第13話 好きな人がお風呂に入っているとつい妄想しちゃうよね(颯太の場合)

「じゃあお風呂入ってくるね」


「うん、分かった。食器とか洗っておくね」


「ありがとうそうたくん」


 夕食を食べ終わり、今度は渚がお風呂に入る番。

渚は浴室へ、颯太は食器を洗うためにキッチンへと向かった。


「さてっと……」


 スポンジに食器洗い用洗剤をつけ、食器や箸を洗い始めた。

食後の洗い物は颯太の仕事になっていて、実は渚を何とか説得してこの仕事をしているのである。

 家事はほとんど渚が担っている。

食べ物を食器に装ったりなど、本当に小さなことは手伝うと言うと良いよと言うが、洗濯物や料理は絶対に良いよとは言わないのだ。

 なぜそんなことを渚は言うのか……それは大好きな颯太のため、渚は颯太のために尽くしてあげたいのだ。

部活を頑張っている颯太を家の中ではゆっくりさせてあげたい、苦労をかけてあげたいという想いが強いため、颯太にはなるべく手伝わせたくない。

 渚を推して推して、愛してやまない男性陣の読者の皆様、想像してみてください。

あなたの理想の顔、体型の女性が自分のお嫁さんで、自分のために尽くしてくれる。

そんな人が同じ屋根の下で暮らしているわけですよ。

男性陣の読者様はこう思うわけです……。


『うおおおぉぉおおぉおおおおおぉおぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!!!!仕事頑張るぞおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!』


 男っていうのは単純ですからね……。

たちまち心の中、本当に叫んで喜びながら発狂することでしょう。

そして仕事の調子が良くなって、成績も上々……ということもあるかもしれません。

 女性陣の読者の皆様、もしいたら覚えておいたほうが良いですよ?

男というのは本当に単純な生き物ですからね。

『ほんっと男ってなんでいつもこうなのかしら!? ばっかじゃないの!?』っていう疑問はこれが原因です。

 まあ、颯太もその単純な理由で結婚したわけですが……。


「――――?」


 う、ゔゔん……!

ま、まあとにかく、男というのは単純な生き物なんですっていうことを伝えたかっただけです。

はい、ただのうんちくです!

話を戻しましょう!


「ふう……あったかい……」


 湯船に浸かって体の疲れを癒やす渚。

手でお湯をすくい、肩にかける。

パシャパシャというお湯の音が、これまたキッチンとリビングに響くわけでありまして……。


「――――」


 食器を洗いながら、何とか耐えようとする颯太。

頭の中で自分の好きな曲を再生させながら、耳から聞こえる音をかき消そうとしていた。


(変なこと、変なこと考えちゃだめ! なぎさちゃんに失礼だか、ら……)


 すると、突然頭の中にピンク色の背景が映し出された。

そして、それの前面に映し出された人物……服を着ていない渚の姿……。


「ま、待って待って! 絶対にそんなこと考えたら大変なことになるから!」


 颯太の頭の中に現れた肌色を纏った渚は、どんどん一人称の視点に向かって近づいていく。

ちょっと頬を赤くして、ちょっと困った顔をしながら。


「やめて……やめて本当に……」


 はっきりと渚の肌色が見えたところで、渚は一人称視点に向かって甘い声で話しかけた。


『もっと見たいの? もう、そうたくんは欲張りなんだから……。でも、そうたくんだからもっと見せてあげるね。ほら、もっとわたしの全てを見て……』


「うわあ!?」


 いけないシーンに入ろうとしたところで、お色気シーンは途切れた。

これ以上映しちゃうと、本当にお見せできなくなってしまうので……。

見たかった読者の皆様、もしその先を見たいとお望みでしたら、個人の妄想でお願いします。


「〜〜〜〜〜〜っ!」


 顔が真っ赤ですよ颯太くん。

颯太も相当変態な人ですねぇ……って思っているそこのあなた、颯太も思春期の男なんですよ!

 男性は絶対にあるはず……。

親が寝ている真夜中に独り目覚め、だいたい画面の背景が真っ黒のサイトを開いて、顔は真面目、でも心では下品な笑いをしていること。

ありますよねえ?


