10話 カラオケ
10話 カラオケ
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懐かしい。
ひまわりとカラオケに来るのなんていつ以来だっけ。
ひまわりと密室に2人っきり……
カラオケってそう言うことに使う人たちもいるっていうし、ちょっとドキドキしちゃう。
でも、カメラついてるんだよね。
店員どもにひまわりの裸を?
許せん、そんなことあっていいはずがない!
「おねぇちゃん、さっきからソワソワしてどうしたの?」
「え? なんでもないよ。それで、話したいことって何?」
「それは……ほら、せっかくカラオケに来たんだしまずは歌おうよ。おねぇちゃんの歌久しぶりに聴きたいなぁ」
気になるけど、まぁ自分のタイミングってあるしね。
それにせっかくカラオケ来たんだし、歌わないと損だよね。
おねぇちゃん歌にはちょこっとだけ自信あるんだよ。
プロにはなれなかったけど、素人にしては上手い方だから。
多分……
「よーし、ひまわりにいいとこ見せちゃうぞ」
「よ、待ってましたー」パチパチ
「どれ歌ってほしい?」
「なんでもいいの?」
せっかく聞いてもらうなら、ひまわりの好きな曲歌いたいしね。
ここで自分の好きな曲歌っちゃう人とか、デートでカラオケ行くのやめた方がいいと思うんだよね。
こういう場合相手に合わせるのが鉄則でしょ?
2人でのデュエットとかもいいけど、それこそ相手がその曲知ってないとあれだしね。
童貞君、君に言ってるんだよ?
友達と来るのとは違うんだからさぁ。
「うん、一回聞けばどんな曲でも大体歌えるからね」
「さすがおねぇちゃん。じゃあ、これ歌って欲しい」
「へぇ、最近はこう言うのが人気なんだね」
「うん、めっちゃ流行ってるんだよ。おねぇちゃんはあんまりネットやらないから知らないかもしれないけど」
ネットやらないわけではないんだけどね。
ちょっとこっち方面への知識が薄いだけで。
再生回数が億単位って、本当にすごいね。
単純計算だと日本人全員が聞いて、それでも足りないじゃん。
もちろんファンが何回も繰り返し聞いてるんだろうけど、それでもねぇ。
やっぱ特別な人っていうのは違うんだね。
わたしなんかとは大違い。
わたしが投稿した動画とか、全く再生されなかったからね。
あの時は神様に自分の体の使い方とか教わって、色々と分かって壁を越えたつもりになってたんだけどなぁ。
結局、才能のない人の分かったは何も分かってないってことなんだよね。
……
「ちょっと、なんでスマホなんて構えてるの?」
「せっかくだから、撮っとこっかなって」
「せっかくって何よ」
「久しぶりだし、いいでしょ?」
「まぁ、他の人に見せないでよね。恥ずかしいし」
「もちろん」
ひまわりがスマホを構えて録画体勢に、いや別にいいんだけどね。
ただ、ちょっと恥ずかしいっていうか。
それになんか、
……
あぁ、どこか懐かしいなって思ったらそっかさくらちゃんか。
よくわたしのことを撮ってた気がする。
わたしもノリノリで歌って、踊って……
あの頃はなんでも出来る気になってたっけ。
……でも、今がそう悪いとは思わない。
だって、
「ん? なーに」
「なんでも」
わたしにはひまわりが居るしね。
「いくよー、盛り上がって行こう!」
「おー!」
~~♪
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~~♪
決まった。
我ながら、結構いい感じに歌えたのでは?
ドヤ
「おねぇちゃん、やっぱり歌上手いよね」
「そう?」
「うん、誰よりも上手いと思う」
「言い過ぎだって」
でも、そう言われて悪い気はしない。
わたしの歌を聞いてひまわりが目をキラキラさせてくれるのは、とっても心地良いし心から誉めてくれてる感じもするし。
こういう場で歌う歌にはコツってものがあってね。
この曲が好きだって言ってる人の前で歌う時は、本家を完コピするぐらいの勢いで似せて歌っちゃうのが大事なの。
オリジナリティーがない? そんなの知らない子ですね。
完コピなら誰でも出来る? うるさい、わたしはどうせ平凡だから良いんだよーだ。
アイドルとしては物足りないけど、歌の上手いおねぇちゃんとしてはこれぐらいでも十分胸張れるよね?
……あれ?
ひまわり、そんな顔してどうしたの?
