第20話 『生きる魔法』

 魔法による狙撃事件が起きて観客はみんな帰らされた。アンジェを狙ったように見えた魔法は誰が放った者かボーッとしながら考えていると甲高いヒステリックな声が響く。


「では……CTもMRIも血液検査すら受けないというのですか⁈」

「はい、竜胆ほろびのことを調べることは竜胆家当主の権限で拒否します」

「竜胆琥珀さん、あなたはここでは一生徒です。教員の判断を覆すことなどできるわけがないでしょう? 少なくとも魔力分析マジックアナライズにはかけさせてもらいます」


 事件が起きて、三〇分後もかかって、やって来た医療研究の教授が琥珀とやり合っている。どんなことをしようが、琥珀が折れることはない。それを知っている僕はボーッと今日は大図書館で何を読もうかと考えながら、マーリンからの上級魔法薬を飲んでいた。普通の魔法薬で普通の魔女の傷と魔力を充分に回復させる。上級魔法薬はその一〇倍の効果はある。


「では言い方を変えます。本人の意思を訊かないのですか?」

「私は、竜胆家の犬になるつもりはありません。それに長距離狙撃魔法の直撃を喰らって死なないとはサンプルとしては最上級……医療魔法を飛躍的に進化させることが可能になるかもしれない」


 その本音駄々洩れの教授のことを脅すのに最良のカードを琥珀は出した。鈍い僕すらも出すであろうカードは決まっている。魔法学院にいる誰もが恐れてやまないカードだ。


「では、理事長を呼びましょう。あなたが後ろ盾にしている存在が誰かは私はよく知っている。ロンドニキア魔法学院をその首魁の思うがままには決してさせません」

「えええ⁈ りり、理事長がここに? ままま、待って下さらない? わわわ、私はミネルバ学院長の命令に従っただけです」

「あと一〇秒早かったら首の皮一枚で助かったんですけどね」


 カランコロンと軽やかな音が聞こえる。背後を見ると背が一四〇センチほどしかない和服を着崩した少女? が天狗下駄を履いて、近づいてくる。雨傘理事長だ。飄々とした感じは相変わらず捉えどころがない感覚がする。


「今度の竜胆家の当主は人使いが荒いでありんすね」

「りりりり、理事長……わわわ、私は純粋に……りりり、竜胆ほろびさんを助けようとしただけです」

嘘破りコードブレイカーのわっちに出鱈目でたらめ言っても意味ないでありんす」


 がっくりと肩を落とした教授は目を血走らせて雨傘理事長に魔法のメスで攻撃しようとしている。だが、雨傘理事長は振り返らない。魔法でできたメスは雨傘理事長の約二メートルで消えた。雨傘理事長が不気味に笑う。さも心から愉快だといったように。


「わっちが学生時代なんと呼ばれていたか知りんせんの?」

「ア、アンチマジックの……サニーアンブレラ‼ 本当に詠唱なしで、魔法の効果を消しているとは⁉」


 僕は、魔力視をしていた。かなり解像度が悪いが、常に詠唱を行っているような気がする。そんな真似が人間にできるのかは疑問だけど、やっているように見えるのは真実だ。


「待って……私は……無実です。りり、理事長……助けて下さい……ああああああ?!」


 謀反人はいつの間にか現れた理事長の付き人に引き渡され演習場からいなくなった。最後までヒステリックな豚のような叫び声をあげて、見苦しいことこの上ない。あんな魔法使いにはなりたくないと反面教師にする。


「わっちをこんな簡単に使うとはかなり切迫したようでありんすね」

「雨傘理事長……これからほろびと三人で話がしたいです」

「いいでありんしょう。他の二人は学生寮に帰ること。聞き耳など 立てようと思んせんでね」


 アンジェもマーリンも比較的大人しく帰っていく。マーリンは、「先っぽだけ入れるみたいにちょっとだけ聞きたいでござる」と一言だけ口に出したが、雨傘理事長が背中から出したハリセンで頭を痛打されて泣く泣く帰った。


「マーリン……――話せることは学生寮の部屋で話すよ」

「きっとでござるよ? あと無理はしないで欲しいでござる」

「マーリンさん、二人は理事長がいるから大丈夫よ」

「アンジェ殿……承知したでござる」


 そこでキリッと雨傘理事が僕のことを見据える。段々と視線は抉られたはずの腹に向かう。キュッと首を絞められたような緊張感を覚える。


「ふむふむ……魔力視でも普通の人間だと見えんす。 高度な魔法によって人間の姿に抑制されているというのが真実なんでありんしょうか ?」

「母と交流が深かった雨傘理事長は流石ですね。ほろびは力の一パーセントも普段は使っていません……いえ、使うことを禁じていると言った方が正しいでしょうか」

「何をしたら、こんな 化け物ができるのか分かりんせん。わっちは、男の子が入学するとしか聞いていなかったでありんす」


 僕は嫌な汗を一筋垂らした。もしロンドニキア魔法学院の入学取り消しとなったらどうしよう。入学早々にして退学など前代未聞のできごとだろう。僕は改めて雨傘理事長を見据えた。


 緊張で背筋がピンと張るのが分かった。そして言葉を紡いだ。


「僕の魔法学院入学が取り消しになったりはしないですよね?」


 その答えは――――――


 

――――――――――――


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