5話 お誕生日
5話 誕生日
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今日は、ついに、待ちに待ったひまわりの誕生日!!
イェーイ、ドンドンパフパフ
今すぐにでも部屋を飛び出してお祝いに行きたいところだけど……寝起きパジャマで行くわけにもいかないもんね。
ひまわりが生まれた、年に一度の大切な記念日なんだから。
大切な日には相応しい格好ってものがあると思うの。
なので、今日着る服を事前にしっかりと準備しておいたのです。
じゃじゃーん、この日のために買ってきたおニューの洋服。
着替えて、
髪を梳かして、
鏡チェック、
オッケー、おかしいとこはない。
普段学校行く時とかは適当なんだけど、今日はそんな訳には行かないからね。
……後で、お母さんにメイク教えてもらおっかな。
そしたら、大切にしまっておいたプレゼントを金庫から取り出してひまわりの元へレッツゴー!
部屋を飛び出したら、目の前にひまわりが!
ひまわりも今ちょうど起きてきたみたい。
事前にポケットに入れておいたクラッカーを鳴らし、
「ひまわり、お誕生日おめでとー」
寝起きに突然大きな音を鳴らされてびっくりしたのか、体の動きが完全に停止して目をしょぼしょぼさせている。
か、かわいい。
じゃなくて、突然驚かせちゃってごめんね。
大丈夫かな?
……でも、やっぱりかわいい。
びっくりして固まっているひまわりにプレゼントを持たせて、記念写真をパシャリ。
眠気まなこで頭にはてなを乗っけてる。
あぁ、ひまわりは本当に絵になるなぁ。
少し待っても再起動しなかったので、背中を押してリビングへ……
そこは見事なバースデー空間。
壁は綺麗に飾り付けされていて、中央には“ひまわり誕生日おめでとう”の文字。
うん、我ながら実にいい出来だと思う。
昨日の夜、ひまわりが寝てから1人で飾り付けした甲斐があると言うものだ。
ひまわりがじとっとした視線をわたしに向けてくる。
あれ?
初めてやった時はめっちゃ喜んでくれたんだけど、回を重ねるごとにジト目が……
「はい、誕生日プレゼント」
さっきは急すぎて持たせただけみたいになっちゃったからね。
黄色の包紙とリボンに包まれたそれを改めてプレゼント。
一緒に買いに行ったやつだけど、一応ラッピングはしてもらった。
雰囲気って大事だしね。
「これ、ずっと欲しかったの。おねぇちゃんありがとう」
「よしよし」
「えへへ」
「喜んでもらえてわたしも嬉しいよ。でも、もっと買ってあげてもよかったのに」
ひまわりの笑顔は万能薬だ。
その笑顔だけで、おねぇちゃんなんでも頑張れちゃう気がするもん。
プレゼント、これだけでよかったのかな?
何個か買ってあげようと思ってたんだけど、一個でいいって言われちゃったんだよね。
ひまわりって結構謙虚、あんまりおねだりとかしてくれないしするときも何処か遠慮がち。
そんなところも可愛いけど、もっともっとおねだりしてくれてもいいのよ?
「ゆり、あんまり甘やかしてばっかじゃダメよ」
「そうだよ。おねぇちゃんはわたしを甘やかしすぎ」
あれ?
なんでわたし2人に怒られてるの?
理不尽じゃない?
「お母さんもひまわりも酷い、わたしの生き甲斐なのに」
「はいはい」
呆れられてる?
なんで?
本当なのにー。
まぁ、やりすぎてお母さんに怒られるのも嫌だし程々にしないとだね。
「おかしなこと言ってないで、ゆりは朝食の準備のお手伝いお願いね」
「はーい」
「あ、わたしも」
「今日はひまわりの誕生日なんだから、主役は座ってゆっくりしてればいいのよ。久々に勉強も休憩するんでしょ? 気分転換よ、気分転換」
「そうそう、息抜きも大事だよ」
ひまわりは最近ずっと勉強漬けだったからね。
誕生日ぐらい気分転換しないとだよね。
せっかくの誕生日なんだし、今日はひまわりの分もわたしがお手伝いしないと。
「あ、そういえば。お母さんからのプレゼントは受験が終わったら渡すからね」
「うん!」
「え? 何もらったの?」
「えっと、……おねぇちゃんには秘密」
「教えてよー」
えー、教えてくれないの?
何貰ったんだろう。
受験が終わってからってことは、ゲームとかかな。
でも、ひまわり結構自制効くから別にゲームも携帯も封印とかしてないんだよね。
って、出来ないなら結局一緒だからってことかな?