「……私は本当にそう思ってるんだよ? 本当に誰よりも上手いって、それこそ」
「別に、そこで言葉止めなくても良いよ。それ話したいことなんでしょ?」
「うん。あ、これだけじゃないんだけど……でも」
「大丈夫だから、」
「おねぇちゃん、アイドル本当にもういいの? 私はさくらちゃんよりおねぇちゃんのほうが……」
……
そっか。
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、実際はそんなことはないからね。
やっぱり親しい人のことはどうしても過剰評価してしまいがちになるのかもしれない。
そう思ってくれてること自体はわたしも嬉しいけど、そうじゃないことはわたしが一番分かっているから。
「それは、きっとひまわりがわたしの妹だからそう感じるだけだよ」
「そう、かな?」
「実際、オーディションも私は落ちちゃったしね。あんな今トップを走ってる人と比べること自体烏滸がましいよ」
「オーディションは……そう言うこともあるんじゃない? それこそ運が悪かっただけかもしれないし」
「そうだね。今売れてるアイドルでも何度もオーディションに落ちたって人はいるし、落ちたからそれでおしまいって訳ではないとは思う」
「なら、もう一回ぐらい挑戦してみても……」
確かに何度も受ければもしかしたらわたしでも受かるかもしれない。
オーディションを突破して、アイドルになれるかもしれない。
でも、もうそれに意味はないんだよ。
その理由も無くなってしまったし。
だって、わたしは特別ではないのだから。
夢……
もしアイドルとしてトップに立てるかもしれないのなら、きっとわたしは諦めなかった。
それに、トップに立ったわたしの元に神様が戻ってきてくれるなんて甘い妄想も何度も繰り広げた。
それは結局不可能なんだ、どのみちわたしには才能とやらが足りていない特別足り得ないのだから。
ただのアイドルになってもなんの意味もない。
「どっちみち、わたしはトップにはなれないから」
「……おねぇちゃんはずっとアイドルになりたかったんでしょ? 諦めちゃっても良いの?」
「違うの」
「え?」
「こんなこと言うのおかしいって思うけど、私はアイドルになりたかった訳じゃない。トップアイドルになりたかった、トップになれないのならアイドルをやる意味なんてない」
「……」
頭おかしいと思うよね。
こんな夢、自分でもどうかと思う。
でも、物心つく前からの夢で神様も背中を押してくれた夢だから……
だからこそ、中途半端にアイドルになろうなんて思うこと自体がもう出来ない。
アイドルになるなら、絶対にトップになる。
そうなれるビジョンが浮かばないのなら、アイドルになるなんて選択肢はあり得ない。
昔はただがむしゃらにトップアイドルになりたいなんて言って、本当に目指していた。
でも、今は現実が見えてしまったんだよ。
IFがあったら、
初めからただアイドルになりたいだけだったら
オーディションに落ちた時、神様がもう一度と言っていたら
わたしが愚かなまま現実なんて物に気が付かなかったら
結果は違ったのかもしれない。
今でもオーディションに挑んでいたのかもしれない。
もしかしたらアイドルをやっていたのかもしれない。
でも、わたしの夢はトップアイドルだった。
でも、神様は諦めてわたしの前から姿を消した。
でも、わたしは現実を知ってしまった。
だから……
神様もわたしも、さくらちゃんに負けたんだ。
神様はわたしのせいで、わたしは自分のせいで
……
「あ、ごめんね。ひまわりは何も悪くないのに、八つ当たりみたいに」
「うんん、いいの。そっか……おねぇちゃんは、新しい夢はあるの?」
「もちろん。いっぱい迷惑かけちゃったら、良い大学出て良い企業に入ってお母さんに恩返ししてひまわりにも……」
「違うの。そう言うのじゃなくて、おねぇちゃんの夢」
「わたしのために? 家族のために生きることがわたしの夢だよ?」
こんなわたしを支えてくれたお母さんのために。
こんなわたしを救ってくれたひまわりのために。
もう終わってしまった人生だけど、それが家族のために役に立つならそれ以上嬉しいことはない。
そう思わない?
「わたしはさ、おねぇちゃんのこと天才だと思ってるんだ」
「そう? 天才かぁ、ちょっと照れるね」
「けど、バカだよね」
「ひどくない?」
どゆこと?
確かに天才とバカは紙一重ともいうけど、その紙貫通しちゃったの?
それ混ぜてもいいの?
樽一杯のワインに一滴の泥水を入れればそれは樽一杯の泥水になるって言うし、それ混ぜたらただのバカにならない?
