第23話 九条龍星という男〜紗理奈と水希視点〜(2)
最初にご報告させてもらうと、前回と今回の話のタイトルを少し変更させて頂きました。
理由は色々とありますが、前回と今回はストーリーが進む上で欠かせない所ということで読者様にも、その差別化と重要性を少しでも感じていただければと思った次第です。
では、前置きはここら辺にしておき、
本編をどうぞ!!
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(水希視点)
「…………それは、中学の担任の先生との約束だよ。」
紗理奈ちゃんは、そっと私の目を見て淡々と話す。
「ちょっと…………待ってよ。
その先生って…………龍星くんが恩師って言ってた人だよね?」
私は、あまりの衝撃の連続で理解が追いつかなかった。
「水希ちゃんの言う通りだよ。
それを知ってるってことはにぃにが中学の頃に遭った出来事も知ってるよね?」
「えぇ…………龍星くんが万引き犯にされたことよね?」
「………………そうだよ。あの出来事でにぃには良い意味でも悪い意味でも変わったんだ。」
紗理奈ちゃんは必死にお兄さんの辛い過去を思い出すように、唇が震えるのを必死で耐えながら私に話す。
「その…………良い意味と……悪い意味ってどういう…………」
私がそう聞くと、紗理奈ちゃんは顔を上げ
「……良い意味の方は……私たち家族以外で初めて、にぃにの異常な部分に気づいてくれた人が現れたことかな。」
「それが…………恩師の先生……」
私がつぶやくと、紗理奈ちゃんも頷く。
「西村先生って言うんだけどね、その人だけは、にぃにの本心に気づいて、にぃにに一般的な感情っていうのかな、私たちが普段何気なく感じたり、思ったりすることを教えてくれたんだ。」
「……」
私は、喉から声を発することすらできなかった。
それでも紗理奈ちゃんは続ける。
「それが大きかったのか……その頃からにぃには作り笑いじゃなくて、初めて嬉しそうに笑うようになった。」
「…………うん。」
「その頃に、西村先生がにぃにと約束したらしいんだよ。『先生』を目指すことを。」
それは本当にすごいことで前向きに感じられることだった。
なら、一方で悪い意味の変化って……
そんなことを思っていると……
紗理奈ちゃんは私の顔を見て、
「ここまではいい話で終わるところだよ。
正直、ここからが本当に悪いところ。
にぃにはあの万引きの1件と西村先生との約束から根本的な価値観が変わったんだよ。」
その意味するところが分からず、私は
「……どういうこと?」
と首を傾げながら言う。
「あの頃からにぃにの中で人を助けることは、義務感すら超えて息をするように当たり前のことのようになっていったんだ。」
「それは……先生に助けてもらったから?」
「……そうだよ。」
「でも、それなら別に悪いことじゃ……」
私が言いきる前に紗理奈ちゃんは首を横に振り、
「…………普通ならむしろいい事だと思うよ。なにせ、人を助けても当たり前のようにできる人なんて、少なくとも私はにぃに以外見たことないもん。
でも、にぃには違った…………。
にぃにの中で人を助けるっていう中に元から『自分』は入ってないんだよ……」
「それって…………つまり……」
「極端な話だけど、にぃにはね、あの時の水希ちゃんみたいに見ず知らずの人を助けるためなら喜んで自分の命を捨てれる人なんだよ。
それが…………どれだけ怖いことか水希ちゃんにも分かるでしょ?」
その言葉に私は黙って頷くことしかできなかった。
すると………紗理奈ちゃんは
「………………あの日……にぃにが目を覚ました夜ににぃには水希ちゃんに涙を見せたでしょ?」
「……うん、けど……なんで……」
「実は、あの時病室の外で見てたんだよ…
……ごめんね…覗き見する気はなかったんだけどね。」
と、私に申し訳なさそうに話す紗理奈ちゃんは言葉を続ける。
「あの時ね、正直驚いたんだよ。」
「…………驚いた?」
