第21話 王都へ
「ひょおおおお…すごい!!」
「乗り出すな。落ちそうで怖い」
ペガサスが引く空を飛ぶ馬車の窓から、身を乗り出して遙か下にある大地を見るランの腰をアレックスが掴んで膝の上に乗せる。
「そうだねぇ。ランは軽いからひょいっといきそう」
思わずアレックスは腰に回す手を強めた。
「シャール、怖いことを言うな!」
翌日は朝一でギルドの前へ到着したペガサスの馬車に乗り、皆に見送られて旅立った。
といっても滞在は1週間ほど。この馬車なら2時間ほどで王宮へ到着するらしい。
全く揺れないし風の抵抗もない。ペガサスが風を制御していると聞いて、神獣や魔物に俄然興味が沸いたランだ。
「歩きだとどれくらいかかる?」
「歩きだけで来るやつは、さすがにいない」
「乗合馬車も含めて1ヶ月以上だろうね」
彼らの会話に、ランがえっと見上げる。
「どうした?」
「い、いやなんでも…」
森の中に捨てられたが、一ヶ月も気絶していたとは考えられない。
もしかして自分を辺境まで運んだのはこの馬車だったんだろうか、と思ったのだ。
(まぁ、いっか)
ペガサスに罪はない。罪があるのは元王子とその手下だ。
「ほぇぇ…」
外を見れば日本とは違って森ばかりだ。その分、木を切って整地した街道が目に入る。
細い細い道が、町や村を微かに繋いでいた。
この世界は、人の住処の方が圧倒的に少ないのだ。
(電柱も道路もないしヘリも飛んでない…音もない…)
救急車のサイレンなんかも当たり前のようにない。
今更になって、異世界に来たという事が思い知らされた。
「そんなに珍しいか?この風景が」
「え?…うん」
(子供っぽかったかなちょっと…)
31歳のくせにだいぶはしゃいでいたと、少し恥ずかしくなる。
「人の住処より、自然の領域が多いなって思って」
そう言うとシャールが考えつつ聞いてきた。
「あちらは…どういう状態なの?」
「道路というこっちでいう街道が整備されて車…馬のない馬車みたいなのが走ってる。みんなそれで移動するんだよ。すれ違い出来るくらい道幅が大きいよ。人の住処は一軒家から200軒以上入っている集合住宅とか、ショッピングモール…商店街の超デカいやつもあるし、相当な山奥にでもいかない限り道がないなんて事はない」
人間が開発し過ぎて、自然破壊という単語や、絶滅危惧種と呼ばれる動植物があることも告げると、やはり驚いたようだ。アレックスは目を丸くした。
「剣と魔法がない世界で?」
その言葉にシャールは考えつつ言う。
「…いや、だからこそなのかもしれない。こちらでは魔物のほうが人よりも多い。スタンピードが起きれば、村や小さな町くらいはすぐに滅びるし、建物も壊されてしまう」
「なるほど…クラッシュアンドビルドの間隔が短いんだね!」
日本でそれが起きるのは時間間隔の非常に長い地震や、あっという間に通り過ぎる台風くらいだ。
「…その外見でそういう言葉が出てくるのは本当に面白いよ」
シャールが苦笑している。
「ねぇねぇ、私って何歳くらいに見えるの?31歳なんだけど?」
改めて年齢を言うが、2人は首を振る。
「グラスランナーに見えると言ったろう?だから、年齢不詳だ」
「そうそう。120歳かもしれないし、15歳かもしれないし」
という事は15歳なんだろうか。無理がないか。
「召喚された人って年齢でも下がるの?」
日本ではどう見ても普通の30代だった。栄養状態が良すぎたのか肌がパンパンでつやつやだったせいか、友人には20代でも通るよ、とは言われていたが10代は無理があるだろう。
「どうだろうね…外見が少し変わるというのは聞いたことがある」
召喚された者は確実に美男美女という。
「美男美女…」
やっぱりあのアホ王子が召喚したせいで、対象が間違えられたんだろうかと思ってしまう。
「もう一人の聖女は綺麗だけど、ランは綺麗というより、可愛いという感じだね」
アレックスの膝の上からシャールを見る。
「なに?」
「いや、超絶美人に言われると…疑ってしまう…」
すると彼はアレックスをじっと見た。
「え?あー…うん、可愛いぞ」
アレックスが慌てて言うと、シャールは片手で頭を抱えた。
「もうちょっと自然に言えないの…」
「無理しなくていいよ!」
思わず笑ってしまう。
アレックスも髭を剃って髪を整えたら、大人の魅力もあり非常に格好いいのだ。
美男美女ではないが、黙っていればそう見える2人に囲まれると、小姓に見える自信があった。
「お前本当に聖女かって言われそうだけど、何かあったらこれ外すから」
変化する道具はシャンメリーに言ってチョーカー型から左手の小指に嵌めるピンキーリングにしてもらった。
これを外せば黒髪黒目になる。セイにも同じものを送っておいた。
「いや、だから俺たちがいるんだろう?」
「ん?」
「そうそう。宰相閣下も僕たちが来ると思っているよ」
元騎士の…今も見た目は完全に騎士の2人が護る者。聖女に迫力が無いのでお付きを豪華にしたのかと思ってちょっと申し訳なくなった。
「すみませんねぇ」
謝るとアレックスたちは呆れたように言った。
「…お前ちょっと卑屈だぞ」
「うーん…これはもう着飾るしかないね?」
(いやいや、豚に真珠になるじゃん?)
