第13話 報酬
「ふぅ、なんとかなって助かったな。ようやく一息着けそうだ。」
あの後軽く自己紹介をして少し仲良くなった所で帰路につき、二体の熊を引きづりながら門へと辿り着いたが、どうやらヘルベアーなる化け物だったらしく門の前で一悶着起こり、とりあえず通行税を後回しにして宿代だけを貰って都市に入った。
しかし見た目が怪し過ぎるのかどこも泊めてもらえず途方に暮れていた所、たまたま<旅立ちの朝>のパーティに居た幼女に出会いここを紹介してくれたお陰で野宿せずに済んでいた。
「まさか宿を借りるだけでも一苦労するとはな。お前が居なければどうなっていたか……それに関しては助かったのだが、お前はいつ帰るんだ?」
ベッドに座りながら目の前に床にちょこんと正座している狐の耳をした幼女を見た。
「かんしゃをしているならわたしをでしにしてください!してくれるまでわたしはおうちにかえりません!」
「弟子、ねぇ……。」
どうやらこの弟子にしろとせがんでくる狐耳の幼女はあの時ヘルベアーと対面していた獣人の女性だったらしく、幼女化も固有スキルの代償か何かで一時的になるみたいなんだそうな。
「弟子とは言っても、どうやらお前は有名な凄腕の刀使いらしいではないか。なのに、そもそも武器すら使ってない俺に師事を申し込むのはおかしいのでは無いか?」
「おかしくありません!わたしはあなたのあのへるべあ〜をいちげきでたおしたわざをみて、このひとにしじしてもらったらいまよりもさらにつよくなれるとかくしんしたのです!」
「別にあれは技と言う程のものでも無いんだが……。」
「それに、つよくなれるならわたしはかたなをすてることもじさないです!」
「いや、それだけはやっちゃいかんだろう。」
鼻息を荒くしながら弟子にしろ弟子にしろと、何度も言ってくる幼女に俺はどうしたらいいのか困っていた。
するとコンコンとドアが叩かれて、「道影さん、今入っても大丈夫ですか?」と声が聞こえてきた。
「ああ、大丈夫だ。むしろ助かる。」
「?まあ、大丈夫でしたら、失礼します。」
そう言って入ってきたのは眼鏡を掛け杖を持ち、いかにも魔法使いっぽい格好をした少年、ロム・シレタだった。
「あれ?まだウルさんここに居たんですか?」
「ああ、それなんだが……。」
「わたしはでしにしてもらうまでかえらない!」
「……こう言って一向に帰ってくれないんだ。」
「ああ、帰り道でもずっと言ってましたもんね。まあウルさんは諦めが悪い所がありますし……。」
「むぅ……。」
どうやらロムにも解決策は無いらしく、首を振っていた。
「仕方ない、この子の事は後回しにして、ロムの用事を済ませるとするか。」
「むぅ!あとまわしにするなぁ!」
「はいはい、話が進まないから少し黙ってような。」
「むぅぅ……。」
俺は幼女の口を制して、先に用事を済ませる為ムロに話を促した。
「分かりました。それで、ここに尋ねたのは改めて御礼をしたかったのと道影さんが仕留めたヘルベアーの報酬について話そうと思ったからです。今回は僕達を助けてくれてありがとうございます。」
「御礼はもういいのだが……報酬とな?」
「はい、報酬については道影さんが仕留めたヘルベアーの状態が非常に良く、通行税を差し引いてもとんでもない額が支払われる事になりました。」
「とんでもない額?」
「そうです、何と総額大金貨50枚にもなるんですよ!」
「大金貨50枚……。」
50枚と聞くと少なく感じるが、これは多いのだろうか?何分森暮らしの人生を送っていたせいで価値が分からん。
「済まない、何分俗世とはかけ離れた生活をしていた為イマイチ凄さが分からないんだが……。」
「あっ、そうなんですか。えっと、基本的な貨幣については分かりますか?」
「……。」
沈黙が辛い。
「あー、それなら説明した方が良いですかね?」
「頼む。」
「分かりました。えーと、貨幣は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨に分けられていて、それぞれ単位は10レナー、100レナー、1000レナー、1万レナー、100万レナー、1000万レナーとなります。」
「ふむふむ。」
「それで先程の大金貨50枚だと5000万レナーになりますね。」
ふむ、凡そ前世と同じ感じか。
「成程、大体わかった。しかし、1レナー?単位で計算する事が必要な場合にはどうするのだ?」
「ありません。」
「は?」
「例外無く1レナー単位で計算されることはありません。本で読んだんですが、どうやらこの制度を作った方が面倒くさがって設定しなかったんだそうです。」
「そ、そうか。」
面倒くさかったとか、もうちょっと頑張れよ作った人……。
「こんな感じですかね。何か質問はありますか?」
「ふむ、お金の制度や価値については分かったのだが俺のお金はどうやって受け取ればいいのだ?」
「あ、その事についても話に来たんでした。ここの偉い人、つまり領主が二時間後に領主館に取りに来て欲しいと伝えられたので、そこで受け取れるはずですよ。」
「来たばかりで場所が分からないんだが。」
「わたしがあんないする!」
いきなり話に突っ込んで来たケモ耳幼女。
「ししょうのためにわたしがひとはだぬぐ!」
「いつの間に師匠になったんだ俺は……。」
「あはは、でもウルさんなら有名だから顔が効きますし丁度いいんじゃないでしょうか。それにしてもウルさんが誰かに敬語使っているのをみるとやっぱり驚きますね。」
「む?そうなのか?」
「基本的にウルさんは誰が相手でもへり下ったりしませんから。道影さんの弟子になるとしても敬語を使わないと思ってたんです。」
一体どんなイメージを持たれているのかこの幼女は。
「ろむ、それはちがう。ひとにしじをこうならうやまうことはあたりまえ。じょうしきだよ?」
「まさかウルさんから常識について説かれる日が来るとは、世の中何が起こるか分かりませんねぇ……。」
そこまで言われるとは、本当にどんなイメージを持たれているのか……。
「それじゃあ僕の用事は済んだので、そろそろお暇させて貰います。ウルさん、領主館までの案内を頼みましたよ。」
「たのまれた。」
エッヘンとでも言いたげなドヤ顔をして腕を組むケモ耳幼女。
「本当に大丈夫なんだろうな……?」
「……。」
「まかせて、ししょう!」
ロムから無言の笑顔を見せられた俺は無事に領主館まで辿り着けるのか不安になるのだった。
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