第13話

「もしかして、ミーちゃんってオスなの?」


美琴ちゃんが準一さんに聞くと準一さんはコクっと頷いた。


ミーちゃんは美琴ちゃんが生まれる前に子猫で拾われてきた猫だった。


「美琴は小さくて分からないと思ったから言わなかったけど、ミーはオスの三毛猫だったんだよ。まさかオスとは思わないで女の子の名前にしたんだ」


「うそ、ミーちゃんずっと女の子だと思った」


美琴ちゃんも知らなかった事に驚いていた。


「それを知るはずもない結奈ちゃんが知ってるなんて……やっぱりさっきのはミーだったんだ」


準一さんは嬉しそうにミーちゃんに舐められた手を撫でていた。


「美琴ちゃんが幽霊を見えるようになって心配でそばにいてくれてるみたいでした」


「ミーは美琴のお兄ちゃんだったからな」


準一さんは嬉しそうに美琴ちゃんの頭を撫でた。


「ミーもありがとうな、ずっと美琴を守ってくれて」


準一さんがそういうと美琴ちゃんは嬉しそうに準一さんに抱きついた。


自分の言うことを信じてもらえて嬉しかったのだろう。


ミーちゃんはそれを見ると満足そうに「にゃーん」と鳴き消えていった。


「「あっ」」


美琴ちゃんと準一さんは同時に何か感じ取ったらしい。


二人で見つめ合いもう一度抱きしめあっていた。


そんな家族の空気を壊したくなくて私はそっと席を立つと部屋を出ようとする。


「結奈さん、どこ行くの?」


すると美琴ちゃんにみつかって声をかけられた。


「あの……その……水を飲みに……」


しどろもどろに答えると水ならそこにあると机の上を指さされペットボトルを差し出された。


そこで本当のことを言って部屋を出ようとする。


「今は家族水入らずにしてあげようかな……ってまた明日お見舞いに来るね」


私が部屋を出ようとすると美琴ちゃんが慌てて大声をだした。


「結奈さんだって私の大事な人だよ!」


「あぁ、美琴のことも結奈ちゃんがいなかったらどうなっていたか……本当にありがとう」


準一さんは手を差し出して私の腕をそっと掴んで引き止める。


「僕らもう家族みたいなもんだろ? 一緒に住んでるしそんな寂しいこと言わないでくれ」


「そうだよ、それに本当に家族になっちゃっても私はいいよ」


美琴ちゃんはニコッと笑ってすごいことを言い出した。


「「美琴!(ちゃん)」」


私達は赤くなり同時に美琴ちゃんに声をかける。


「だって、結奈さんが私のママになってくれないかなってずっと思ってたんだもん」


「美琴、そんな失礼な事を言うんじゃない!結奈ちゃんは若くてこれからまだまだ素敵な出会いがあるんだ。こんなバツイチのおじさんなんて相手にされないよ」


準一さんは自分は相応しくないと思っていたようだ。


「そんな!準一さんは素敵ですよ」


「え?」


「あっ……」


私は口を覆うが出た言葉をしっかりと聞かれてしまった。


「やっぱりね、お父さんも結奈さんの事絶対に気に入ってるよね?だっていきなり下の名前でちゃん付けなんてしたことないもん」


「美琴……」


準一さんは図星だったのか娘に見破られて恥ずかしそうに頬を染めた。


「準一さん、こんな小娘でも相手にしてくれるんですか?」


私は思いきって聞いてみた。


「小娘、なんて思った事ないよ。結奈ちゃんは可愛くて一生懸命で……美琴と同じように大切にしてあげたいなって……」


「それって娘にしたいって事……ですか」


私は勘違いかと悲しさと恥ずかしさが同時に押し寄せた。


「ち、違う」


準一さんは慌てて否定しようとするが言葉が出てこない。


それはそう思っていると言うことかと不安になる。


「もう、じれったいな! お父さんは結奈さんの事好きなの?」


「あ、ああ もちろん」


「それは娘として?それとも大事な従業員として?それよりももっと違う気持ち?」


準一さんは少し考えて私の方をみた。


「従業員としてはもちろん違うし、娘とも違う……それとは別に結奈ちゃんの事を好きで幸せにしてあげたいと思ってるんだ。どうかな?僕と家族にならないかい?」


「僕と……じゃなくて僕達とでしょ!」


美琴ちゃんが溢れんばかりの笑顔で準一さんの後ろから顔を覗かせた。


「準一さん……美琴ちゃん」


私は涙に声が出なくなった。


本当の家族には幽霊が見える事で否定され拒絶された。


そんな私を知っても家族になろうと言ってくれる人ができた。


それも二人も……


ワクワクしながら見つめる美琴ちゃんにニコッと笑って私は準一さんに抱きついた。

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