6話 先輩
6話 先輩
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さくら、ちゃん……
「ごめん……、ちょっと考えさせて」
「あ、おねぇちゃん」
「……」
ごめん、ひまわり。
今はちょっと頭が混乱してて、だから……
そんな顔しないでよ。
大丈夫、こんなことでまた引きこもったりなんてするわけないじゃん。
ただ少し時間が欲しいだけだから。
私にとって、さくらちゃんってなに?
……友達、だった。
初めは何かと小言を言ってくるお節介なクラスメイトだった。
わたしにとってクラスメイトとは、特に私に干渉することもなくそれでいて文房具を忘れたり喉が乾いたなぁって思った時、鉛筆や飲み物をくれる便利な存在だった。
だから、何かと干渉してくるさくらは私にとっては異質な存在だった。
初めて小言を言われた時は”えっ……?“って思ったけど、神様も否定しなかったからそのまま受け入れていた。
そして、いつの間にか目で追うようになっていた。
さくらちゃんは普段1人でいる私とは正反対で、いつもクラスの中心で常にみんなに囲まれていた。
さくらちゃんは、たまにひまわりが言っているコミュ強ってやつなのだと思う。
いつの間にかわたしはさくらちゃんといろんなことを話すようになっていた。
わたしはお母さん以外とまともに会話をした事が無かったんだって、その時気が付いた。
普段のわたしは必要なら最低限話して、それ以外はずっと黙っていた。
それで困らなかったから。
でも、それは会話じゃない。
会話っていうのは、必要なこと以外も話してどうでもいいことばかり話してとっても楽しいことなんだ。
みんながくれるからって、当たり前のように物を貰い続ける事はいけない事なんだって知った。
その貰った物にはお金がかかっている。
お金のかかった物をを渡すという事は、そこにはそれなりの想いが乗っている。
そんなの少し考えれば分かる事なのに、わたしは大量のそれを考えなしに受け取って特に感謝もしていなかった。
向こうが勝手にくれた物だからって。
……神様も教えてくれなかったことばかりだ。
それから、もっと仲良くなって気が付いたら常に一緒にいるようになっていた。
放課後も、休日も、一緒に遊んでとても楽しかった……
カラオケでアイドルして踊りながら歌って、さくらちゃん褒めてくれたっけ”わたし、ゆりの歌も踊りも大好だよ“って。
わたしには友達というものがいなかったから、さくらちゃんはわたしに出来た初めての友達だった。
……そして、さくらちゃんをオーディションに誘って私だけ落ちた。
さくらちゃんは今テレビでスターになっている。
それはわたしの夢だった。
『私、トップアイドルになりたい!!』物心ついた時にはそんな言葉が頭の中を反芻していて、わたしはそうなることをずっと夢見ていた。
でも、それはもういいんだ。
わたしには無理なことだってわかったから、わたしにはわたしの大切なモノがあってそれが全てじゃないって気づけたから。
わたしって、さくらちゃんのことどう思ってんだろう。
憎い?
わたしから神様を奪ったことが、神様がいなくなるきっかけを作ったことが……
そんな事、ない。
初めは少し逆恨みのようなことも思っていたかもしれない。
そもそも神様がわたしの元から去ったのは単にわたしに失望したからで、そこにさくらちゃんは関係ないのに。
ただ、わたしが情けない姿を見せたのが原因なのだから。
さくらちゃんに憧れもした。
わたしがさくらちゃんみたいに特別だったらって、そう思ったことは何度もあった。
でもそれは変わる事なんてない。
わたしは特別じゃなくて、さくらちゃんは特別で……
それが事実だ。
恨んでいるわけでもなく、嫌いなわけでもなく、一方的にただ会いたくなかった。
友達の資格がないなんて言葉を言い訳に使って。
いや、本当にそう思っていたけど本心はきっとそうではなかった。
だって会ったら、もし友達に戻ったら……
きっと神様のことをたくさん思い出してしまうから。
さくらちゃんと遊んでいた時、そこには常に神様がいた。
その思い出には神様との記憶がたくさん詰まっている。
もう戻ってくることのない神様の記憶、だから会いたくなかった……
だから、ひまわりなの?
神様と一緒にいたころほとんど関わらなかったから。
関わらなかったけど、家族で長い時間一緒にいたから。
神様との記憶を思い起こさせない、これからずっと一緒にいてくれる。
ひまわりに神様とさくらの代わりを……
違う、そんなことない。
代わりなんて求めてない。
ひまわりは私が落ち込んでいた時、励ましてくれて無理矢理にでも外に連れ出してくれた。
それがなければ、もしかしたら私はまだ部屋から出られていなかったかも知れない。
わたしはずっと引きこもって、きっと家族にたくさんの迷惑をかけていた。
引きこもっただけで迷惑をかけていたと思うけど、それ以上に沢山の……
だから、情けないおねぇちゃんに笑顔で手を差しのべてくれた妹のために。
ひまわりのために、もう少し頑張ろうって思ったんだ。
ひまわりのために……ひまわりが仲直りして欲しいって思っているのなら。
メアド教えてほしい、か。
さくらちゃんにとっての私ってなんなんだろう。
さくらちゃんとわたしは確かに友達だった。
でも、わたしにとっては唯一の友達だったけどさくらちゃんには他にも沢山の友達がいた。
さくらちゃんにとって、わたしは大勢の友達の内の1人に過ぎなかったと思う。
わたしのことまだ気にしてくれてるのかな?