「もし、もしだよ。今でもアイドルとしてトップになれるかもって思えたら、アイドルをもう一回目指す?」
「そんなこと、あり得るわけないじゃん」
「もしもの話だよ」
「もしそうなったら……」
そんなこと起こりうるわけない。
でも、もしもの話。
仮定の話だ。
わたしがトップアイドルになれるかもしれない、そう思えたとしたら……
当時は無知で何も考えていなかった。
アイドルになる、それはきっとお母さんにもひまわりにも大きな迷惑を掛けることになる行為だ。
家族が芸能人になるっていうのは、そう言うことだ。
でも、それはわたしの夢で、
神様との約束で、
それにもしかしたら神様が戻ってくるかもしれなくて、
……
「うん、きっとやるだろうね」
「そっか……。たとえばさ、歌ってみたとかやってみない?」
「え?」
「おねぇちゃんめっちゃ上手いから、もしもうアカウント持ってるなら今撮った動画上げるだけでも良いから。それだけで、もう一瞬で……」
「……」
歌ってみた?
う、頭が……
「おねぇちゃん?」
「私の黒歴史」
「え?」
「一度投稿してみたけど、全く伸びなかった」
そう、あれは確かオーディションが終わってから少し経った頃。
その日、テレビでアイドルが話していたとあるエピソードにわたしは多大な影響を受けた。
当時のアイドルになる気満々でオーディションに落ちるとは思っていなかったわたしはそれを真似たのだ。
実はこの有名な動画アイドルになる前にわたし撮ったやつで……というエピソードトークをしたいとかいう意味わからない動機で動画を投稿してしまった。
そして、全く伸びなかった。
本当に、当時のわたしは何を考えているのだろうか。
そもそも才能のある人間が本気で取り組んでも芽が出ないことが余裕である世界で、片手間でしかもそんな邪な考えで撮った動画が再生されるなんて妄想も良いところだと思う。
完全に黒歴史だ。
小学生だったけど、完全に厨二病だったと思う。
自分のこと特別な人間だと思ってたし。
「……そんなことないんじゃない? 後からバズったりとか、最近確認したりした?」
「もう見たくない。一度見たっきり封印してる」
「私が代わりに見てあげるからさ、ちょっとスマホ貸して?」
「……うーん」
「せめてタイトルだけでも、ね?」
「あんなマイナー動画見つかる訳ないよ。それにやっぱりひまわりには見られたくない、恥ずかしいし……」
「……そっか」
ひまわりにわたしの黒歴史を見られるなんて……
引きこもり時代見られてるからよゆーって? そんなことはない。
あの黒歴史はひまわりが凄いって言ってくれてた、憧れてくれてた時代のおねぇちゃんの黒歴史だから。
これ以上わたしの株の評価値を落としたくはない。
妹的には、オーディションに落ちたショックでちょっと塞ぎ込んじゃってたおねぇちゃんで済んでいて欲しい。
それでも致命傷だけど。
でも、オーディション前イキっててその後落ちて引きこもるなんてそんなのカッコ悪すぎるし。
「ならさ、私と一緒にやらない?」
「え?」
「こっちも今日話したかったことなんだけど……さっきは恥ずかしくて誤魔化しちゃったけど、私Vtuber始めたんだよね」
「え?? だって、めっちゃお金かかるって」
「だからずっと貯めてたお年玉もうすっからかんだし、クリスマスも誕生日もしばらくないんだ」
そっか、いつの間にかそんなことを……
何が夢に挑戦できるうちに挑戦しておいて欲しいだよ、ひまわりはそんな余計なお節介されるまでもなく自分で動いてた。
自分のできる範囲の全力で、夢に挑戦していた。
好きなことに、憧れに挑戦する。
そして実際にその舞台に立ってる。
やっぱりひまわりは凄い。
でも、だからこそ……
「せっかくひまわりがやりたくて始めたことなんでしょ? そこでわたしが迷惑を掛けるのは……」
「違うの、私を助けると思ってさ」
「助ける?」
「家族が出るのって、Vtuberじゃ人気ジャンルなんだよ」
「え? そうなの?」
そんなことってある?
家族って言ってもただの素人だし。
そういえば有名人の家族が出てくる番組とか、それこそ昔の友達が今何してるか見にいく番組とか……
確かに、テレビでもたまに見るような気はする。
でも、Vtuberってそういうものなの?
