第十四話 【過去編】火花と共に散った過去(前編)


※これは第一話に入る少し前のお話。






ーーー祐葉視点ーーー



俺たち7人は今二体の獣人と対峙している。


貴船の指示で二手に分かれて相手をする。


澁鬼、雪嶺、朔矢のチーム。


俺、佐斗葉、恵里菜のチーム。


貴船は戦闘に直接参加はせず、状況を見て指示を出す。


まずは佐斗葉が突っ込む。例えパワーで押し負けても佐斗葉の能力があれば肉弾戦も鍔迫り合いも向こうのパワーが強ければ強いほど佐斗葉の能力が光る。


「なにっ!?」


獣人は目を丸くする。2メートルを越す筋骨隆々の虎の姿で、佐斗葉を殴ったつもりが勢いが急に無くなるのだから驚くのも無理はない。


獣人は続けて2〜3発殴るが、佐斗葉は全て吸収し封印する。


そして攻撃のタイミングが止んできた程よいタイミングで俺と恵里菜が斬りかかりに行く。



だが獣人は不敵に笑い、俺に向かって拳から槍のような雷撃を放つ。


雷拳槍トニトゥルス・ハスタ!!!!」



バチチチチチチチチチ!!!!!





マズイ...!!躱す術がない...!!


だが恵里菜が俺の前に回り込み自分の刀を構える。


恵里菜の刀は巨大なトレーリングポイントナイフのような形をしている。


そして柄の先に巨大な唇のようなシルエットをしたものがあしらわれたデザインになっている。


恵里菜は雷撃の位置と柄の先の唇を合わせる。


そして雷撃が刀に当たった瞬間ーーー




刀についた唇のようなものに雷撃が阻まれたーーー!!



そして恵里菜も大きく口を開け、思いっきり息を吸い込んだ。


雷撃は唇のような形をした柄の空洞を通して恵里菜の口へ吸い込まれていった。


獣人は何が起こったのか分からず、一瞬時が止まっている。


恵里菜は刀を構えるのを止め、雷撃を全て吸い込んでパンパンに膨らませた頬を獣人に向かって勢い良く吐き出したーーー



「ガァァッ!!!!」



雷撃が黄色くて細い槍のような一撃だったのに対し、恵里菜が吐き出したのはまるでピンク色のビーム砲だ。


これが恵里菜の固有能力。物理攻撃を除く全ての放出系能力を刀の柄で受け止めてから吸い込み、自身の固有スキルと合わせてビーム砲として放つ「二重唱砲ビキニウム・キャノン



「!!!!!??」



獣人は放たれた恵里菜のビーム砲を辛うじて避ける。


避けた際の隙を見逃さず、俺は素早く獣人の懐に入り斬りつけるーー!!




ズバッッッ!!!!!



「ぐあっっっっ......!!」



俺は獣人の腹を横一線に斬り、致命傷を与えた。


獣人はそのままゆっくりと倒れ込み、再び起き上がる事はもう難しいようだった。


ここですぐにトドメを刺さなければならない。


獣人は耐久力こそ生身の人間と同じだが、回復力が凄まじく、人間であれば致命傷に値するダメージを与えたとしても、心臓を潰すか、首を斬り落とすか、身体を爆破するなりして粉々にしない限り、個体差はあるものの、時間さえあればいずれ復活してしまう。


俺はトドメを刺す事にすぐに取り掛かろうとしたが、


「祐葉、ここは僕にやらせてくれないかな?」


突然佐斗葉が口を開いたのだ。今までそう言った事は名乗り出たことなど無かったため、俺は一瞬呆けた顔をしてしまう。


「佐斗葉どうしたの?」


恵里菜も不思議そうに佐斗葉に聞いた。


「今、僕に何か使えそうな技がある気がするんだ。何か...僕の刀、めっちゃくちゃ熱くて......」


佐斗葉はそう言って刀を構える。


この時の俺たちは佐斗葉の能力は「相手の力を封印する能力」と捉えていたため、基本は前線で相手の力を封じる事を大前提に連携を取っていた。


まさか技が進化したのか...!?


俺はそう思い、佐斗葉にトドメを刺すことを譲った。


佐斗葉は目を閉じ意識を集中させる。


すると、切っ先から渦を巻くようにして、赤い花にも見える美しい火花が次第に大きくなっていく。


「凄い佐斗葉....こんな技が......」


恵里菜も目を奪われている。かくいう俺も同じだ。


そんな声に反応したのか、佐斗葉も目を開ける。


「えっ.........」


佐斗葉は言葉を失っていた。自身でも初めて発動させる技だから驚くのも当然だろう。


「あっ......あぁ............」


ん...?佐斗葉の様子がおかしい。顔から血の気が引き、みるみる怯える表情に なっていく。


「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」


佐斗葉は持っていた刀を離し、両手で頭を抱え叫び始めた。


地面へと手放された刀はカシャンッという音とともに火花も散った。


「おい!どうした佐斗葉!?」


「佐斗葉!?ねぇしっかりして!!」


俺と恵里菜は佐斗葉に呼びかけるも、佐斗葉は膝から崩れ落ち泣き叫ぶ。


「佐斗葉!!」


遠くから見ていた貴船も異変に気付きすぐ駆け寄る。


俺は佐斗葉の肩に手を置き声をかける。


「落ち着け佐斗葉!一体何があった!?」



佐斗葉は涙を流しながら悪夢に怯える子供のように震え、僅かに声を絞り出す。


「燃える......火が...ああああああああぁぁぁ...!!!」







俺は悟ったーーーー


佐斗葉の言葉が意味する事を。







きっとあの惨劇だ...。辺り一面が燃えさかるあの地獄のような光景を佐斗葉は思い出している...。



「祐葉、佐斗葉を一旦...」


「大丈夫だ!ここは俺一人でやる!!」


俺は貴船の言葉を遮った。


佐斗葉はあの時のトラウマが蘇っているんだ...!!


双子の俺にその辛さが分からない訳は無い。


その恐怖との向き合い方を俺が伝えられればきっと......!!


俺は佐斗葉に大きな声で聞かせる。





「佐斗葉!!思い出すのは分かる...!!大丈夫だ、その恐怖を跳ね除けろ!!強い気持ちを持て!!そうすりゃそんなもん怖くないさ!!!」











この時、俺は気付かなかった。





この言葉が、佐斗葉を追い詰め、更なる地獄に追いやってしまったことを...。

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