第10話 ダンジョン奥の出来事

書類への記入を終えたフレイは、アスラの腕輪について疑問を持ちつつも、帰宅していた。どこかその腕輪は忘れようと、テミスと会話をしながら。

 

「この前の戦闘で明らかになったページは。『ピクミーの再生能力を封印した』みたいです」


 ヒュドラを倒した後、またテミスの本の読めるページが増えていた。古代語が読めないフレイにはさっぱりだったが、テミスは当たり前のように翻訳する。


「ピクミーってなにさ」


「わかんない」


 だが、読めることと意味が理解できることは別問題だ。

 なんとなく予想していたが、テミスの回答にため息をつく。何なんだろう。この本……。

玄関先で靴を履き、大荷物の入ったリュックを背負うセリナが迎えてくる。


「ついさっき、私も仕事終わってさ。お疲れのところ、申し訳ないけど、地下層のダンジョン連れて行ってもらえない?」


 やめよう、とは言えなかった。昨日も彼女の激励があって、立ち直ることができた自分がいる以上、彼女の願いを聞くのもフレイにとっては当然のことであった。


 フレイは優秀な成績を残しているギルドメンバーということで自由にダンジョンを出入りすることができる権利を得ていた。この権利があることでセリナには目をつけられていた。ただ、それももう意味のない権利になってしまったが。いや、地下層であれば、崩壊していない可能性もある。


「えと、地下層だよね?」


「え、いいの!?」


 フレイからの肯定は思いもよらぬ返答だったらしく、彼女は、え、どうしようなどと自問自答を繰り返している。

 そのうち小首をかしげながら、不安そうにつぶやいた。


「ほ、本当にいいの?」


「別に、いいけど」


「そ、そうだよね。フレイ君が良いって言っているもんね。よっし」


 ガッツポーズをするセリナがあまりにも嬉しそうで、フレイは微笑んだ。


「か、かわいいですよねぇ……」


 脳内に響くテミスの声に頷く。そんな彼にセリナは話しかけてくる。


「変わったよね。フレイ君」


「え。そう?」


「うん。なんか前よりも自信たっぷりな気がするよ」


 彼女に褒められ、えへへなどと柄にもなくフレイは照れるが、その視線は腕輪に注がれていた。




 ダンジョンボスの開放と共に、ダンジョンは崩壊。それが今起きていることである。現在、攻略されていないダンジョンのほとんどは禁止級とも呼ばれる非常に危険なダンジョンの怪物たちである。他のダンジョンというのは資源回収としての価値は残されているらしいが、危険度としては跳ね上がり、いつどこから禁止級が現れてもおかしくはない。ダンジョン攻略の幅はダンジョン外まで広がってしまった。


 その禁止級のダンジョンボスの攻略までギルドのメンバーがすることになっている。人間の軍だけでは足りないらしい。


「まぁ、辞めていくのは分かるけどね」


 日数が経ち、ギルドの前の行列もだんだん収まってきたものの辞める人の流れは一向に収まる気配がない。


 昨日の戦いで使った弓矢の整備をしつつ、エデンは彼らを見ながらふっと息を吐いた。


「これまでダンジョン内だったから良かったものの、こうして人里に出てこられて、しかも禁止級のダンジョンボスを攻略しなければならないなんて言ったらしょうがないのかな」


 エデンが目を細めた表情に隣に座っていたレイアはぽつりとつぶやく。


「弱音ですか……?」


 その言葉に一瞬黙ってしまったが、微笑みエデンは口を開いた。


「まぁね。あの巨大褐色女神が何者なのかは分からないけど、あの女神も信用ならないし。どうにかして、自分たちで禁止級を倒す手段を身につけないとね」


 真っすぐに見据える彼女の視線の先では受付の職員が何かを用意している姿があった。


「さすが、セリナさん、仕事が早い」




 フレイとセリナは地下層のダンジョンへ到着した。予想通り、地下層のダンジョンは崩壊していないようだった。

 ダンジョンには特徴がある。それはそのすべてが巨大な石造りであること。そしてこの塔はいったいどのようにして作成されたのかは未だ謎のまま。

 

「ひさしぶりかも。こういうダンジョンへ本当に来たのは」


「普段は資源見るばかりだっけ?」


 フレイの質問に対し、彼女は頷く。

 普段、セリナの仕事と言うのはギルドを介して送られてくるダンジョンからの資源を元に武器を開発することであった。そのために彼女は回収所にて仕事をしている。歴史研究はそのついでと言うわけらしい。


「そうねぇ。リアルは久しぶり。資源って一応ダンジョンボスが持っていたりするんだっけ?」


「そうだね。ダンジョンボスの体内にあるか、それかダンジョンボスとは別に資源があるかと言う仕組み」


「なるほどね」


 セリナはダンジョンの周りで何かをこすっていた。こすったのは謎の石板であり、そこから出てきたのは古代文字であった。


「これは……」


「なんて書いてあるの?」


「最重要機密封印につき進入禁止……おかしい」


「えと、どうして?」


「この進入禁止なんだけどさ。普通、何が封じられているのか古代文字で書いてあるの。なのにここには何も書かれていない」

 

 その特徴は聞いたことがなかった。これまでのダンジョンもすべてそうだったのか。

 彼女はゆっくりと石板をなぞる。彼女のこめかみに汗が垂れた。


「……元パーティメンバーはみんな脱出できたって言ってたよね」


「まぁ、そうだけど」


「本当にその人たちは人なのかな」


 彼女はそのままダンジョンへと足早に進んでいった。

 その表情は焦燥がみられた。フレイもその言葉の意味を考え、ぞっとし、あわてて、ついていく。


 ダンジョンへと入っていく。一度通った道ということもあり、近道まで知っていたため、最奥までは真っ直ぐであった。そこまで行く中でもセリナは少しずつ足を止めた。壁には古代文字が彫られているらしい。この古代文字を見て彼女はつぶやく。


「全部同じ文字だよ。機密事項とばかり」


「この奥に……いったい何が……?」


 しばらくするとフレイとセリナたちはダンジョンボスがいたあの地点へとやってきていた。その門の前に立っているものがいることに気づき、フレイはわっと声をあげるも、その視線を追ってセリナが戸惑っているので見えていないらしい。


 そこに立っていたのは褐色肌の美女であった。


「テミス、何をしているの?」


 言葉には出さず、心の中で話しかけた。


「いや、ここに私はいたなぁって」


「私って……え?」


 この門の前にいたのはあのミイラのような紙でまかれた怪物である。


「それが私」


 考えられない。今の彼女がどうなればあの姿になるというのか。

 

「それは確かにそう。何だろうね?」


 と彼女はつぶやいていた。

 そこでフレイは不意に肩を叩かれた。


「ねぇ、大丈夫? 急にぼーっとしちゃったけど」


「いやー、大丈夫」


 テミスのことを話すべきなのか。ただし、このまま話せば、自身の体が研究されるのは避けることができない気がする。そもそも信じてもらえるか。そんな考えが脳内を巡る間にセリナは目の前の門に手をかけていた。


「さ、とりあえず、この先に行こう」


 相変わらず分析の癖が入り、中に入るのは渋ってしまうが、既に攻略された後だと言い聞かせ、セリナと門を押した。門はあっさりと開き、その先にあったのは何か台のようなもの、そして、三か所の血だまりであった。


「なんだよ……これ……」


【あいさつ文】

 お世話になっております。やまだしんじです。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。よろしければ、作品のフォローや↓の☆☆☆を★★★にする、または感想や応援レビューなどをしてくださると大変うれしいです。執筆のモチベーションにもつながります。

 これからもよろしくお願いいたします。


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