摩周湖に魅せられて
西山鷹志
第1話 摩周湖に魅せられて 母の予知能力
第一章
私、東野陽子は一ヶ月前に失恋して人生のどん底に落とされました。人の失恋話はよく聞くけど所詮は他人事と思っていました。そして今いやと言うほど失恋の苦しみを味わっています。何もする気にもなりません。このままでは自分が駄目になると全てを忘れてしまいたいのです。
失恋ってこんなに辛いものなのか、更に三ヶ月、未だに心に刻まれた寂しさが私を苦しめるのです。いったい私はどうすれば良いの? 仕事も手に付かず退職しても心は、もぬけの殻。一人っ子の私は家に居ても居場所がありません。いやでも両親とは顔を合わせます。救いは家でゴロゴロしている私を攻めません。それは有難いが心苦しい。
人は失恋したら、どうやってその痛みから逃れられるでしょうか。
失恋したら貴方はその苦しみを忘れるために何をしますか。誰にも相談出来ず、ネットで調べて見ました。するといくつか案がありました。
① じっと時が過ぎるのを待つ
② 友人に打ち明ける
③ 元カレに戻って来てと、頼む
④ 新しい恋人を作る
⑤ 旅に出る
⑤ を除き、どれもありきたりな答えだった。特に③は死んでも嫌と思いました。
④そう簡単に心を入れ代えられたら苦労しない。でも気分転換するのが一番なら旅に出た方がいい。
私は旅に出ることを決意しました。季節は七月、北海道はㇻベンダーが咲き乱れる季節、自然と北海道を選びました。
哀愁漂う摩周湖は失恋した私にピッタリだ。この代表曲に霧の摩周湖があります。もう四十年も昔にヒットした曲で私を含め若い人は知らないでしょう。私が生まれる前の歌ですから。でも私は母の影響で、母が時々口ずさむこの歌が好きでした。それが霧の摩周湖、一番好きなのはこの曲の第二節。いや好きと言うよりも今の自分の心境と同じだと思ったのです。
霧の摩周湖
♪ 霧にだかれて 静かに眠る
星も見えない 湖にひとり
ちぎれた愛の思い出さえも
映さぬ水に あふれる涙
霧にあなたの 名前を呼べば
こだませつない 摩周湖の夜
あなたが居れば楽しいはずの
旅路の空も 泣いている霧に
いつかあなたが 話してくれた
北のさいはて 摩周湖の夜♪
列車を乗り継いで摩周駅から路線バスに乗りました、流石にここではラベンダーは見られませんがダリアやヨツバヒヨドリの花が車窓から見えました。そして目的地の摩周湖。
しかし霧の摩周湖といわれるだけに湖は霧で霞んで見えるだけ。それでも悠然と時を忘れさせるように摩周湖は私の心を捉えました。
摩周湖を見ている内に何故か急に哀愁が漂って来たのです。歌詞にある『あなたが居れば楽しいはずの』その貴方が居ない寂しさは耐えらなくなりました。摩周湖の霧に心を奪われたのか、それとも魔性と呼べるその霧が私を呼ぶのか。つい私はフラフラと摩周湖の展望台にある柵を超えようと、前に一歩踏み出したのです。その時でした。誰かが私の腕を掴み抱き寄せたのです。それは驚いた事に家にいるはずの母でした。流石は母、私の全てをお見通しだったのです。失恋した事も会社を辞めた事も、しかし何故この北海道の摩周湖に立ち寄る事まで知っているとは驚きでした。娘の心まで読めるなんて母には予知能力があるのだろうか。
「おっお母さんどうして此処に……」
「バカな子ね、貴女は何を考えているの、数日前からおかしいのと思って後を追って来たのよ。失恋した気持ちは分からないでもない。でもそれくらいで死を選ぶなんて、人生はこれからよ。まだ若いしこれからも人との出会いが続いて行くのよ。しっかりしなさい」
止めようと思えば家を出た時に止められたはずなのに。何故この摩周湖まで来たのだろう。なぜ止めずに最果ての地まで来たのか。それは止めても無駄だろう、だから気のすむまで見守っていたのか。それだけに、この時の母の形相は凄かった。これは愛情の裏返し可愛い娘のへの愛の叱咤である。こっぴどく叱ったあと母はスッキリしたのか、その後は二人で摩周湖周辺を見て周り、あとは観光みたいになったが母も摩周湖が好きで一度来て見たかったのだろう。母は目的を果たし観光気分、だが私は複雑だった。
私はフラフㇻと摩周湖の霧に飲み込まれるよう断崖絶壁から飛び降りようとした。その時の気分は魔法を掛けられたように、この湖は美しいが余りにも神秘的で人を引き付ける魔力を感じたのです。
「陽子、実は貴女が生まれる前にお父さんと摩周湖に来たのよ。霧の摩周湖の歌がヒットして憧れの場所なの。その時の摩周湖は晴れていて本当に綺麗だったわ。よく言われるけど晴れた摩周湖を見ると結婚出来ないとか婚期が遅れるとか言われるけど、あれは迷信ね。だって私達ちゃんと結婚出来たもの。今回、本当はお父さんと来たかったけど、仕事の都合つかなくて」
「そうなの、お母さんには思い出の摩周湖ね」
「陽子もいつか新しい彼が出来たらくればいいよ。何も摩周湖が悪い訳じゃないでしょ」
「そうね、失恋の傷も此処に捨てて行くわ。そしていつの日か此処に来たい」
つづく
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