のんびり生きる、必ず殺す

@tohnowajin

episode 001

今日は雲ひとつない晴天、ゴールデンウィーク明けの平日、慌ただしく動き出した世間とは無縁に、日泰寺にったいじ参道の入口にあるオープンカフェで、豆柴の鼓太郎と一緒に昼間からよく冷えた白ワインをチーズの盛り合わせをつまみながら、通りを行き交う多くの車を眺めつつ、ビルの窓に反射する陽光が眩しく感じている。

Supremeのプルオーバーパーカーにデニムのハーフパンツというラフな格好で、程よい酔いを感じながらリラックス。

こんな日々が永遠に続けば良いのにな、と思う。


ところが世間はそんなに甘くない。

1ヶ月ほど前にと医者に告げられ、5年生存率は7%未満だそうだ。

とは、通常の胃がんと異なり、胃の壁に沿って染みこむように広がっていき、がんが相当に広がるまで症状が出ず、がん発見のきっかけとなる胃粘膜の凹凸も不明瞭であることが多いため発見されにくい特性を持つがんだ。

つまり、発見されたときには”もう遅い”ということだ。

発見された時はほとんどステージ4で、手術不可能な状態。

この時点で、余命宣告を受けることになる。

治療は抗がん剤投与による方法しかないが、皮膚粘膜のただれ、吐き気・下痢などの副作用が派生する。

私の場合は、余命半年だった。


45歳、まだまだ働き盛りの年代だ、順調とは言い難い人生ではあったが、それほど大きな悔いはない。

すでにそう言えるほどやりたいことは、全てではないがやってきた。

欲しいものは、ほぼ手に入れた。

それほど多いわけではないが、いく人かの女性とも大切なの思い出を作った。


ただ、そのための収入を得る方法が、少々普通ではなかったというだけだ。


名古屋で生まれ、名古屋で育ち、大学のときに初めてアメリカの某Universityに留学し異国の地を踏んだ。

そこで勉学に励んでいたのだが、どのような経緯があったのかはわからないが、あるとき見知らぬ男から声をかけられ、この国のために働く気はないかと聞かれた。

怪しげではあったが、若気の至り、興味本位でつい誘いに乗ってしまった。

日本人である私が、アメリカのために働くとはどういうことなのか疑問ではあったが、話を聞くだけ聞いてみようと思ったのが運の尽き、なんだかんだと手続きはあったものの、要はCIAのエージェント育成コースにエントリーさせられていた。

グリーンカードは自動的に与えられたので、メリットもなかったわあけではないが、この時点で引き返すことのできない道に足を踏み入れていた。

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