ある夜の出来事 / スマホが語る恋愛百景

麻美拓海

第1話 ながーーーい夜の始まり

夜11時に近い時間だった。


トゥルルル‥


スマホが鳴り出した途端、麻衣の表情は曇った。


「またかかってきちゃった。どーしよう?」

「タケオだろ。出るしかないでしょ」


康博は、明日の麻衣の試験用に入手した英文法のコピーから、目をはなさずに答えた。


「先輩がいること、言っていい?」

「ご自由に。俺、ちょっとコンビニ行って来る」

「じゃ、アイス買ってきてください」

「いいよ」

「ワッフルコーン‥あ、やっぱりハーゲンダッツのチーズタルト!」


麻衣は康博を目で見送り、スマホを手にした。

案の定、タケオの表示。


サークルでは割と仲のいい一つ下の後輩だが、今は正直うざい。

明日は麻衣も康博も試験だ。


麻衣はため息をついて、応答をスライドさせた。


「どうしたんです?かなり鳴らしたのに」

「別に‥それより何よ」

「さっきの電話、まだ途中だったから」

「私はサザンの新譜なんて、どーでもいいんだけど」

「その話はもういいんです」

「じゃあ、何?」

「ずいぶんつれない言い方ですね。この前飲んだ時、あんなに楽しかったじゃないですか」

「それと今日の話は別でしょ?」

「ひどいなぁ。僕は麻衣先輩のこと‥好きなんですよ」

「タケオ君、酔ってるね」

「ええ、酔ってます。あなたが冷たいから一人で飲んでるんです」


ー生意気なこと言って‥困ったなぁー


「明日会ってください」

「ダメよ。午前中試験だし、午後は友達と約束あるから」

「じゃあ、夜」

「夜はバイトだもん」

「会わないと、僕の気がおさまらないんです」

「じゃあ、そのうち気が向いたら会うってことで。切るよ」

「待ってください。今、麻衣さんのマンションの近くにいるんです、僕」

「!」

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