第46話冬休み前最後の訓練




 年度末……と言うのが正しいのだろうか? 秋に始まったこの学園生活も気が付けば、季節はもう冬。まだしんしんと雪が降り積もる程ではないが、暖かいモノが美味い季節になる。

 昇格試験が終われば1,2週間ほどで、冬休みになり、大体翌年の半ば程まで休みが続く。

 よほど遠方でもなければ里帰りしやすい期間と言える。

 俺としては、実家及び本家に居ない方が楽なので帰りたくないのだが、そうもいかない。

 叔母上が開催される。【総会】には、病気などのやむ負えない場合以外は基本的に出席しなければならないのだ。


「……で、冬休み中私はどうやって訓練をすればいいの?」


 俺が物思いにふけっていると、それを邪魔したのは、まだ幼さを残しつつも端正な顔立ちをした金髪の少女だった。

 人に慣れていない野生動物……猫に似た雰囲気を感じる。兎に角目を引く美少女で動きやすい服装をしており、その上から防御魔術の刻印された魔道具である革鎧を着ている。


「ああ、悪い。少し考え事をしていた」


 素直に謝罪した。


「考え事って……あなたねぇ……」


 ミナ・フォン・メイザースは、呆れたような口調で俺を咎めた。射殺さんばかりの、抗議の鋭い視線を向けられるが、俺は一切触れる事無く、予め考えていたメニューを告げる。


「雪が降り積もるような場所だと、出来る事は限られるんだよなぁ……取りあえず、剣の素振りは当然として、型の練習や打ち合い稽古の練習かなぁ」


「型って言うと、剣術の型よね……」


「そう、俺が教えても良いんだけど……俺の剣術は基本ベースをクローリー流剣術と師匠から習った。居合と、剣術を基本ベースにしたごった煮だからなぁ……他人ひとさまに教えるような無責任なマネは出来ないかなぁ……」


 クローリー流剣術は剣術の中ではメジャーな流派だが、魔術は最低限度しか使わない。今でこそ膨大と言える魔力量を誇っているものの初代の時代には小魔術が使える程度だったと考えられており。

 本来、魔術師でありながら武器を携帯するのは、「俺は弱いです」と喧伝しているようなモノだったらしい。

 そのためクローリーは本家が使う流派と門弟が使う流派に分かれており、剣術と言うのは「こういう風な心構えで戦え」と言うコンセプトがあるものの俺のようなちゃんぽんは、剣術の道理を独自解釈し曲げた異端なのだ。


「そうよね……」


「一応メジャーな流派の技は知ってるし階級も頂いているけど、キチンと指導できる師匠ヒトにお願いした方が良いと思う。打ち合い稽古から学んでもらう分には全然良いんだけどね」


「じゃぁ稽古お願い出来るかしら……」


「いいよ」


 俺は濶剣ブロードソードを中段に構え、ミナと対峙する。

 対するミナの構えは、八相の構え……簡単に言えば。刀を立てて頭の右側に寄せ、左足を前に出して構える。バッティングフォームに似た構えで、攻撃速度に優れる。攻めの構えだ。


「どの程度できるようになったのか見るための稽古だ。俺から打つ事はしないから遠慮なく打って来い!」


「分かったわ!」


 ミナは【瞬歩しゅんぽ】を使う事無く、距離を詰める。


 遅いな……だが前に稽古した時よりは早い。ランニングと素振りで基礎体力が付いて来たようだ。


 もうすぐ、一足一刀いっそくいっとうの間合いまで近づいて来る。

 

 一足一刀いっそくいっとうの間合いとは、一歩踏み込めば剣による斬撃や刺突ができ、一歩退けば斬撃や刺突を避けられる距離……すなわち自分の有効射程距離レンジの事だ。


 中段から上段に構えを変更し、遭えて緩慢な速度で剣を袈裟斬りに振り、ミナが俺の斬撃を避けるか受けるかの選択を見る。


 少し前までの彼女であれば、避ける(躱す)選択しは無く、折角振り抜けば有効打を取れる状況でも、防御してしまう悪癖があった。だが、訓練と意識改革によって改善された。精神と肉体によって、「受ける」と言う選択肢は頭から抜け落ちているようだ。


良い傾向だ!


 数週間前の森で俺を付けて来てモンスターに襲われた時は、剣と魔術を同時発動するのがやっとと言った状態だったが、ここまで成長できるとは……


 そんな事を考えている間にミナは、一歩。否、半歩の距離をスッと後方へ下り、俺の袈裟斬りをかわし、打ち込んで来る。


袈裟斬りのフォームも、崩れておらず。綺麗な軌道で振り下ろされる。


 体操服代わりの革鎧の防御魔術シールドが削られる。これは着用者の魔力と、攻撃者の攻撃で受けるダメージが変る仕様があるので、どの程度有効だったのかが一目瞭然だ。

 革鎧の防御魔術シールドは2割ほど削れており、そこそこ良い一撃だったと言える。


「悪くない一撃だった。前回立ち合いの稽古をした時よりも動きが洗練されている。俺が打ち込んだ場面で俺の袈裟斬りを受けるでも反らすでもなく、躱したのは戦術的な……いや、精神的な成長を感じる。良い稽古だった」


 実際問題。本気ではないとは言え俺に一撃与えられるのは、この学校だけの実力で言えば中級程度で卒業だけなら出来る腕だ。


「あ、ありがとう……」


「ここまで来たらあとは、型を覚える事ぐらいかな? もちろん細々としたところは修練できるけど……やるなら説明するよ?」


「やるわ」


 こうして冬休み前最後の週一回の訓練は、終わった。




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