第12話 コンビ二が居酒屋
それでも今日は陽子の企画が通った目出度い飲み会である。気を取り直して水を差してはいけないと明るく振る舞った。でも坂本だけは何かあると見抜いていた。
それから二次会という事になったが限界だった。今日はちょっとお酒が効き過ぎてと言って陽子は帰る事にした。そのまま駅に向かうと後ろから声を掛けられた。
「東野さん、大丈夫ですか」
「ああ坂本さん……いやリーダー気を使わせてありがとうございます」
「本当の事を言うとあんまり酔っていないでしょう。何かあったのですか」
「流石はリーダー見抜かれていましたか」
酔って居ないとは言え、あの時の事が脳裏に浮かび感情が抑えられなくなっていた。もう誤魔化せない、信頼しているリーダーに話を聞いて貰うのも悪くない。近くの居酒屋に一緒に入り、つい本当の事を打ち明かした。そう摩周湖の出来事まで話してしまった。だが坂本は親身になって訊いてくれた。嬉しかった。吹っ切れたつもりでいたがモヤモヤが残っていた。
「摩周湖だって! 驚いなぁ僕の故郷だよ。確かに摩周湖は美しいが、何故か地元では摩周湖をひっかけて魔性湖と言われている。つまりそれだけ神秘的な湖だね。勿論地元民が勝手に付けたのだから誰も知らないけど。これまでも年に数人が飛び込もうとした観光客があるそうだ」
「坂本さん北海道の方なのですか。驚いたなぁ」
「道産子だけど、ただ君が自殺する場所として摩周湖を選んだのは感心しないがね。地元の人間として、機会があったら北海道の魅力を教えてあげたいね」
「すみません。はい機会が御座いましたら、ぜひ北海道の魅力を教えて下さい」
その出来事がきっかけで時々会うようになっていた。
それから陽子の企画通りプロジェクトは動き出した。勿論、駐車場スペースが無い所は外し全国一斉に洋風居酒屋が展開して行った。とは言っても和風と洋風が入り混じったような感じだが、念入りに練った企画は大成功した。ついには新聞にも取り上げられた。
『ある一人の女性の発案でコンビ二が居酒屋を始めた』これは受けた。マスコミに取り上げられ珍しさもあってか行列まで出来るようになった。
まだ入社して一年が絶たないのに陽子は重要なポストが与えられた。同時に給料は歩合制と言っていたが破格の三倍にも膨れ上がった。更に社長賞も出るらしい。
更に一カ月後、陽子と坂本は親密な仲になっていた。
陽子は嬉しくて両親に報告した。会社で大きな仕事をやってのけた事。ただ坂本の事は内緒にしたままだ。報告する時は本当の恋人と呼べるようになってからでも良いと思っている。
「お父さん、お母さん聞いてくれる?」
「なんだい陽子、今日はいつになくご機嫌じゃないか」
いつもは厳格な父だが陽子が真面目に勤めるようになって安心していた。母も知っていた。大きな仕事をやってのけた事を。コンビ二が居酒屋を始めたと。営業部とは聞いていたが、まさか陽子が企画したとはまで知らなかった。
「今回の企画が大成功して給料が凄く上がったのよ。それと入社して一年未満なのに主任になったのよ」
「本当? 凄いわね。流石は私の娘」
すると父がゴホンと咳払いをする。母も分かっていて夫にやきもちを焼かせたかったから。
「ハッハハ私達の娘よ」
「これもお父さんとお母さんのおかげ。それで親孝行しようと思って」
「おいおい親孝行という言葉を知っていたのかハッハハ」
「二人でたまには旅行したら、そうそう北海道はどう。旅費とお小遣いも出すから」
父と母は北海道での自殺未遂の出来事は重く圧し掛かっている、それを敢えて陽子は口に出した事は、失恋の傷が吹っ切れたのだろうか思った。
つづく
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