……秘密?
「だって、恥ずかしいんだもん」
え?
そう言うこと?
「……彼氏なんておねぇちゃんが許しませんよ!」
まさか、そんな……
ひまわりはまだ小学生だよ?
彼氏なんて早いよ。
それに受験生だし。
受験が終わったら?
……受験が終わるまでは清い関係でいましょう的な?
そんなの許せません!
お母さんも、お母さんです。
なんてもの誕生日に買い与えようとしてるんですか。
そんな、えちえちな下着なんて……
ひまわりにはまだ早いです。
えちえちな下着……
スケスケ?
ひも?
オープン?
えちえちなひまわり、ちょっと見たいかも。
いや、めっちゃ見たい。
こうなったら、彼氏くんを抹殺してわたしが……
「ちょ、彼氏ってなんでそんな話になったの?」
「あれ? じゃあ、えちえちな下着は?」
「そ、そんなんじゃないって。後でおねぇちゃんにも教えてあげるから」
「そう?」
よかったー、彼氏なんて存在しなかったんだね。
……えちえちな下着がないのは残念だけど。
何貰ったのか気になるけど、いずれ教えてくれるならまぁいっか。
無理に聞き出すことでもないしね。
そんなことでひまわりに嫌われたりしたら、おねぇちゃん死んじゃうもん。
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無事プレゼントも渡し、朝食も食べ終え、わたしとひまわりはリビングでだらーんとしている。
こんな時間久々だなぁ。
最近はひまわりがずっと部屋に篭りっきりだったからね。
今のうちに、ひまわりニウムを補給しておかないと。
最近のわたしは、ずっとひまわりと同じ屋根の下にいるのに常にひまわりニウムが供給不足を起こしているのです!
また明日から勉強漬けだろうし、今のうちに貯めれるだけ貯めておかないと。
ぎゅー
「ひっつくなー」
そんな……
ひまわりに抱きつこうとしたら、押し返されてしまった。
そんなご無体な。
今日が終わったらまた部屋に篭っちゃうんでしょ?
ふん、わたしの方がおねぇちゃんなんだからね。
力比べになんて負けないよ。
ひまわりのおててを押し返してぎゅーっと抱きつく。
あぁ、しあわせ〜。
「……おねぇちゃん、暑い」
「確かに今日は猛暑日だしね。冷房下げる?」
「そういうことじゃ……」
「?」
「なんでもない」
どうしたんだろう?
何でもないって言うならいっか。
本当に暑いなら遠慮しなくていいからね。
熱中症とかになったら大変だもん。
記録的な猛暑だとか、年々以来だとか、記録上初めてだとか……
最近、夏になるたびこれだ。
いろんな枕詞つけているが、とりあえず暑いと言いたいことだけはわかる。
と言うか、それ以外よくわからない。
何年ぶりとか言われても、ありすぎて珍しさとか感じないしだからなんだって話だよね。
特に出来ることとかも無いし。
あ、ひまわりは別だよ。
毎日一緒でも見慣れたり飽きたりなんてしないもん。
なんたってひまわりなんだから。
あぁ、いい匂い。
お肌プニプニ。
脈がとくんとくんいってる。
「はぁ……」
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ダラダラとしていたら、いつの間にか外が暗くなって来ちゃった。
ひまわりと一緒にいるとつい時を忘れてしまう。
なぜ、幸せな時間というのは時が流れるのが早いのだろうか。
時間が早くなってる訳じゃないって言うのは知ってるけど、感覚的な問題なら楽しい時間が早く流れるってそれ構造的な欠陥じゃない?
長く感じられるなら長い方が絶対いいよね。
このひまわりとの時間も……
あれ?
くだらないことを考えてたら、いつの間にかひまわりが消えちゃった!
どこ行くの?
ちょっと待ってよー。
「……おねぇちゃん、どこまでついてくるの?」
「え?」
「いや、ここ脱衣所なんだけど」
「そうだけど?」
ひまわりはたまに不思議なことを言うよね。
そんなの見ればわかるよ。
もしかして、おねぇちゃんのことおバカだと思ってる?
これでも学校の成績は結構いいんだからね。
さぁ、お風呂でのんびりしましょう。
ひまわりとお風呂入るのなんて久しぶりだなぁ。
服の上からでも成長してるのはある程度わかるけど、やっぱり直接確認しないと詳しくはわからないよね。
さっき抱きついたら、思ったより大きくなってておねぇちゃんドキドキしちゃった。
「何服脱ごうとしてるの?」
「服脱がないとお風呂入れないじゃん。ほら、ひまわりも」
「……一緒には入らないからね」
「え!?」
「当たり前でしょ」
そんなぁ。
一緒に入ってくれないの?
