第三十四話 情報整理
僕たちは歩きながら第一の事件と第二の事件の状況を整理することにした。
貴船が斜め上を見ながら記憶を思い返すように話し始めた。
「最初宍戸さんが殺された時、俺たちと一緒にいたのは、晴樹、キエさん、楠河さんの3人だけだったな」
「その前に私たちは陣外さんのとこに行って挨拶したし、第一発見者である北條姉妹にはそこで会ったわね」
雪嶺が貴船に続くように状況を辿る。
「俺は純平と家にずっといたからな。行動把握は言うまでもねぇ」
澁鬼の言葉に皆頷く。
そして僕も今の状況を簡潔にまとめた。
「つまり第一の事件で僕らが行動を把握出来ていないのは、牛峯さんと古賀さんの二人って事だね」
「だな。だが正直、宍戸さんがいつ殺されたのかも分からないから、何とも言えないけどな」
澁鬼の言葉に対し貴船が「いや」と訂正する。
「あの時現場を少し見たが、飛び散った血のほとんどが乾いていた。恐らく殺されたのは昨日の夜の可能性が高い。」
「じゃあ、誰でも犯行可能ってこと?」
「そうなるな」
雪嶺の質問に対し貴船はあっさり答える。昨日の夜に殺されたとなると、分からない事が多すぎるので、宍戸さんの事件の事は一旦保留する事にした。
「次の方が絞りやすい。陣外さんが殺される直前、俺たちは当の本人に追っかけ回されていたからな。そこから俺たちは茂みに逃げ込み、10分弱逃げ回って晴樹の家に着き、その後キエさんの鹿笛を聞いてやって来た」
「追っかけ回されたってお前ら何したんだよ?」
澁鬼が貴船に尋ねる。当然の疑問なのだが、今はちょっとスルーしてもらうことにした。
すると雪嶺は「あっ」と言い、何か思いついたように話し始めた。
「確かにちょっと絞れるかも!キエさんは北條姉妹を送り終えた帰りに銃声を聞いたんだから、北條姉妹の二人が陣外さんのとこに行くためには、さっきまで通ってきた道を帰るキエさんを追い抜かない限り、絶対に辿り着けないって事よね?」
「そういう事だ。だがキエさんは誰かに会ったような素振りは無かったから、現時点で北條姉妹が陣外さん殺害の犯行を
「なるほど...」
僕は貴船の推理に思わず感心してしまう。本当にただただ凄いという感想しか出てこない。あぁ、僕の語彙力...。
「つまり現時点で、二人殺せた可能性を完全否定出来ないのは、晴樹、牛峯さん、古賀さん、キエさん、楠河さんの5人だ。これだけ絞れただけでも十分な進歩だ」
貴船の言葉に僕はちょっと複雑な気持ちになる。
「そっか、晴樹くんもその中に入っちゃうんだね..」
「まぁあくまで可能性を完全否定出来ないってだけだ。この後もう少し話を聞くとしよう」
貴船は僕の気持ちを察したのか、やんわりとフォローしてくれた。
しばらく歩くと集会所の前に晴樹くんが立っているのを見つけた。
「あ、佐斗葉クン!皆さんは無事でしたか?」
晴樹くんは恵里菜や朔矢の事も心配してくれいたようだった。
「大丈夫だよ。ありがとう晴樹くん。そういえば古賀さんは?」
「古賀さんは確かめたい事があると言って先に帰られました。ボクはたった今集会所を出た所なんです。そしたらバッタリ彼女に出会いまして」
晴樹くんはそう言うと首を後ろに向ける。
すると晴樹くんの背後の陰からヌゥーっと見覚えのある人物が顔を覗かせた。
「す、すみかさん!!」
それは北條姉妹の妹、北條すみかさんだった。
晴樹くんから一人で歩くことは滅多にないと聞いていたから、近くにお姉さんがいるのではないかと思い、 僕は辺りをキョロキョロする。
するとすみかさんはクスクス笑う。
「お姉ちゃんなら聞こえてきた銃声が気になるからって、一人で出ていきました。私には『部屋に鍵をかけて絶対出るな』と言われていましたが、私もやっぱり気になってしまいまして...それで外へ出たら、たまたま集会所から出てくる晴樹さんに会ったんです」
「そういうことだったんですね。あれ、じゃあお姉さんは何でここにいないんだろう...?」
僕は銃声を調べるために外へ出たお姉さんがここに来ていない事に違和感を感じた。
「多分他にも調べたい事があったんだと思います。私にもそれが何なのかは教えてくれませんでした」
すみかさんのセリフに対し僕は果てしない共感を覚えた。
「まぁ上は絶対下には言わないですよ。下が察してるとは夢にも思ってないでしょうけど」
「本当ですよね!バレてないって思ってるんですかね。だとしたら私たちを見くびりすぎですよね!」
僕たちは兄弟の下あるあるに花を咲かせてしまった。
「話を遮るようで悪いがすみかさん、この二日間、宍戸さんが殺される前に誰か会った住人はいるか?」
貴船が本題に戻す。盛り上がり過ぎて正直僕はすっかり忘れてた。
すみかさんは陣外さん殺しはほぼ不可能な存在だからこそ、発言にも信憑性がある。
「うーん、牛峯さんなら宍戸さんが殺された後なら見ましたよ」
「牛峯さん外出てたの!?」
雪嶺は驚きの声を上げるが、その気持ちは僕たちも同じだ。いやだって絶対出なさそうじゃん...。
「ゴミを整理してると言いますか、ゴミの上にゴミを重ねた感じで...掃除とまでは...」
途中傷つける言葉入ったな...この人、
「だけど一点気になる点があったんです」
「え、何?」
すみかさんの発言に僕たちは注文する。
「いつもストーカーしてる古賀さんがその時はいなかったんです」
「「「「ストーカーされてる風景を日常と捉えるな!!」」」」
晴樹くん以外の全員が総出で突っ込む。
改めて、普通という概念が多少以上にねじ曲がってしまった住人達に対して、僕たちはため息しか出なかったーーーー
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