もっとこうアニメ的というか、ファンタジーというか。
って、わたしがVtuberのことでひまわりに敵うわけないか、ひまわりがそう言うならそういうことなんだろう。
「これ見てよ」
「あ、さっき見てた動画。これがひまわり?」
「そうそう」
「5万再生って、凄いね」
「切り抜きだけどね」
見せてくれたのは、ひまわりがVtuberをやっている動画だった。
向日葵(ひゅうがあおい)、これがこのキャラクターの名前か。
ひまわりの声がして、それに合わせてキャラクターが動いている。
ひまわり以外からひまわりの声がするって違和感がなんか凄い……
そっか、こう言う感じなんだ。
つまり、このサイトでひまわりの声がずっと聞けるってこと?
すごい。
大人気間違えなしだね。
……って、これ
「あ……、これ邪魔しちゃった感じ?」
「うーん、私も別に事前に言ってなかったし。それに結果としてはこれで良かったのかなって」
「ん?」
「きっと、ただやってても伸びなかっただろうから」
「そうなの?」
「そう。だからさ私を助けると思って、ね?」
Vtuberっていうのも大変なんだね。
って、それも当然か。
人気ってことは始める人も多いってことだからね。
お金は結構掛かるみたいだけど、お金さえあれば始めることは出来る。
数十万円ってお金は大金だけど、その気になれば学生にも準備できてしまう。
その分ライバルも増えれば必然的に埋もれやすくなってしまうってことか。
そんな中で伸びてるなんて、流石はひまわり。
正直こんなトラブルなくても伸びたと思うけど、わたしが少しでもプラスに働いたのならそれは良かったのかな?
それに、せっかくのチャンス掴まないのは勿体無いからね。
ちょっと恥ずかしいけど、ひまわりの頼みだし……
「いいよ」
「ありがとう」
「でも、何するの?」
「自然にしてくれるだけで大丈夫、おねぇちゃん面白いし」
「それ誉めてる?」
「後はさ……、たまに一緒に歌ったりとか」
「……それは」
歌、か。
ひまわりの頼みだし
でも……
「やっぱりダメ、かな?」
「知らない人の前で歌うのは……ね」
「……もし仮におねぇちゃんの歌が上手くなかったとして、Vtuberの家族にそんな高レベルな事とか求めると思う?」
「確かに、」
「そうそう、推しが家族と一緒に楽しそうに歌ってるっていうのが大事なんだから。まぁ、おねぇちゃんならあっという間に視聴者の心掴んじゃうだろうけどね」
……そうだよね。
ただ気楽に歌うだけで良いんだ。
別にアイドルになるわけでもVtuberになるわけでもない。
わたしは、Vtuberの家族でしかないのだから。
今回のレベルでいい。
上手いおねぇちゃんレベルで十分。
誰も期待なんてしていないし、誰もガッカリなんてしない。
……でも、
「それでさ、もし自信ついたらもう一回アイドル目指してみない? アイドルじゃなくてVtuberに興味持ったら、おねぇちゃんもVtuberやってみればいいしさ」
「……それは分からないけど、でもひまわりのためなら頑張るよ」
そっか、
そんなこと多分起こらない、だって皆んなわたしに期待していないってことは見てもいないのだから。
でも、ひまわりが応援してくれてるんだ。
なら少し歌うぐらいは良いのかな?
今すぐは無理だけど、でも……
もうとっくに諦めてしまった夢だけど、それぐらいは良いでしょ?
わたしも夢を見てよかったなって、この夢を見てて悪いことばかりじゃなかったなって思うぐらい。
夢を諦めることと、何もいい思い出がないことはイコールではないと思うから。
「……おねぇちゃん、ごめん」
「え?」
「私のために無理言ってない? やっぱり、もし嫌なら別に無理強いするつもりはなくて……」
「そんなことないよ。それに、ひまわりがわたしのことそんなに考えてくれててそれだけで嬉しいから」
「そう?」
「ただ、歌うのはちょっと先かな」
「そっか……」
雰囲気が暗くなっちゃった。
って、わたしが悪いんだけど。
「よーし、次の曲行っちゃおっか! 何歌う?」
「……。おっけ、せっかくだし一緒に歌おうよ」
「良いねぇ、デュエットいっちゃう?」
「これとか?」
「あ、じゃあ一回曲聞くからちょっと」
「大丈夫、おねぇちゃんなら初見でもいけるって」
「あっ、」
「押しちゃった」てへ
「もう、しょうがないなぁ」
~~♪
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【姉妹コラボ】初配信で事故ったVtuberがいるらしい【新人Vtuber】
104人が待機中 ○月○日20:00に開始
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Aoi ch/日向葵 チャンネル登録
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