まだ見ぬ景色を見るために。

ミルク屋の流星

プロローグ

「えー、という訳で真斗の20歳の誕生日を祝いまして、カンパーイ!」


「「カンパーイ!」」


「ん.......っはぁ!意外といけるなぁこれ。」


「だろ?」


「いい飲みっぷりだなぁ。」


 何故冒頭から酒盛りをしているのか、それは今日、この俺、道影 真斗みちかげ まなとの誕生日だからだ。20歳になりやっと外で堂々と酒が飲める日になったことで、今は地元の友達二人を連れて居酒屋に居る。

 

酒自体は家で親に頼んで少しではあるが飲んでいた。しかし、やはり一人で飲むと盛り上がりに欠けるため、こうして地元の友達を呼んで一緒に酒を飲んでいるわけだ。


「もっと頼んでいい?」


「「どうぞどうぞ。」」


 ふむ、二人から許可を貰ったので早速頼むとしよう。そう思い、五分くらいかけて決めたあとで店員を呼んだ。


「すいませ〜ん!」


「はーい!」


「これとこのつまみを追加でお願いします。」


「ご注文は以上ですか?」


「あ、はい。」


「それでは、少しお待ち下さい。」と、注文が終わって店員が去っていった。


「いや〜ようやく真斗も二十歳か。」


「やっと外で酒が飲めるわ〜。一人で飲んでもあんま楽しくないんだよなぁ。」


「バッカ、おめぇ一人で静かに飲む酒の良さが分かんねぇのか?いいか?一人で酒を楽しむコツはなぁ......」


「はいはい。分かったからあんまし真斗に絡むなよ。こいつはまだ酒の何たるかを分かっちゃいない素人なんだからさ。」


「うるせー。俺だってお前らより誕生日が早かったら今頃俺の方が酒に詳しくなってる筈だし。」


「いや、無いだろ。」


「ああ。酒の種類とか組み方とかを調べるのが面倒臭いとか言って、結局同じものを飲み続けてると思うんだが。」


「そんな事は.......。あるかも知れないわ。」


「「ほらな」」


「そんな事より、お前ら大学どうよ?」


「あ〜、まあボチボチ。」


「彼女出来ました。」


「「は?」」


「いやぁ、すまんなぁ二人とも。俺は一足先に上で待ってるze☆」


「判決は?」


「有罪。スタ連の刑に処す。」


「オーケイ。殺ろうか。」


「待て待て、落ち着け、話せばわかるって。」


「「問答無用。」」


「おおお!ちょ、待て、滅茶苦茶メッセージ来てスマホが重くなってきてるんだが!?」


「「HAHAHAHAHA。」」


「分かった!俺が悪かった!頼むから辞めてくれ!」


「「だが、断る。」」


「おお、神よ。我を許したまへ.......。」


 そんな感じで友人達と雑談で暇を潰すこと十数分、「失礼しま〜す!」と来たので一旦会話が途切れた。机に置かれていく酒とツマミを見ながら俺は何か物足りなさを感じ、友人達に「何か度数が高い酒って無い?」と聞いてしまっていた。恐らくここが分岐点だったのだろう。


「ん?じゃあコレじゃね?」


「ああ、まあコレは結構ねぇ...」


「ふむ...。すいません、追加でコレもいいですか?」


「はい、かしこまりましたぁ。以上でいいですか?」


「大丈夫です。」


「それでは、失礼しました〜」と店員が去っていったのを機に友人達が「おい、それ飲めるのか?」「流石に辞めといた方が良いと思うんだが...」なんて言うから、俺は「まあ、大丈夫っしょ。」と根拠無くそう言った。


 この時には三杯も飲んでいたので、既に酔っていたのだろう。後にこれが自分の死因になるなんて思ってもみなかった俺は、回らなくなり始めた頭でぼんやりとしながら酒が来るのを待った。


「お待たせしましたー。」


「おお、キタキタ。」


「やっぱ不味いって、そんな高いの。」


「お前急アルになるぞ?」


「ん〜。いや、結構イケるぞ?ほら。」そう言いながら俺はチビチビ飲んでいたその酒を一気飲みした。


「ばっ!おめぇ何してんだ!?」


「吐け!今すぐ全部吐け!お前死ぬぞ!?」


「大丈夫だって。ほら、何ともな.....。あ、アレ?何か頭痛くなってきた...。ちょ、まっ.......。」体が言うことを聞かなくなり、俺はそのまま倒れた。


「やべぇ!急アルだ!急いで救急車呼べ!俺はこいつの酒を全部吐かせる!」


「分かった!.....もしもし!?俺の友人が急アルとおぼしきもので倒れて.....はい、はい、今居酒屋に居て、住所は.......はい、直ぐに救急車読んで貰えませんか!?お願いします!」


 頭が痛い、冷や汗が止まらない、胸が苦しい、息ができない。


「おい!意識をしっかり保て!死ぬんじゃないぞ!」


「もしもし?真斗のお母さんですか?実は真斗が急性アルコール中毒で…」


 どこか他人事のようにこれが急性アルコール中毒の症状かぁ、何て自分の状態を確認してみる。友人が何か言ってるがそんな有様なのでよく聞こえないし、聞く余裕もない。


 感覚で「あ、これ死ぬな。」てのがわかった。やらかしたなぁと思いつつ、まだ死にたくないな、と同時にこれはもう助からねえなぁ何て頭ん中が色々な思考でごっちゃになりながら俺は意識を失って、それで――――








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          無の間


『あ、最後の一人が気が付いたみたい。それじゃ、そろそろはじめよっか。』


 ん……、あ…。……ここは一体どこだ?俺は二十歳の誕生日で友人と酒を飲んでいたはずだけど…


 目が覚めたら知らない場所にいた。しかもここにいる前のことが余り思い出せないんだが。


 仕方ないと思いつつ近くにいる、何故か宙に浮いてる後光が差してる金髪の中性的な顔立ちの変な奴に話しかけようとしたが…


「…!」


 声が出ない。けれど体は動く。


 俺は半ばパニックになりながらも考えを整理しようと周りを見渡した。


『それじゃあ、みんな一旦集まって~。』


 ぞろぞろと人が集まってくる。これから何か始まるようだが、今目覚めた?ばかりの自分には何が何だか。せめて声が出せりゃ誰かに聞けるんだが…


『ああ、ごめんごめん。説明してなかったね。でも何回も同じ説明するのも面倒だからさ。ちょっと待ってね。ん~、よっと。』


 気づいてくれた!…のはうれしいんだが、面倒ってあんた。それに、なにこれ?何か体の中に吸い込まれってたん…


「…!」


 なんだ…これは…


『それで全部分かるはずだよ。そして今、君が考えている通り』


 異世界やらスキルやらと色々と気になることは多いが、俺は…


『死んだんだよ、君は。』


 どうやら死んでしまったらしい。

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