第17話 学校では関わらないようにする・・・つもりだった2

 近くに来た渚を見て、颯太はドキッとする。

そう、毎日のようにこの光景を見ているのに、毎日心臓の鼓動が早くなってしまうのだ。


「お、何だよ。渚が来てドキドキしてるんじゃないのか? え〜?」


「そ、そんな訳……。あっ……」


「――――!」


 颯太の耳元で、ニヤニヤしながらそう囁く清太。

少しだけ困惑していると、偶然颯太と渚の目線がバッチリと合った。

その途端、この2人……だけでなく、さくらと清太も巻き込まれる形で、ガラッと雰囲気が変わってしまった。

砂糖に練乳を混ぜたようなあまーい空気が、4人を包み込む……。


「なんか……俺たち巻き込まれているよな?」


「うん。わたしたち関係ないのに、完全に巻き込まれてる。どうしよう……」


「おいおい、この場面で泣くな! せっかくの雰囲気が台無しになるから……!」


 ここでさくらが半泣き状態になり、2人は甘い雰囲気の外に放り出された。

良かったね2人とも……。

このまま何も起こらなかったら、颯太の渚のロマンチックを見させられて、相当カオスな状況になっていたかもしれませんね。


「なぎさちゃん……」


「そ、そうたくん……」


「「――――はっ!」」


 やっと我に返った颯太と渚。

お互いそっぽを向き、視線を逸した。


「やれやれ、夫婦のドキドキシーンは勝手に見させられるし、さくらを慰めなきゃいけないし……どんな状況だよこれ。勘弁してくれ……」


 ラブコメ展開の颯太と渚、そして清太にしがみついて泣いているさくら。

結局カオスな状況にいることには変わりはなかった清太であった。








◇◇◇







 朝礼が終わり、授業が始まる。

彼らが通っている高校は普通科のため、授業内容は平凡なものだ。

板書して、大事なところはノートの隅に書き留めておく。

 ノートの取り方は人それぞれですが、ここで4人のノートの取り方を覗いてみましょう。

これはナレーションであるわたくしの特権なので、皆さんはどうぞ、4人のノートの取り方をじっくり堪能してください。

そして、誰が一番字が上手か、綺麗な取り方をしているかなど討論してみてください。

そしたらきっと、戦争が起こると思います。

 それでは……まずは主人公、颯太から見てみましょう。

ノートの取り方はというと、板書したものにプラスでメモを取る、とてもシンプルだ。

まあ、あまり面白くありませんね。


(なんか――――バカにされたこと言われたような……)


 次に颯太のお嫁さん、渚のノートを見てみましょう。

板書したものに大事なところはマーカー、プラスでメモを取っている。

字も綺麗で整っており、とても見やすいノートだ。

流石と言った感じです。


(そうたくん、今日もかっこいい……!)


 では視点を移しまして……次はさくらのノートを見てみましょう。

顔はツンデレキャラだが、性格はとてものんびりとしていて丁寧。

そんな性格がノートでしっかりと表れている。

様々な色ペンを使いながら、自分でぱっと見てもわかりやすいように工夫を凝らしている。

ただ、早口で書くのが早い先生相手だと、あわあわして目に涙を溜めていることがほとんど。

目も回している状態だ。

おっちょこちょいで可愛いですね。


(はわわわわわ……!!! 早すぎて何も書けないよぉ……)


 では最後に、清太のノートを見てみましょう。

――――いやさらやないかい!

絶対にそう突っ込みたくなるほど、本当に何も書かれていません!

鼻と口の間にシャープペンシルを挟みながら、ぼーっとしている。

本人曰く、書くのがめんどいとのこと。

ノート添削とかされたら、明らかに絶望的な評価をもらうことになる。

 しかし、彼の評定は現在4.2。

こんなことをしているのに、かなり上位にいる。

定期テストの順位も一桁に迫るほどだ。


「じゃー……加賀! これの答えは何だ?」


「3.2でーす」


「正解だ」


 余裕で答えてしまうほどである。

外見の割には頭が良い清太であった。


(はあ、俺も颯太みたいに嫁とかほしいなあ……。颯太が羨ましいぜ)








◇◇◇









 4時間目が終わり、昼休みになった。

颯太、渚、清太、さくらはお互いに机をくっつけ合った。

この4人は弁当を食べるときも一緒だ。


「――――お前らの弁当っていつ見ても美味そうだよな」


「なぎさちゃん料理上手だからね」


「ふふっ、わたし料理は得意だよ!」


「羨ましいなあ。わたしも作れたら良いんだけど、不器用だから……!」


「おいおい、泣くなってさくら。そんなに泣いてたら目が腫れちまうぞ」


 まためそめそと泣き始めるさくら。

清太がさくらを慰めている姿をじっと見つめる颯太と渚。

2人が思ったことは、


『『まるでお父さんと娘みたい』』


 だった。

清太は優しい父親、さくらはまさに娘にしか見えない。

なんですかこれは、てえてえ過ぎませんか?

今後の2人に期待してみましょう!


「そういえば、颯太と渚ちゃんの噂、まるっきり聞かなくなったよな」


「確かにそうかも! 最初はすごい盛り上がってて、クラスの全員が立ち上がってパーティーみたいのやったよね」


 そう、2人が結婚したことで、渚の名字が『三井』から『笠間』に変わった。

最初は親の再婚で名字が変わったと言い訳したかった渚だが、クラスメイトの1人が偶然2人で下校し、同じアパートで同じ部屋に入っていったところを目撃されてしまい、その話はあっという間に広がってしまったのだ。

危険はいつ潜んでいるかわかりませんね……。

 その結果、クラスだけでなく学校全体に伝わってしまい、大盛り上がりとなった。

学校一の美少女と唄われている渚が、バスケットボール部のキャプテンと結ばれたことを知った生徒たち(男子高生が中心)は、何であんなやつが……? という恨みが湧き上がった。

しかし、高嶺の花が恋を抱いてしまうほどの逸材だったと思うと、諦めがつく生徒がほとんどだった。

それに加えて、盛り上がったとしても長くは続かないのがお決まり。

3ヶ月もすれば、質問攻めに合うこともなくなっていった。


「あの時は大変だったね、なぎさちゃん……」


「うん、学校に入った直後に女子生徒たちがわたしに集まって来て大変だった……。まるで大事件起こした後の記者たちみたいな感じで……」


「わたしも初めてあの光景見た時、思わず固まっちゃった。もう驚きすぎて……」


「そしたらさくらがさ、『渚ちゃん可哀想……!』って言いながら泣き出したんだよな。あの時は慰めるの大変だったな〜。普通の泣き方じゃなくて、もう大泣きで。本気で2人のこと心配してたんだよな? さくら」


「うん……」


「あの時はありがとう、さくらちゃん!」


「――――!」


 渚に感謝の言葉を伝えられた瞬間、さくらは顔を真っ赤にして首を横に振った。

『ううん! 大丈夫!』と言いたかったが、恥ずかしさと嬉しさが先に出てきてしまったため、口に出すことが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る