第12話 vs元A級冒険者

 俺は下町、つまり貧民街やスラム街と言われている場所に向かっていた。

 道を進むと知り合いにばったりという事もあるので、屋根伝いに移動していた。


 流石に補助魔法を使って屋根に負担が掛からないようにしているが、スラム街では事情が異なる。

 屋根がなかったり、穴が開いている建物もあり屋根伝いに移動するのが困難になる。


 スラム街に入った途端空気感が違うのが分かり、更に慎重になる。

 瘴気が立ち込めているような嫌な気をはらんでいる。


 ここは犯罪者の巣窟となっている事があり、普通の者はまず立ち寄らない。


 すぐに隠れ家は分かった。

 情報屋はご丁寧に名簿まで用意していた。

 万能者は非常に便利だ。

 鑑定のスキルもあるから、ダンジョンで出たアイテムの鑑定もその場で出来る。


 で、少し時間が掛かるが、込める魔力と時間次第で何処までも見える。

 鑑定の上位スキルはその時間と魔力が少なくて済むだけで、見える項目に差はない。


 人の鑑定は特に戦闘の最中に詳細まで行うのは厳しいが、名前だけなら即時に分る。


 名前は通常は黒色なのだが、犯罪者は灰色、犯罪者の中でも殺人者は赤色だ。


 これは魂に刻まれ、悪い事をしていると通称ステータスカードに刻まれる。


 例えば盗賊や賞金首を殺しても赤文字にならない。

勿論兵士が上官から命ぜられて指示に従って人を殺した場合もだ。

 但し、逸脱した命令を下した場合、命じた者は直接手を下していなくても部下が誰かを殺せば赤文字になる。


 一応罪を償えば神殿にて赤文字を黒文字に変えられる。


 しかし、見張りをしている奴は1人だが、赤文字だった。

 気の所為か?といった具合に1度周りを見たが、特になにもなく再び見張りに戻る。

 人物に鑑定を使うと、僅かにゾワッとさせてしまい、鑑定されていると気が付くので町中では余程の事がない限り人物に鑑定は使わない。


 正義は我にあり!


 俺は投げナイフを取り出すとそいつの額に投げた。

 今回はダーツのような貫通力のあるタイプだ。

 その辺の武器屋等で大量に販売されている物を使っている。


 ヒュン!・・・グサッ!・・・ドサ!


 ナイフが額に刺さり、そいつは自分が死んだのだという事が分からないまま倒れた。


 1分程待つ。


 少し様子を見るが、今の音で誰かが感づいて出てくる気配はない。


 さてどうするか?

 情報屋からはこの辺りは犯罪者しか住んでいないから、いっそのこと燃やしても良いのではとも言われた。


 それも良いのかな。


 弔いの火も良いか・・・

 ここの連中はやりたい放題で、かなりの者が殺されているそうだ。 


 燃やすか・・・


 建物に近付くと予め買っておいた油を撒いていく。

 油を撒きながら建物をぐるっと一周りし、屋根に登る。

 次に屋根に小さく穴を開け、そこから油を注いでいく。

 一応入り口だけ油を撒いていない。

 逃げ口を用意しておかないと予測外の所から逃げられるかもだから、こちらに都合の良い場所を残しておく事も忘れない。


「ふう、油はまあ、こんなもんか。短時間でカタをつけなきゃな」


 壁越しに油を流し、地面から屋根に伝うようにしてその場を離脱し、油を撒いた辺りに初級魔法である小さなファイヤーを投げる。

 すると火が着き、瞬く間に建物全体に燃え広がり黒煙を吐き始めた。


 俺は入り口が見える所に立ち、出てくる奴を待つが、阿鼻叫喚だ。


 3人が燃えながら出てきて、地面にダイブして回転して火を消す。

 賊ながら見事で、2人が立ち上がる。

 しかし、もうひとりは息絶えたようだ。


 1人は精悍な中年で冒険者が好むロングソードを手に取り、もうひとりはシミターを構えているが、こちらは如何にも盗賊!といった粗暴な感じだ。


 シミターを構えている方が唸る。


「てめぇのしわざか!なめくさった真似をしやがって!楽に死ねると思うなよ!」


 いかにもといった三下らしいセリフを吐き捨てると、俺に斬り掛かってきた。


 俺はスキルを使うまでもなく投げナイフをそいつの喉に投げた。

 もろに入り、血をドピュー!ドピュー!と吹き出してやがてピクピクとし動かなくなった。


「貴様か!黒ずくめの奴がゼージ達を吊るしたと噂されていたが!俺様は少し前までA級冒険者をしていたんだ!貴様のような若造なんぞに遅れを取るものか!死ねや!」


 そいつは大口を叩くだけあって中々強かった。

キンキンカンカンと打ち合う。

 俺も収納に入れていたロングソードを出して同じ土俵で戦ってみる。


 今の俺でどこまでA級冒険者とやりあえるか分からない。


「はっ!お前強いな!すげーよ!」


「くっ!若造になんぞ!」


「オラオラオラオラオラ!どうした!そんなもんかぁ!」


「そんな馬鹿な!貴様何者だ!俺はA級だぞ!」


 だが、奴の顔色が怒りから真っ赤になるが、表情は驚きに変わり、次第に驚きから焦りに変わっていく。

 

 やがて俺の方が打ち込む数が増えており、段々切り傷を負わせて追い詰めていく。

 楽しい!力が近い者との命を賭けた戦闘は心が踊る。


 あれ?こいつ思ったより強くないな?

 追い込めばスキルを使ったり、必殺技を繰り出すかと思いきやそれもない。

 既に目一杯だったのだ。

 期待外れだ。

 そうこうしていると、火が隣の建物に燃え広がり、騒ぎを聞き付けた近くに住んでいると思われる者が現れたので、残念だが終わらせる事にした。  


「出し惜しみしているのはないか?なければもう死んでくれ!もう少し楽しませてくれるかと期待したが、これでは期待外れだぞ!」


「その声、聞き覚えがあるぞ!確かゲロ・・・」 


 それ以上言わせなかった。スキルを発動し、一気に懐に入ると剣の一閃でその首を落とした。


 奴の剣は俺のより業物だった。

 これは戦利品だ。

 俺は武器と首領の首を収納に入れ、燃え盛る建物を背にその場を離脱した。


 騒ぎになっているから近くに住む者も流石に火災に気が付き、逃げるだろう。


 俺は昨夜3人を始末した所に行くと魔法で小い穴を開け、そこに杭を差し込む。

 その杭に倒した奴の首を乗せる。

 また、カードも分かりやすいように杭に入れた切り込みに挿し、赤文字の首だと分かるようにした。


 そうして尾行されていないかと細心の注意を払いながら移動し、宿の近くで着替えてから1度別の方向に行きそれから宿に戻るのであった。

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