第3話 第二の男

「誰かいるんでしょう?試験勉強なんて嘘なんですね」

「友達と一緒に勉強してるんだってば」

「男ですか?」

「さあ、男かもしれないわよ。とにかく切るわね。さよなら」


麻衣はスマホを切ると、クッションの上に投げ捨てた。康博は笑いながら、チーズタルトを麻衣に手渡した。


「ねばったねー、タケオ」

「どうしてあんなにしつこいんだろ」

「麻衣も下手過ぎるよ」

「どうすれば良かった?」

「付き合ってる男がいるってことにすればいいんだよ」

「そんなこと言ったら誰だ、誰だ?ってことになるに決まってるもん」

「そういう時は、架空の彼氏を作って説明しとけばいいんだよ」

「それだと私に好きな人ができた時に困るでしょ」

「そしたら、その彼とは別れればいいのよ」


トゥルルル トゥルルル


「やっだぁ、またきたよ」

「もう電源切っておけば?」

「あったま来た」


麻衣は着信画面も見ずに、スマホを手にして叫んだ。


「いいかげんにしてよ!」

「あれ?」

「えっ?」

「麻衣‥でしょ?」

「あっ」

「澤藤だけど」


同じサークルの澤藤。学部は違うが、麻衣と同じ2年生だ。


「どーしたの?澤藤君」

「てか、何?今の?」

「ううん、なんでもない」

「変な緊張感あったけど」

「なんでもないって。どうしたの?」

「いや、友達と飲んでたんだけど‥もう終電ないから麻衣のとこに泊めてもらおうと思って」

「えー、困る。泊めるのはちょっと」

「そこをなんとか。隅っこの方でおとなしく寝るからさぁ」

「絶対にダメ。そうだ、澤藤君、今どこ?」

「駅からちょっと歩いて来て‥ゲーセンとこ」

「その辺にタケオ君がいるから、探してみて」

「なんで?」

「で、誘って飲みに連れていってあげてよ」

「はあ?あいつ何してんの?」

「もう、しつこくて。ちょっと酔ってるみたいだから、叱ってやってよ」

「なんだ、あいつもフラれたのか。しょーがねぇなぁ。あのバカつかまえて、もう少し飲むか」

「さすが、タケオ君と違って物分かりが良くて助かるわ」

「ケッ、あんなのと一緒にするなよ」

「じゃ、タケオ君に澤藤君が行くって伝えるね」

「この貸しはでかいぞ」


麻衣はスマホを切ると、タケオにメールした。


”澤藤君がゲーセンとこにいる。一緒に飲もうって”


が、間髪おかず麻衣のスマホが鳴る‥


「麻衣さん、どーいうことですか?」

「メール見たでしょ?」

「どうして僕が澤藤さんと飲まないといけないんですか?」

「その台詞、よーく覚えておいてね。そうすると、とても助かるから」

「どうしても会ってくれないんですね」

「そうよ」

「麻衣さんの部屋にいる人、誰です?」

「‥‥」

「彼氏ですか?」

「違うわよ」

「じゃあ、なんでその人は良くて、僕はダメなんですか?」

「彼氏じゃないけど。ある意味、彼氏よりも好きな人なの」

「なんすか、それ?僕は‥」


麻衣はそこでスマホを切った。康博が、蛍光ペン片手に声をかける。


「大変だねぇ、モテる女も」

「タケオ君、しつこすぎない?」

「麻衣に惚れる奴ってみんなこうだなぁ」

「何でかな?」

「それが麻衣の業ってもんだろ。はい、これ次のセンテンス」

「助かるぅ」

「彼氏よりも好きな人‥とまで言われちゃあな」

「先輩、自分の試験大丈夫?」

「俺、要領いいから」


麻衣が笑って、康博のマーキングしたセンテンスに目を落とした時‥


ピンポーン ピンポーン


麻衣の部屋のチャイムが鳴り響いた。


「なんか、鳴ってますけど」


康博の声に麻衣は身構え、入り口のドアを見た。

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