久しぶりに体の洗いっこしたかったのに。
それじゃあ、わたしのこの気持ちは?
この高鳴った心臓はどうすればいいの?
こんなの生殺しだよ……
「酷い。ちょっと前まで一緒に入ってたじゃん」
「だから、そのちょっと前にもう一緒に入らないって言ったじゃん」
確かにそうだけど……
「ほら、誕生日だし……」
「わたしの誕生日だからね」
「おねぇちゃんの誕生日ならいいってこと?」
「まぁ……それならいいけど。でも、今日はダメ!」
「うぅ……」
わたしの誕生日……
遠い。
「ほらお母さんのお手伝いでもしてきてよ。普段2人いる手伝いが1人減って大変なのに、さらにもう1人も全然機能してないからね」
「あ、確かに」
そういえば今日ずっとひまわりに引っ付いてて、家事を手伝った覚えがない。
お母さんごめんなさい。
どうか、お説教だけはご勘弁を……
今からバリバリ頑張りますので。
「じゃぁ、おねぇちゃんお手伝いしてくるから。お風呂あがったら教えてね、その後入るー」
「うん、分かった。……はぁ」
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「ひまわりー、一緒に寝よ」
「……」
「ひまわり?」
「おねぇちゃん暇なの? 今日朝からずっと一緒にいるし、普段もわたしが部屋の外に居る時はずっと着いてくるし。何かやることとかないの?」
「うーん……」
転売はひまわりが嫌だって言ってたし。
もうプレゼントは買えたからそんな無理して稼ぐ必要も無いしね。
一応、急ぎでは無いけど新しい稼ぎ方を模索中ではあるっちゃある。
言われてみれば、わたしこの夏休みやること無くね?
自分の部屋で資格の勉強とかしながら耳を澄ませて、ひまわりの足音が聴こえたら部屋を飛び出して……
やる事ないけど、幸せな日常だから問題なし!
「無いね」
「……宿題は?」
「もう終わったよー」
「この前まで手もつけてなかったのに……」
だって日中暇なんだもん。
ひまわりは部屋に篭ってるし、転売もやらなくなったし。
時間があったらそりゃ宿題ぐらい終わるよ。
暇すぎて日記も全部書いちゃったもん。
「おねぇちゃん、なんて言うか……うざい」
「え?」
がーん
ひまわりにうざいって言われた。
嫌われちゃった。
どうしよう。
……
え?
これ現実?
夢じゃない?
きっと夢。
そう夢に決まってる。
明日朝起きれば……
「あ、ごめん。言い過ぎた。正気に戻って」
「……」
「……おねぇちゃん大好き」
「わたしもひまわり大好き!」
あれ?
さっきまで悪夢を見ていたような。
何も、思い出せない。
「……でもほらね? わたしも1人の時間とか欲しいし」
「そう、だよね。ごめん」
「うんん、大丈夫。別にそんな怒ってる訳じゃないし」
「……」
……そうだよね。
常に一緒に居られたら嫌な人だっているよね。
現実逃避してふざけてる場合じゃなかった。
ひまわりがちゃんと言ってくれてるんだから、わたしもちゃんと向き合わないと。
わたしそういう感覚あんまりわからないんだよね。
生まれた時から、神様と一緒にいたからかな。
だから、誰かと一緒にいないと不安で仕方ない。
1人っきりでいると、あの感覚を思い出してしまうの。
わたしと神様の間にあった、生まれてからずっとそこにあった繋がりが切れてしまう感覚。
当たり前が無くなった瞬間を……
「そんなに暇なの?」
「暇っていうか、わたしはひまわりと一緒に居たいっていうか……」
ひまわりは神様の代わり?
違う、そんなんじゃない。
ひまわりはひまわり。
わたしの可愛い妹。
誰かの代わりなんかじゃない。
なら、これは間違ってるよね。
……
「おねぇちゃん……、そろそろさくらちゃんと仲直りしたら?」
「え……?」
「あ、別にそんな無理にとは言わないんだけど。でも、さくらちゃんと喧嘩してからじゃんおねぇちゃんがこう……」
「仲直りって、喧嘩とかしてないよ?」
「……そっか、それならいいんだけど」
「……」
「あのね、さくらちゃんがおねぇちゃんのメアド教えてほしんだって。教えていいよね?」
……
さくら、ちゃん……
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