第218話 喫煙者だった頃
私は以前、タバコを吸っていた。十八歳で海上自衛隊に入って、三年満期で実家に戻ってきて少しした頃からである。
始めたきっかけはあまり覚えていないが、止めたきっかけははっきりと覚えている。朝起きていつものように一本タバコを吸った時、気持ち悪くて吐きそうになった。
目覚めてすぐにどうしてこんな事をしているんだろう? と思うと馬鹿らしくなり、それからすぐにすっぱりとタバコを止める事が出来た。
私が喫煙していた頃、まだタバコは二百五十円だった。私が小さい頃はまだ子どもが親のタバコをお使いで買いに行ける時代だったが、その頃は二百二十円くらいだったと思う。私がタバコを止めてからあっと言う間にタバコの値段は高騰し、今調べたら一箱が五百円以上するらしい。
私は吸っていた当初から二百五十円以上になったら止めようと思っていた。千円で四箱買えなくなったら止めるつもりだったのだ。そのタイミングで私と同じように止めた人も一定数いると思う。
私が吸っていた頃は、まだ施設内でも灰皿があるところなら吸えていたし、パチンコ屋なんてタバコ無しで過ごせるような場所ではなかった。麻雀する時もタバコが必須だったし、飲食店でも食べた後すぐにその場でタバコを吸うのが普通だった。
今ではもう室内は全面禁煙だし、外であっても歩きタバコは非常識とされている。ここまで追いやられてもなお吸い続ける人たちはもはや意地なんだろうね。
こういう時こそ、私の座右の銘が役に立つ。そう、一貫性よりも柔軟性である。うちの親父は真逆の性格なので、タバコでも酒でも一旦始めたら途中で止めるのは男じゃないなんて訳の分からない事を言っている。
私は親父のそういうところが大嫌いである。別にそう思うのは自由だが、それを身近な人間に押し付けようとするな。勝手にやってろ。
親父は心臓が悪く、人工弁の手術までしたのだが、それでもタバコを吸っていた。私はそれを見て頭に来たので、
「あんたが心肺停止しても蘇生せんけぇの」
と言ってやった。ちょうどその頃、私は救命救急の研修を受けて、AEDの使い方や心臓マッサージなどを勉強していた。しかし、それは生きようとする人たちの為のものであり、死んでも構わんという人間にまでしてやる必要はない。
我が子に見殺しにすると言われたのが堪えたのか、それからタバコは吸わなくなった。まぁ実際には身体が受け付けなくなってしまっただけかもしれないが……。
知人たちにタバコ止めたのかと言われるたびに、
「止めちゃあおらん。休んどるだけじゃ」
と、あくまで一貫性に拘り続ける親父である。本当にどうしようもない。
若い頃は恐ろしくてしょうがない暴君だったが、今はただのお爺ちゃんである。こないだぶつかった時に親父の方がよろけたのを見て、老いたなと複雑な気持ちになってしまった。
どういう訳か弟たちは親父の事を尊敬しているようなので、私が捻くれているだけなのかもしれない。きっと私は天邪鬼なのだろう。
まぁ性格が水と油なのでどうにもなるまい。きっと死ぬまで分かり合う事は出来ないと思う。
さて、明日は金曜日か。あと一踏ん張り頑張ろう!
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