「…………うん。にぃには喜びの時に見せる嘘の涙は見た事あるけど、あそこまで本気で泣く姿は、見た事なかったから……。」
「…………嘘…涙…………、本気……で泣く?」
私は、紗理奈ちゃんが珍しいものを語るかのように話す姿に驚く。
「お医者さんが言うにはね…………、
にぃにの場合、一度でも庇護すべきとか、助けるべきとか思ってしまった人には決して本心を見せないって言われてたんだよ。
なのに、一度助けた水希ちゃんには、にぃにが心からの涙を見せたことに私含めてママとパパも驚いたんだよ。」
「………………そうなんだ。」
彼が今まで私に見せてくれた表情のどこからどこまでが『偽り』だったのだろうか……
「……もし、どこまでが『嘘』なんだろうって考えてるならやめてね。」
私がそう考えているとわかったのか紗理奈ちゃんが釘を刺す。
「ああ見えて、にぃには一流の俳優に劣らない位演技が上手いの。ずっと一緒で、にぃにの本心を知っている家族ですらギリギリ分かるか分からないレベル。数年しか関わっていない水希ちゃんや他の友達が分かるはずないよ。」
「………………うん。」
「それに……あの演技は、にぃに自身が半分無意識にやってることだから…………
本人にそれを言うのは絶対にやめてね。」
その視線は、兄を慕う妹がするものではなかった……
「………………どうして……」
「……簡単なことだよ、あの演技はにぃにが自分を守るためにやっていること、むしろ、生きる存在意義に近いかもしれない。
それを指摘することはもちろん、否定なんてしたら、にぃにの心がどうなるか……」
私はそれを少し想像しただけで、恐ろしくなる。
「…………わかった。」
「……ごめんね、こんな話を水希ちゃんに言ってしまって。それでも、これだけは言えるよ。」
そう言うと、先程までのではない暖かい視線を私に向け、
「少なくとも、にぃにの中で水希ちゃんはその他大勢には含まれない『特別』な人だってことをね。」
その言葉を聞き、私も彼の顔を思い浮かべ今一度自分に言い聞かせるように
「……いつの日か、本当の意味で龍星くんを幸せにできるように頑張るわ。」
「……うん、期待しとくね。
将来のお義姉ちゃんに。」
そう言われて、私の頬はみるみる赤く染る。
「……ちょっ……もう……またからかって……」
「さぁ、話し込んじゃったし、どこかお買い物でもして家に帰ろ!」
と言って、食べかけのケーキを平らげ、
お店を出る。
そこから、紗理奈ちゃんと2人でショッピングを楽しんで、龍星くんの家に戻った。
ーーーーーーーー
龍星くんの家に着いて玄関のドアを開けて、中に入る。
紗理奈ちゃんが
「ただいま〜〜!」
と言うと、奥から車椅子姿の龍星くんが私たちを出迎えてくれる。
「おかえり、紗理奈。それと水希もな!」
そう言うと、彼は満面の笑みを私たちに向けてくれる。
「……ただいま、龍星くん。」
その言葉と一緒に私は心の中で、
(…………この笑顔も演技なの?
もし、そうだとしても………………
いつの日か必ずあなたが作り笑顔を見せなくて済むくらいたくさんの幸せを、私があげるから……
必ず、私があなたを幸せにしてみせるから待っていてね。)
龍星くんにはもちろん聞こえていないが、そう心の中で固く誓って、私も靴を脱ぎ彼の家へと入った。
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いかがでしたか?
ぜひ、龍星の秘密を読んでから、もう一度1話から読み直して見てください。
そうしたら、今までのホッコリとする話が別の見方になると思います。
ここからが本当のスタートかも。
ぜひ続きを楽しみにお待ちください。
面白い!続きが気になる!と思ってくれた方は、応援、コメント、☆☆☆などなどよろしくお願いします!!
レビューなんかも気が向いたら書いていただけると、作者も嬉しいです!
次回もお楽しみに!
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