勝手な都合で一方的に離れていったわたしのことを。
さくらちゃんは優しいから、きっと……
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うぅぅ~、眠い……
考え事しすぎて、結局昨日は一睡も出来なかった。
結局何も決められなかったし、わたしは一体何をしていたんだ……
朝ひまわりに起こして貰えなかったら、絶対遅刻してたよね。
ひまわりは昨日のこと聞いてはこなかったけど、やっぱり気にしてはいるよね?
さくらちゃん、家で遊ぶうちにいつの間にかひまわりとも仲良くなっていたみたいだし……
やっぱり、心配なのかな?
って、また同じようなこと考えちゃってる。
答えの出ない思考が頭の中をぐるぐると……
「はぁ……」
「ゆり、大丈夫?」
登校初日からクラスの真ん中でこんなため息ばっかついてたらそら心配されるよね。
別にかまってちゃんアピールしたかったわけではないし、人に相談するようなことじゃないんだけど……
ここは適当言って、
「……だれ?」
声を掛けられた方に振り返ると、見知らぬ人がわたしの事を心配そうに見ていた。
……あれ?
クラスメイトの誰かだと思ったんだけど、多分違うっぽい。
制服を着てるから一応うちの学校の生徒ではあるんだと思うけど、わたしのこと知ってるっぽいしどっかで話したことあったっけ?
入学してからクラスメイト以外と会話した記憶が……
いくらクラスメイトの顔と名前が一致しないと言っても、流石に同じクラスかどうかの判断ぐらいはつくし……つくよね?
でも、どこかで見た様な気がするんだよなぁ。
何と言うか、纏っている雰囲気に何となく覚えがある様な。
いま向き合ってみるとそんなことない気がしてくるんだけど、声を掛けられた時は確かに懐かしさの様なものを……
いや、単純にクラスメイトが夏休みでめっちゃイメチェンしたとか?
夏休みマジックなるものもあるらしいし。
それなら区別つかないかもだけど、教室を見渡してみた感じ夏休み前とそう変わらない風景に見える。
強いて言うなら運動部やってる男子が真っ黒に焼けているけど、それぐらいだ。
進学校だし、まだ一年だし、そういう生徒はいないらしい。
……え?
本当に、だれ?
「あ、そうだった。はじめまして、すみれだよ仲良くしてね」
「は、はじめまして……」
「敬語なんて要らないよ。私とゆりの間に遠慮は無用だから!」
「……よろしく」
「うん! よろしくね、ゆり」
あ、はじめましてだったのね。
色々考えてたわたしがバカみたいじゃん。
初めましてなのに“私とゆりの間に遠慮は無用だから!”って……
手を差し伸べられたので握手に応えると腕をぶんぶんと振り回された。
ちょっと痛いんだけど?
そういう些細なことはあまり気にしないようで、本人は実に満足気な笑みを浮かべている。
……随分と押しの強い人だ。
こんな人と会ったらさすがに忘れないだろうし、さっきのはきっと気の所為だな。
自分そっくりな人間が世界には3人いるっていうし、ただ似てる人間ならもっといるのだろうからどこか覚えがあったのはきっと気の所為他人の空似ってやつかな。
っていうか、同じ学校通ってるんだしクラス違くても見覚えぐらいあっても何もおかしくないよね。
この人は、わたしの顔と名前が一致してたから初対面でいきなり名前呼びしてきたわけだし。
「それで、ゆり何か悩んでるんでしょ。当ててあげよっか?」
「え?」
「ズバリ、お金のことでしょ!」
「いや、違うけど?」
一瞬ドキッとしたけど、全然違った。
みんなには、わたしが何を悩んでる様に見えてたんだろうか?
登校してずっとこんな調子だったからか、周りからそれなりの視線を感じてはいたけど……
この人みたいに見当違いなことだったらいいんだけど、誰かに本当のことバレてたりしたらそれはちょっと嫌だな。
わたしと同じ小学校からここ来たのクラスに何人か居るけど……どうだろう?
わたしとさくらちゃんが仲違いしたのは知ってるだろうけど、それでまだ悩んでるとは思ってないんじゃないかな?
