僕は女神に溶けていく。~ダンジョンの最奥で追放された予言士、身長100メートルの巨大女神に変身する~

やまだしんじ

第1話 ダンジョンからの追放

未知の怪物を前にしたフレイは震えてしまう。何度戦っていても、階層ごとに存在する怪物、「ダンジョンボス」の初見は慣れない。だが、この初見を仲間と何度も乗り越えてきたから今がある。


 目の前の怪物は全身が紙に覆われた上半身だけの怪物。それはミイラのようにも見える。この階層、唯一の地下階層のダンジョンボスは未だに遭遇者がいないということ。そもそも、ダンジョン内でダンジョンボスを攻略する者は珍しいとされている。


 しかし、その結果が今のパーティ「アスラパーティ」である。

 パーティとは、地上に存在する巨大な塔、通称「ダンジョン」に入り資源を採取するギルドと呼ばれる集団から派遣される少人数のチームである。フレイが所属してからアスラパーティは数々のダンジョンボスを撃破し、わずか半年で最低のFランクから一気に上がり、最高ランクである現在全パーティで唯一のSランクパーティとして数えられていた。


 それでも目の前の怪物には苦戦していた。

 このダンジョンボスの厄介な性能はそれぞれダンジョンの階層によって異なる。上に行くほど強いだとか、下ほど強いわけではなく、それぞれ強さはばらばらである。一部ではあまりの強さに禁止級ダンジョンボスと呼ばれ、階層への侵入が禁止されている場所も存在していた。


大剣で応戦していた茶髪の前髪を分けた男から怒声が飛ぶ。


「くそが! キリがねぇぞ!」


このダンジョンボスは再生の性能があるらしい。フレイも後方で動きを分析しながら次々に紙のようなものを飛ばしてくる怪物の攻撃を間一髪、剣で薙ぎ払っていたが、とどまることはない。都合のいいことにはこのダンジョンボスは足がないため、その場から動くことはなかった。


(でもジリ貧だ。結局、この動きが続けばこちらが疲労で敗北する可能性まで出てくる)


 これまでの戦闘からの予測ではあるが、フレイは目の前で同じく戦っているパーティのメンバーに呼びかけた。


「どこかに切り落とすべき弱点があるはずです!永遠に再生することはありえません!」


 その言葉に一言「了解」と言う声と舌打ちが聞こえる。カタリ、という固い何かが地面にぶつかったような音も聞こえてきた。


 怪物にフレイは目をやり、もう一度分析する。


 そこで彼はあることに気づいた。右腕である。上半身のみの体にもかかわらず、攻撃があふれ出ているのは右腕を除いた体からなのであった。そしてその右腕に注釈すると、妙に怪物を覆う全身の紙が分厚くなっていることに気づく。


そこで頭によぎるイメージがあった。


(あの腕の下には何かがあるような。)


 フレイはそう感じるなり、パーティのメンバーに呼びかけた。


「右腕だ……! この怪物は右腕に弱点がある!」


 その声に従い、パーティのメンバーは次々に攻撃を仕掛けていく。

 だが、彼らが右腕に飛び込もうとしているのは、この怪物も読んでいたらしく、それを見越した攻撃を仕掛けてくる。次々に飛ばしてきた紙の攻撃とは別に腕のように巻かれた紙を扱い、鞭のようにしならせてきた。


 飛び込むことのできないパーティメンバーの面々を見て、フレイは後方から駆け出すと、次々に攻撃をかわし、持っていた短剣を最も紙が分厚くまかれていた右腕、その手首に飛び込むように振り下ろす。その瞬間、その手首がきれいにちぎれた。そして、怪物の体はパッと、粒子のようになって消失させていった。


(ドロップアイテムはなし……か?)


 人はフレイのことを予言士と呼ぶ。

 通常ギルドからパーティメンバーに与えられるジョブと呼ばれる役割は三種類。

 それぞれカテゴリー1,2,3と呼ばれている。カテゴリー1に該当するのは剣や槍などの近距離戦闘。カテゴリー2に該当するのは弓が該当する遠距離戦闘が中心。カテゴリー3に該当するのが、その他である回復などの後方支援となっている。フレイはカテゴリー1に所属しており、近距離戦闘もできる体でありながら、先述の予言を活かした後方支援も行えるようになっている。


 ダンジョンボスを倒した瞬間、フレイの着ていた装備のポケットに何かが入る感触があったが、それを彼は気にせず、周囲で座り込んでいたパーティのメンバーのもとに駆け付けた。


 周囲に座るメンバーは男女3人。

 カテゴリー1に該当する茶髪、センターパート細身の男デロはフレイの姿を見るとキッとにらみつけてきた。左目の代わりに石が埋め込まれていた。それ以外にも首辺りに石が現れている。


