘れちゃったけど、紙の原料になる木について調べていて、その時、この木を知ったんだ。

 その木が咲かせる花は、ミツバチを集めるとか何とか書いてあったはずだから……。

 早速、働き蜂が花に群がっている。

 ん?

 ここに巣を作るの?

 え、いや、それは構わないけど……。

 結界の中じゃないけど良いのかな?

 あ、結界は一度出ると入れなくなるから、駄目なのね。

 足下に気配を感じ、視線を向けると、物作り妖精のおじいちゃん達やってきてた。

 え?

 伐採した木を乾燥させろ?

 はいはい、分かりましたよ。

 乾燥させるとそれを使い、凄い勢いで四方の柱と壁、そして屋根だけの小屋を完成させる。

 小屋って言っても、我が家より一回りぐらい大きかった。

 地面と壁、壁と尖った屋根の所々に隙間がある。

 そこが入り口なのかな?

 こんなんで、大丈夫なの?

 女王蜂さんはこくりと頷いてみせる。

 問題無いようだ。

 やることが無くなったので、家に戻ろうとしたら妖精姫ちゃんに引き留められた。

 あ、物作り妖精のおじいちゃん達をわたしが結界内に入れないと駄目だったんだ。

 しかし、妖精姫ちゃんは自由に行き来できるのに、物作り妖精のおじいちゃん達が出来ない理由ってなんだろう?

 そのあたりの説明をされた気がしたけど、ママにくっつくのに一生懸命であんまり覚えていないんだよね。

 次会うときにでも、聞いておこう。

 仕事を終えた物作り妖精のおじいちゃん達がこちらにやってきた。

 そして、おもむろに足にへばりついてくる。

 ちょっと!

 スパッツを履いているとはいえ、スカートの下から見上げられるのは、流石に恥ずかしい!

 普段だって、体格的にそういう状態になってはいても、それでも真下に回られるのは、嫌だ!

 なので、物作り妖精のおじいちゃん達を抱え込み、持ち上げることにした。

 すると今度は、わたしの胸の中で物作り妖精のおじいちゃん達が恥ずかしそうにしている。

 なぜ?

 ま、いいか。

 家に戻ろうとすると、女王蜂さんに引き留められる。

 え、蜜を持って行け?

 働き蜂さんが蜂蜜がべったり付いた巣の欠片を持ってくる。

 朝の状態が脳裏をよぎる。

 いや、あの、お断りを、などとあたふたしていると、近衛兵妖精さんが二人して、大きなタライを持って飛んできた。

 そして、働き蜂さんからそれを受け取り、戻っていった。

 う、うん。

 まあ、いいけど。


――


 家に帰ると、既に用意万端整っていた。

 テーブルの上に三つの大皿、その上に冷蔵室に先ほど置いたはずの”王妃様のふんわり焼き菓子”がのっている。

 ホールで購入したそれは、凄く細かく分割されていて――もう、いつでも食べられる準備が万全だった。


 ……まあ、良いんだけどね。

 もちろん、皆のために買ったんだから良いんだけどね。


 テーブルの上に座り、キラキラした目でこちらを見る妖精ちゃん達にわたし、『よく我慢しました!』って言わなきゃならないのかな……。

 そんなことを考えていると、ニコニコした顔の妖精姫ちゃんがわたしを椅子の方に誘導する。

 上着をちっちゃな手で引っ張る妖精姫ちゃん、可愛い!

 椅子に座るとわたしの前に置かれたケーキ、まあ一応気を利かせてくれたのか、皆のよりは大きかった。

 それが何故か二つ置かれる。

 ?

 妖精姫ちゃんのかな?

と思ったけど、いつの間にかテーブルの上に用意されていたミニチュアなテーブルと椅子に座る彼女のそばにも、既にわたしと同じ大きさのケーキが置かれていた。

 明日の分かな?

 皆の視線が痛かったので、「どうぞ」と進めてみた。


 妖精ちゃん達が凄い勢いで、ケーキに突撃していった。


 勢いが凄すぎて、頭から突っ込み、クリームまみれになっている子もいた。

 大丈夫かなぁ。

 流石は妖精姫ちゃんはお行儀が良い。

 妖精メイドちゃんに切り取って貰ったのをミニチュアテーブルの上に載せ、小さなナイフとフォークを使いお行儀良く、でもとろけるような顔で食べている。


 妖精姫ちゃんが使っているあれらは、わたしが買ったものではない。


 昔から持っていた物なのか?

 それとも、物作り妖精のおじいちゃんに作らせたのかな?

 そんなことを考えつつ、わたしもフォークで切り取りパクリと食べた。

「うぅ~ん、美味しい!」

 柔らかな甘みが酸味のある果物を絡めながら口の中いっぱいにあふれている。

 さらに、サクサクとした生地が良いアクセントになっていて、あぁ~幸せぇぇぇ!


 あっという間に一皿無くなってしまった。


 うん、わたしは妖精ちゃんとは違い、体が小さくないから足りない!

 やっぱり足りない!

 わたしは明日の分として取り分けてくれただろう皿に手を伸ばす。

 ん?

 どうしたの妖精姫ちゃん。

 ん?

 妖精姫ちゃんが家の奥を指さして何かを言っている。

 その先の部屋には……転送の魔方陣がある。

 あ、ひょっとしてママの為にとっておいてくれたのかな?

 あれ?

 妖精姫ちゃんに、そのこと言ったっけ?

 う~ん、わたし時々独り言を言ったりしてるらしいから、漏れ聞こえちゃったかな?

 でも、妖精姫ちゃんは分かってないなぁ。

 だから、教えてあげた。

「姫ちゃん、ママは大人だから子供みたいに甘い物は食べないんだよ」

 そう言って、ケーキをフォークで刺すと、ムシャムシャと食べる。

 美味しぃ~。

 もうホール買ってくるべきだった!

 妖精姫ちゃんが『あぁ~!』って顔をしていた。

 でも、これはわたしが買ってきたんだから、わたしが一番多く頂くのは当たり前なのだ!


 あ、でもケーキはともかく、ママにお裾分けをしなくちゃ駄目だよね!


 わたしは、弱クマさんの一番良い所(モモ肉)の上に、育てて乾燥させたばかりのコショウを砕いた物をパラパラとまぶす。

 香ばしい香りが素晴らしい!

 お兄ちゃんがいたら、口の周りが涎まみれで大変なことになってそう。

 などと思いながら、妖精ちゃん達に視線を向ける。


 驚くほど興味なさげだった。


 興味なさげに後片付けをしながら、恐らくケーキの美味しさの事で盛り上がっている。


 妖精って、お肉は食べないのかな……。

 なんだか寂しくなりながらも、お肉を大皿に乗せる。

 人参とかジャガイモとか野暮なものは載せない。


 ママはフェンリル様なんだもの、お肉以外には興味ないもんね!


 そうなんだよね、それにも関わらず、わたしやお姉ちゃんに合わせてハチミツとかエルフのお姉さんがくれた種から育てた砂糖大根テンサイとかを美味しそうに食べていたけど、やっぱり我慢していたんだろうなぁ。

 わたし、本当に子供だったから、そんなことも気づかずに、一杯ママに食べて貰おうとしてたよね。

 だけど、今回からは本当に、ママが好きな物を送るよ!

 転送の魔方陣の上に皿を置き、魔力を流す。

 一瞬輝くと、皿は消えていた。

 良し! っと部屋から出ようとすると、遠くでママの遠吠えを上げるのが聞こえた気がした。

 ふふふ、喜んでくれたみたい!

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