第十七幕 日常の最中
イチヨも
最初は面倒な事に成ったと思った
「久々に
思ったよりも調査に時間が掛からなかった為に丸一日を休みに出来た。そんな休日の頭にこう言われては礼を言っただけ損をした気分だ。
「まぁ、イチヨちゃんに
そう言われるとハモンも何も言い返せない。イチヨを大事にしていなかった自覚が有るだけに言い返せば言い返すだけ男が下がる。
「スイレン姉さん」
「ああ、
散歩と夕食を兼ねてハモンとイチヨが外出する直前だった。
スイレンはイチヨがハモンを
ハモンも謝罪される事ではないと思っているのでスイレンの言草に文句はない。ただイチヨが少しだけ不満そうなので頭を
まだ夕刻前なので
それでも各店の遊女や客引きが夜に向けて男の通行人に声をかけている。
ただハモンは例外で声を掛けられる事無くイチヨと共に色町を出た。西色通りでも裏家業に
共に居るイチヨに悪い虫が付かないので避けられるもの悪い話ではない。
そんな事を話しながら二人で手を繋いで大通りに出る。
帝都に着て日は浅いが大通りが静まり返っている姿を見た事が無い。
ハモンは基本的に腹が膨れれば良いのでイチヨが食べたい物に合わせるつもりだ。ただイチヨもハモンの好みが知りたいらしく考える様子を見せながらもハモンの様子を
「最近は
ここ数日の
無理に食べたい物を考えれば久々に
「確か、客自身が肉を火で焼く店が有るのだったか」
「ええっ!? お客さんに火を使わせるの?」
定食屋の娘だったイチヨとしては信じられないのだろう。
客の手を
言われてハモンも納得した。確かに着火した炭を落とされて机や壁が燃えたら冗談ではない。
それだけにイチヨは興味が沸いたらしい。今日の夕食は怖い物見たさで焼き肉屋に行く事に決まった。
ハモンが噂に聞いた店の場所は大通りを北上して中央門を東に曲がれば直ぐだ。
夕食には早いので時間を潰す事にした二人は人混みの中を北に向けて歩く。
ふと、足を向けた北側から騒ぎが聞こえてきた。
ハモンが背伸びして北を見れば群衆よりも頭二つは高い位置に軍人らしい男たちの上半身が見えた。高さを考えれば
その軍人たちが南に向けて人混みを左右に割いて行進している。
ハモンはイチヨの肩を抱いて大通りの中央から
少年のハモンも童女のイチヨも人混みに
「お、白革羽織の。昼間から女連れとはぁ、
背が低い事を利用して人混みに
仮面の
「女連れだと分かっているなら遠慮しろ」
「あちゃちゃ、虫の居所が
ハモンの明確な拒否にゲンだけでなくイチヨも目を丸くした。同時に自分がハモンの女だと主張された様に聞こえて顔を赤くする。
「ん? もしや、噂の妹ちゃん?」
「噂とは?」
「
そう言ってゲンはイチヨの肩を抱くハモンの手に分かり易く注視した。
言わんとする事は分かる二人だが噂の内容に
馬鹿な話に付き合っていられないとハモンが強引に話題を変えた。
「何の騒ぎだ?」
「おん? あ~……
正にその遺跡に踏み込んだ二人だがここは人の耳が有る。ゲンとしては噂話が好きな部外者を
そんな
ゲンもハモンが後処理に興味が無いと察したらしくそれ以上の
「妹ちゃんとは言え女連れに邪魔して悪かったな。これから晩飯ってんなら二人まとめて
イチヨはそれなりに人見知りする。わざわざゲンと夕食を共にする理由の無いハモンは首を振って拒否を示した。
ゲンの言葉を借りるなら『女連れに男の顔など見たくもない』である。
誘いを
用も無いハモンはイチヨの肩を抱いたまま北に向けて歩き出そうとしゲンの
「変に暴れなきゃ良いんだけどな」
そんな
願わくは自分に関係無い所で全てが終わって貰いたい。
だがハモンはこの手の懸念が有る時に無関係で居られた試しがない。
「兄様」
「どうした?」
「お金、勿体無いし、一緒の方がお仕事のお話、簡単じゃないの?」
非常に不本意だがハモンはゲンに首だけで振り返る。イチヨの言葉は聞こえていたらしくゲンは嫌な笑みを浮かべてハモンの言葉を待っていた。
「一度
「いやぁ、俺っちもお前さんには世話に成ったし、今の内に次の仕事に繋ぎたいし、妹ちゃんに感謝しとかねえとな!」
上機嫌なゲンがイチヨに感謝を示そうと近寄って腰を
自然な距離の詰め方ではあるが人混みでも頭一つ大きい男がやると迫力が有る。
思わずハモンの陰に隠れたイチヨだが、ハモンもイチヨを隠す様にゲンとの間に体を挟んでいた。
「えぇ~。俺っち、駄目かい?」
「当たり前だ」
口を尖らせて抗議を示すゲンをハモンは無視した。どの様な状況でもイチヨの優先順位は
夕食は肉を客自身が焼く店だと伝えればゲンも気に成っていた店だと言う。
三人で連れ立って歩いている
それもその筈でハモンはイチヨの肩を抱き寄せ歩く。人混みも少しは引いてきたのだからもう肩を抱く必要は無いのだがゲンから隠す為だ。白革羽織の内側に隠しているので周囲の視線もイチヨには届かない。
ただ噂の白革羽織と大男の組み合わせも有って単純に目立っている。
店に着く頃にはイチヨの顔も真っ赤で案内された席で深い息を
「何てぇか、お前さんはもう少し乙女心を大事にしてやった方が良いんじゃねえか?」
真面目に呆れたゲンの言葉にハモンが横を見ればイチヨが恥ずかしそうに机に
旅を始めて数年、女の
この後にどうイチヨの
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