第1話~春斗の想い~

 春、桜のトンネルを抜けた先に見える高校。俺、小牧春斗は今日、この学校の生徒になる。

 第一志望のこの学校に、正直受かったのは奇跡だと、少し浮かれたっけ…。

 ここは、昔住んでたところに近いけど、知り合いいるかな…。

「受付、こちらでーす!!」

 そんな事を考えてると、受付の人に呼ばれた。

「お名前をどうぞ。」

「あ、小牧春斗です。」

「はい、小牧春斗さん。小説学科ですね。1年4組です。入学、おめでとうございます!」

 おそらく上級生であろうその人に小さな花のコサージュを胸につけてもらった。

「ありがとうございます。」

 そう言って俺はその場を去った。

「おーい、春斗!」

 階段まで行くと後ろから声をかけられる。振り向くと、中学時代の親友の姿があった。

「夏海!もう来てたんだな!」

「おうよ!一緒に行こうぜ!」

 こいつ、上島夏海。同じ学科を受けて、合格した仲間だ。

「ああ…憂鬱だ…。俺、三年間うまくやれっかな…。」

「おいおい、急に弱気だな!心配すんな、俺も協力すっから!」

 弱気な俺を力一杯励ましてくれる。やっぱいいやつだな…。

「っと、着いたな。」

 無駄話をしている間に教室に着いてしまった。教室の掲示を見ると、夏海とは席が離れてる。ってか、五十音順じゃないんだな…。

「ま、頑張れよ!」

「おう!」

 強気に言ったものの…。そう思い席を見ると、前とその隣は女子のようだ。前の女の子はめっちゃ可愛い。雰囲気がフワフワしている。その隣の子は美人系だ。でも、きつい感じはなく、人懐っこそうだ。その二人が仲良く話してる。

 ここは、さわやかというか、明るい感じで、混ぜてもらおう。俺の隣まだ来てないし…。

「俺も混ぜて~。」

 そう言うと、二人はまっすぐ俺を見た。前の席の子が俺を不思議そうに見ている。なんかついてるかな…?

「俺、小牧春斗!好きに呼んで!」

「もしかして、ハルくん!?」

 懐かしい呼ばれ方をして、驚く。前の子は俺を知ってるのか…?

「え、ああ、昔そう呼ばれてたけど…。」

「私だよ!小美野咲希!よく遊んでた!」

 さき、先、咲希…ってえ!!

「咲希か!」

 その名前は、昔家が近くて一緒に遊んでいた女の子。

「うっわー久しぶり!ってか、何年ぶり?」

「えっと、四年ぶり?」

「まじか、そんな経つんだな!…で、お隣さんは?知り合いか?」

「あ、えっと、今日初めて会ったんだけど…。」

「ども、大原夏澄です!…で、何?咲希の知り合い?」

 美人系の子が咲希の言葉を遮る。咲希が説明してくれる。

「えっと、ハルくんとは小さいころ家が近くてよく一緒に遊んでたの。でも、小六の時にハルくん引っ越しちゃって…。それ以来だから、誰かわかんなかったよ!」

「何それ!運命じゃん!」

「い、いや、運命なんて大袈裟じゃ…。」

 そんなことを話しているうちに、入学式の時間になった。


 俺たちが入学した私立花咲高校は、県内有数の就職率を誇る高校。学科は『普通科』『食物科』『小説科』。俺たちは小説科の生徒になる。みんな、小説家になりたくて、これから勉強に励む。しかし、この学校で生み出される小説家は二人以上で構成されるグループ作家。


「と、言うことで、みんなにはこれからグループを作って、秋までに小説を作成、その後に開かれる文化祭で販売をしてもらうからそのつもりで。」

 そう話すのは担任の岡崎朝子先生。この先生も、美人だ。

「じゃ、今日はここまで。明日から授業が始まるので準備してくること、以上!」

 それだけ言い残して先生は出て行ってしまった。秋までに、グループ…。で、出来る気がしねえ!!昔から人見知りで、他の人と話すことが出来なかった。そんな俺が他人とグループって…。わかってて入学したのに、直に言われると、怖くて仕方ない…。どうしよう…。

「ねえねえ、咲希、春斗。」

 悩んでいると、夏澄が声をかけた。

「グループさ、私たち三人で組まない?」

「え!」

「いいのか!?」

 俺と同じく頭を抱えていた咲希と同じタイミングで、パッと顔を上げた。

「うん!二人となら楽しく出来そう!それに…。」

「おーい、春斗ー!」

 夏澄ちゃんが続けようとすると、夏海が手を振って歩いてきた。

「夏海、どした?」

「いや、グループお前と組もうと思ったんけど…もう組んだ?」

「ああ、この二人と…。」

「いいじゃん、この四人で組もうよ!」

 俺は断ろうとしたが夏澄が笑顔でそう言った。

「え?いいの?」

「いいよ、ねえ、咲希?」

「うん、大勢のほうが楽しいだろうし…。」

「やった!俺、上島夏海!よろしく!」

 そんな感じで、俺たちのグループは決まった。良かった、知らない奴とグループ組むことにならなくて。

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