(一旦落ち着こう! 深呼吸、深呼吸……)


 颯太は大きく息を吸ったり吐いたりし、心を落ち着かせる。

頭に流れるピンクの背景と肌色の渚のシーンを消し、真っ白にする。


「すう……はあ……。ふう、何とか消せたよ……」


 目を瞑り、安堵の息を漏らした。

そして、颯太は再び食器を洗い始めた。

――――と安心いるのも束の間だった。

渚は体を洗い始めたのだ。


バシャッ! ザーーー!


 さあ、颯太をさらに追い打ちをかけます。

浴室から響き渡る、お湯が流れる音って不思議ですよね。

ただお湯の飛沫が音を出して流れているだけなのに、それを聞いただけでシーンが頭の中で勝手に浮かんでしまうんですから。


「――――っ!?」


 ちょうど食器を洗い終わった瞬間に、部屋に響き渡るお湯の音。

颯太はその場にしゃがみこんでしまった。

 頭を抱え、震えている。

勝手に出てくる欲望を必死に抑えているためだ。

渚と結婚してから3ヶ月、日にちにすると約90日経っていても、やはりこの音には慣れずにいた。


「絶対に、絶対に考えない……! 僕が僕じゃなくなるから!」


 えっ?

せっかくだし、颯太の今の顔を見てみたいですって?

颯太の今の表情を見て何か得になる――――あ、女性陣たちですね!

 そうですよね!

この作品を読んで頂いている読者様の中には女性の方もいるかも知れませんし、ちょうど良い機会ですね。

颯太の表情も拝見しましょう!

それじゃあ、カメラマンさんセッティングお願いしまーす!


『了解ですぅ!』


 はーい、ということでカメラマンさんのセッティングが終わるまで……何をしましょうかね。

えっ、さっきは颯太のお風呂シーンを見せたんだから、渚ちゃんのお風呂シーンもしせるべきだ、ですって?

流石にそれはダメでしょ――――お見せしましょう!

 それでは……皆さん愛しの渚が湯船に浸かってリラックスしている様子が映るまで……3、3、3、2、1……ドン!


「あったかい……」


 ――――皆さん、クラブのように盛り上がってますかあああああああ!!???

さあさあ天井にミラーボールを付けてキラキラさせて、みんなで喜びを音楽のリズムと一緒にノせましょう!

ジャンプ! ジャンプ! ハイハイハイハイ!

 良いですねえ!

これからどんどんノッていきましょう!


『セッティング終わりました〜!』


 ガクッ……。

ちょっとカメラマンさんタイミング悪すぎですよ。

せっかくノッてきたというのに……。


『でも、時間も迫っておりますんで……』


 そ、そうですけど……。

うーん……でも確かに時間は迫ってきてますんで、クラブはこれでお開きにして、颯太のお顔を拝見するといたしましょう。

では、3、2、1……ハイ!

 ――――どうでしょうか?

女性陣の皆さん、盛り上がっていますかあああああああああ!!!!????

またクラブの時間がやってきました!

さあさあリズムにノッて、ジャンプジャンプ!

ジャンプ、ジャンプ……あ、あれ?


『きゃー! 颯太くーん!』カシャカシャッ!


『この表情可愛すぎるんですけど……。映える!』カシャッ! カシャカシャ!


『うち、この顔待ち受けにする!』カシャシャシャシャシャシャシャッ!


 ――――どうやら女性陣たちは踊るよりも『え』重視だったようです。

最近はこの『映え』が、特に女性を中心に流行っているようですね。

様々な映えがあるようですが、これは……『推し映え』ってやつですかね?


『ちょっとナレーションさーん! た、助けてくださーい!』


 その声は……カメラマンさん!?

映えを求めて殺到する女性陣たちに揉みくちゃにされて、カメラマンさんがどんどん埋もれていってます!

これは災害級です!


『そんな実況は良いから! 早く……うわあああ!』


 あ、はいすいません!

本当はその後の颯太の様子をお見せしたかったのですが、今はそんなところではないですし、もうお時間が来てしまいました!

今日のEDソングは『ドキドキ』!

それでは、またお会いしましょう!

 カメラマンさーん!

今助けにいきますからぁ!


『早くぅぅぅぅうううう!!!!』

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