第11話 挑戦してみる
「私は聖女でもなんでもないただの女ですからね。何もできなくても怒らないでくださいよ……?」
「頼んでいるのは私の方だ。何かが起こらないとしても怒るわけがないだろう」
「では……。えーと、雨が降ってほしいと思えばいいのですか?」
「あぁ。やってみてくれたまえ」
半信半疑で私は目を閉じて、なんちゃって聖女になりきってみた。
目を閉じて両手を合わせて祈ってみる。
『どうか、イグニエル王国に雨が降ってください。作物が正常に再び実るくらいにザーザーと……』
祈りを終了させて目を開けてみるが、ほら何も起こらないではないか。
ジュエル殿下が聖女だ聖女だ言ってくるものだから、少しばかり自分自身に期待してしまったがぬかよろこびだったようだ。
だが……。
「ここにおられましたかジュエル殿下! すぐにお越しください!」
「どうしたというのだ? 今客人を出迎えておる」
「それが、空が……」
「む!? すぐに向かう。君も一緒にきたまえ!!」
「ひぃぃぃぃーーーっ! すぐにでも!」
またジュエル殿下が鋭い声で私に命じてきた。
きっとジュエル殿下は、私が聖女じゃないと判断したから扱いを変えようとしているのだろう。
私は経験不足のため、義父様を基準にしか考えることができない。
ジュエル殿下と一緒に、空が見える王宮の中庭へと出ると、止んだはずの雨が再びザーザーと降っていた。
「ほら、君はやはり聖女だったろう?」
「この雨を……私が……?」
「その可能性が一番有力だと思うが」
とても信じられない。
だが、今回は半信半疑だったとはいえ、なんちゃって聖女として祈っていた。
その直後に雨が降った。
もしも本当に私が聖女なのだとすれば、今日はすでに二回力を発動したことになるので、あと一回できるはず。
本では一日三回力を発動できると書いてあったから。
「ジュ……ジュエル殿下。一つお願いしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「もしも私が本当に聖女ならばの話ですが、今日は二度発動しています。あと一回発動ができるかもしれないので、もしよろしければ何か祈ってみようかなと」
少しだけ私のやる気が出た。
自分から何かをしてみようという提案自体が、私にとっては珍しいことだ。
こんな気持ちになるのは久しぶりである。
「ほう、いきなり前向きになったのだな。その顔気に入った」
「え?」
「先ほどまでは暗く目が死んだ魚のようだったが、今は良い顔をしている。ではアイリスに頼んでみようか」
「あ……アイリス!?」
ジュエル殿下がいきなり私のことを名前で呼ぶので驚いてしまった。
「名前で呼んでもいいか?」
「は、はい! ありがとうございます。何を祈ればよろしいでしょうか?」
「兄上の病気を治せれば……」
義父様から聞いたことがあったけれど、第一王子が毒を浴びてしまってずっと昏睡状態らしい。
なぜかそのことに関しては義父様が誇らしげに語っていたのでよく覚えている。
「聖女の力で病を治せるのでしょうか……?」
「それは私にもわからぬ。だが、もしも可能性があるのであれば……」
ジュエル殿下が私の方を見つめながら必死になっている。
命令されることは毎日だったが、このように頼ってくれているのが嬉しかった。
「やってみます。第一王子のもとへ連れて行ってください」
「あぁ」
やりとりの一連で、仮に第一王子の昏睡を治せなかったとしてもジュエル殿下が私を責めてくることはないだろう。
今までは何かすることがとても怖かった。
だから挑戦できずに黙ったままの引きこもりだったのだ。
だが、ジュエル殿下のような心の広いお方の前でだったら挑戦してみようという気持ちになれた。
もしかしたら私は聖女になっているのかもしれないのだからやるしかない!
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