「なんだ、手柄自慢か?」


「いや、違うよ。そのケガないかなって」


「……うるせぇ」


 彼はその一言だけ返答する。隣にいる長い黒髪の少女カテゴリー3に属し、回復を担当しているリラは彼の肩を支えていた。彼女はその頭の一部が石のようなもので覆われている。体は線のように細く、目の下にはクマも見られ、どこか不健康そうにも見えた。その表情を伺うが、彼女は何も答えず、表情も笑みも怒りも見せず、虫でも払うように手を振った。


 体を地面に預けていたもう一人の金髪碧眼かつ筋肉質の男、カテゴリー2に属しているアスラはこちらに目を向ける。彼もまた頬のあたりに石が溢れかえり、それは大きな出来物のようになっていた。だが、彼はこのSランクパーティの顔ともいえる存在であり、その顔の整っていることと言えば、ギルド内にファンもいると聞いたことがある。


 彼はこのパーティのリーダーであり、アスラパーティと言うのも彼の名前からとられたものだ。


「俺は大丈夫だが、フレイはどうだ?」


 彼は遠距離戦闘が中心とはいえ、今回のダンジョンボスも遠距離攻撃を持っていたこともあり、全身に傷を作っていた。ただ、それでも彼は心配してくれるのか、とこのパーティの温かさに救われる。僕が返事をしようとしたとき、遮ってデロがやってきた。


「ダンジョンボスを破ったんです。奥に何かあるはずですよ。向かいましょう」


 話の腰を折られたが、アスラは彼に優しく微笑んだ。


「あぁ。そうだな」


 アスラ、デロ、リラ、三人が先行して後にフレイがついていく。

 その態勢にはフレイ自身距離をとられているような感覚が芽生えてきていた。しかし、フレイのことをスカウトしたのはアスラであり、彼のことをフレイは信頼していた。


 先ほどのダンジョンボスのいなくなった奥には扉がある。

 この扉に三人が触れようとしたとき、あることにフレイは気づいた。


 扉の前である。

 足跡。

 奇妙であった。

 なぜ、ダンジョンボスが倒されてなかったにもかかわらず、扉の前に足跡があるのか。そして、その足跡というのは普段自分たちが履いている靴であることも。またイメージがフレイの脳裏に飛び込んでくる。そこでは三人が血まみれで倒れている姿があり……。


 フレイは彼らが開く前に止めていた。


「ちょっと待ってください!何か嫌な予感がします!」


 目の前の三人は足を止める。

 アスラだけが振り返った。


「どうした?」


「この場所に足跡があります。僕たちの物ではありません。しかもこれは新しいものです。それにもかかわらず何一つ報告がないのは……」


 そこで背中を向けていたデロが声を荒げた。


「だから何だよ!」


「え?」


「なんなんだよ!お前は!予言士?ふざけた名前で呼ばれやがって」


 彼が振り返り、分けている前髪が揺れる。

 その右目を覆っている岩が輝いたように見えた。


「お前は分からねぇだろうなぁ。人間とレアの民族のハーフで優遇されてるんだろ? あぁ?」


「何が分からないのさ。僕はみんなが死なないように……」


「イラつくんだよ!てめぇ!」


 そのまま彼はフレイの胸元をつかみかかってきた。


「こっちはなぁ、早く権力を手に入れてぇんだよ。人間を正当にぶっ潰せるなぁ。それをお前は邪魔するのか?あぁ?」


「違います。僕はみんなを助けようと」


「俺たちの気持ちなんてわかんないだろうなぁ! 姉は英雄扱いで人間に優遇されていたみたいだしなぁ!」


 その言葉に僕は何も言えなくなってしまう。さらに彼は続けて言った。


「お前はほんと、リーダーがいなかったらとっくの前に追放されてるんだよ!」


 その言葉にフレイの血の気が引いた。

 だが、そこで隣にいたアスラはフレイの肩に優しく触れる。


 何を言われるかと顔をあげたが、彼は泣きそうな顔をしていた。

 そしてそのまま、フレイを突き飛ばす。


 それから一言。


「フレイ。お前はここで追放だ。ダンジョンボスを倒したにもかかわらず、そんなことを言うなんて信じることはできない。みんなで喜びを分かち合わなければならないのに、だ」


「そ、そんな……」


 うろたえるフレイはアスラに目を向けるも、その表情は固くフルフルと震えながらも、その唇の端が結ばれていた。何も返答する気がないのだろう。そのひしひしと伝わる本気さがフレイを絶望に叩き落した。リラはちらとこちらを見ただけで、何も言うことはない。追放することに肯定なのだろう。さらに追い打ちをデロはからかうような口調で言った。


「お前は、姉と同じように一人で戦うのがお似合いなんじゃねぇの?」


 フレイは言い返そうとして、何も言えず、視線が揺れ、トボトボと来た道を戻っていった。


【あいさつ文】

 お世話になっております。やまだしんじです。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。よろしければ、作品のフォローや↓の☆☆☆を★★★にする、または感想や応援レビューなどをしてくださると大変うれしいです。執筆のモチベーションにもつながります。

 これからもよろしくお願いいたします。



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