第10話【レインハルト視点】

 今日のミリアナはとても機嫌が良さそうだった。

 しかも、普段は持っていない大きな荷物を持っている。

 もしかしたら、俺へのプレゼントなんてこともありえるかもしれないなどと期待してしまった。


 それは弁当で、しかもミリアナの手作りだという。


 嬉しくて死にそうだった。

 いや、死なないけど。

 そう思ったら、むしろミリアナのことが心配になってしまった。


「怪我しなかったか? 指切ったりとか火傷したりとか……」

「え? 大丈夫ですよ。この日のために料理をずっとやってきていたようなもんですし」


 ミリアナは俺と婚約する前から、将来の旦那のために料理を勉強していましたというような意味合いでそう断言してきた。

 俺は嬉し過ぎて、涙をこぼしてしまった。


 前回会ったときからそうだったんだが、俺はミリアナのことを以前よりも好きになっていた。

 だから、いてもたってもいられない。


「すぐに食べたい!」


 木の影に移動したあと、俺はミリアナから宝石のような弁当箱を受け取った。

 蓋を開けてみると、一瞬で理解できた。


(俺の大嫌いなニンジンとセロリとキノコが入っている……)


 一体どういうことだ。

 ミリアナには、俺がなにがあっても嫌いな食べ物は口にはしないと断言したことがあるから知っているはずだ。

 だが、よく見てみると、どれも見た目ではわからないような作りになっている。


 俺の嫌いな食べ物に対する嗅覚が異常だから気がついたというまでだ。

 つまり、ミリアナは俺に対して愛情を込めて、こう言いたかったのだろう。


『嫌いな食べ物も私が作れば克服してあげますよ』


 俺は一つの可能性、いや、確信にたどり着けた。

 ならば期待に応えられるよう、ひとまず食べてみるか。


 もしも口にできなかったとしたら、無理には食べろとは言ってこないだろう。


 覚悟を決めてオムライスを口にした。


「これは……!」

「どうでしょうか?」

「美味い……!」


 この弁当に名前を付けるとしたら、『愛情満載嫌いな食べ物は克服してくださいスペシャル』とでも言っておこうか。


 オムライスには、俺の嫌いだったニンジンとキノコが入っている。

 どういう味付けで工夫してくれたのかは知らないが、このオムライスであれば、嫌いなニンジンとキノコの味がわかりずらい。

 むしろ美味しすぎる!


 セロリのソテーのようなものも、はじめは覚悟をしたが、これまた調味料がセロリの苦味や独特の癖を緩和しつつ、むしろ俺の嫌いな味をプラスの方向へ転換してくれたかのような味付けだった。

 これも美味い!

 最後にオレンジジュースだが、間違いなくニンジンも混じっている。

 だが、オレンジと混じり合ったことで、俺の嫌いなニンジン独自の味が緩和されていた。

 これに関しては少々てこずってしまったが、飲めないというレベルではない。


 確信したから断言しよう。


 ──ミリアナと一緒にいれば、俺の苦手なことや克服できないことを助けてくれたり支えてくれる!


 そう考えたら、俺は嬉しくなり過ぎてしまい、ついついミリアナの口へオムライスを放り込んでしまった。

 なぜならばミリアナは口を開けていて、『食べさせてー』というような素振りを二度もしてきたのだ。


 さすがにここで断るわけにはいかない。


「あわわわわわわ……」


 俺の頭から湯気が沸騰しているんじゃないかと思うくらい感情が熱くなっていた。

 俺はとても幸せで、つい口にしてしまったのだ。


「俺は国で一番幸せ者なのかもしれんな」


 しかも、聞いたところによると、この弁当は徹夜してまで作ってくれたとか。

 そこまでして俺のために……。


 今の状況であれば、多少強引に行動にうつしても問題はないだろう。

 一歩踏み出せ、俺!


「少しでも仮眠したらどうだ?」

「今ですか?」

「そうだ。こうやって……」

「へ? ちょ……、えぇぇぇぇええええ!?」


 ひざまくらをして、ミリアナの寝顔をずっと眺めていられたのだ。

 俺は世界一幸せ者に違いないだろう。

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