わたし一回引きこもっちゃったけど、その後は問題なく学校きて卒業できた訳だし。
実際ひまわりにメアド教えていいか聞かれるまで別に悩んでなかった……
いや、考えない様にして徐々に考えなくなっていたの方が正しいのかな。
とにかく表面上は気にしてない風を装えていたのだし。
多分、大丈夫。
「……恥ずかしがらなくてもいいよ。私見ちゃったんだよね、中古ショップでスマホと睨めっこしながらジャンク品漁ってるとこ」
「ああ、なるほど。それで私がお金に困ってると?」
「見た瞬間、ピンっと来たんだよね。女の勘ってやつ? 気になっちゃって次の日から中古ショップ回ったんだけど、結局会えなかったんだよねぇ」
「はぁ」
確かにそれ見たならお金に困ってるのって勘違いするのかも?
同じ店で何回か見かければ、欲しいものを探しているわけじゃないことはわかるだろうし。
転売ってものを知ってれば金儲けと簡単に結びつく。
実際店員には「そんなの買って儲かるんですか?」って聞かれたことある。
自信満々に「結構稼がせてもらってます」って言ったら不思議そうな顔されたけど。
って思ったけど、そうじゃないっぽいよね?
一回見かけただけでですか?
わたしがジャンク品漁るのそんなにおかしいこと?
しかも、結局会えなかったのにしっかり信じてるし。
女の勘っていう不確かなものに全幅の信頼を寄せ過ぎなんじゃないの?
「私の家もお金がなくてね、よかったら先輩としてアドバイスできることないかなって」
「いえ、わたしの家は別にお金に困っているわけでは無いので」
「え?」
お金ねぇ。
差し迫って困ってはないけど、新しい儲け方を探してはいる。
困ってるっちゃ困ってるんだけど……
でも、この人の話はどうも違いそうなんだよね。
わたしの家は別に裕福というわけではないが、貧乏というわけでもないし。
結局ただの勘違いだったっていうことで。
これ、何の時間だったんだろう……
というか、先輩だったのね。
敬語の方がいいかな?
今更か、本人が“敬語なんて要らない”って言ってたし気にしてる様子もないし。
「ただひまわりの、わたしの妹に誕生日プレゼントあげようと思ってやってただけだから」
「そんな……せっかく仲間を見つけたと思ったのに」
「仲間って?」
「この学校、お金持ち多くない? 公立なのにお坊っちゃまお嬢様が多くて、会話が全然合わないんだよね」
金持ちって、そんなことないと思うけど。
塾行く人が多いみたいだから、普通の公立よりはお金かかるっていう面で言えばそうなのかもしれないけど。
私立とかよりはよっぽど安いし、お金持ちばかりってのはあんまり感じたことなかったなぁ。
で、この先輩はわたしに自分と同じ貧乏人のオーラを感じてわざわざ探し出して話しかけに来たと。
それ、わたしに対してだいぶ失礼なのでは?
わたしそんな一目でわかるほど貧乏人オーラ出てました?
ただの勘違いだし、
もうすぐ授業始まるし、
なんかノリうざいし、
さようなら、もう金輪際関わることもないでしょう。
「……そろそろ授業始まりますよ」
「ねぇねぇ、妹のためにでも転売やってたってことはさ。お金儲け興味あるんでしょ?」
「もう転売はやめたんです」
え?
粘るの?
まぁ、そりゃ興味はあるけどね。
でも、未成年でできることって限られてるから。
うまいこと見つけた転売もひまわりが嫌そうだったし。
今は大人しく学校の勉強と資格の勉強に注視して、いい大学出ていい資格持って大人になってから稼ぐ。
最近は、結局これが一番いいんじゃないかなって思えてきた。
何事も一般人は真面目に堅実にがベストよ。
「転売なんかより、もっともっと稼げることとか……」
「……え?」
「興味あるよね?」
「それは、まぁ……」
「やった!」
いや、やるとは言ってないからね。
そもそも、本当にそんなものあるの?
疑問でしかない。
未成年にできることってバイトとか、それこそ転売とかぐらいじゃないの?
もっと儲かるって……
それ何かに騙そうとする人の常套句じゃないの?
もしこの先輩の言葉が詐欺じゃないとして、中学生にそんな稼げる手段なんて……
パパ活とか?
いや、それは嫌だよ。
いくらお金稼げると言っても、それって結局ただの犯罪だし。
同じ犯罪ならまだギャンブルとかの方がいいよ。
めちゃくちゃリスク高いし絶対やらないけど、パパ活よりはローリスクだから。
「授業始めるぞー、って“すみれ”なんでお前がここにいる。もう一度1年生からやり直したくなったのか?」
「やば、続きは放課後ね。勝手に帰ったりしたら先輩泣いちゃうんだからね」
「は、はい……」
へ、変な人だったなぁ。
泣いちゃうって言われても、ねぇ。
……
まぁ、話聞くぐらいならいっか。
普段だったら絶対聞かないんだけど、家帰るのもなんか気まずいし。
本当だったら有益だし、嘘だったら指摘でもして憂さ晴らしすればいい。
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