と言おうとしたが、やめた。見た目の話題はこれっきりにしたほうが良さそうだ。
まずは王都で、お金と時間がいくらかかってもいいからよく見える鏡を買おうと心に決めたのだった。
◇◇◇
王都に到着した後は、あれよあれよとアレックスたちと引き離されてメイドたちに囲まれて衣服を全て剥ぎ取られ、身体を洗われ、香油でマッサージされてシルクのような見た目の下着を身に着けさせられた。
(うっわ…日本でも着たことないんですけど…?)
綿とは違うしっとりとした感触にソワソワする。
しかしまだ鏡がない。
メイドたちは自分たちの目で見て、作業を行っている。
成人式の着物を着る時だって気付けの人は多くて2人だった。前後左右に人がつくなど人生初だった。
(これを…丸尾さんはいつも…?)
しかしセイの所在を聞くと、王宮の執務等に隣接された要職者用の宿舎にいると言う。
(そうか、こういうのは王族とか、貴族だけなのかな〜)
もちろんセイには宰相から付けられた侍従兼護衛が5名ほどいて、散々世話を焼かれている。
「髪は下ろしたほうがいいわね?」
「ええ、未婚ですしそのほうが可愛らしいわ」
「では少しカールさせましょう。少し毛先が荒れているから揃えましょう」
メイドは自分抜きで相談しながら勝手に作業を続けている。
その手際の良さにとても感心してしまった。
(しかしだいぶ痩せたなー)
80キロ台だった体重は、おそらく50キロ未満になっただろう。細くなった割に胸が減らなかったのはフライパンを振っていたお陰か。
しかし元がFカップだったが目視でDカップになってしまったと少々嘆く。唯一のアピールポイントだったのに。
「お胸はどうする?」
(おっ?ぐぇっ)
コルセットというものを人生初でつけさせられた。
「そうねぇ、隠すのは勿体ないくらいだわ」
「でも聖女様だし…」
「いいえ、これは魅せましょう!スクウェアカットの襟に、レースをあしらって」
「切り返しが胸の下にあるドレスがいいわね」
「下はシフォン系にしましょう」
ニコニコしながら女子会のように喋りつつ、ランを着飾ってゆく。
ランはといえば、豪奢な室内の家具に目がいっていた。
(すっごいソファ。流線型描いちゃってるよ)
こちらの様式はわからないが、見た目はロココ調の家具だ。しかも全てが白。刺繍は金色で、淡いピンク系の小花が刺繍されている。
幼い王女様が使うような、可愛らしい部屋だ。
ランは、アフタヌーンティーとスイーツセットが絶対に似合う部屋だと思った。
「お化粧は?」
「慣れてらっしゃらないそうだから、やめましょう」
「そうね、十分白いわ」
「紅を引いていないのに唇も赤いわねぇ」
(…昔は白いっつーか青紫だから付けてたけど…?)
寝不足と不摂生で貧血気味だったのだ。今は立ちくらみも全くない。
「血色が良い証拠ね。冒険者ギルドの創設者ですし鍛えているのでしょう」
(いえ、全く!!鍛えてない!!)
「外で活動されていたのに、どうして白いのかしら?」
(さ、さぁ〜…)
それはランも思ったことだ。
日本に居た時とは違い、外に出ている時間は非常多いのだが日に焼けなかったのだ。
シャールやシャンメリーもそうだし、一部の人はそうなのかと勝手に思っていたのだが、考えてみたら人とちょっと違う。
「さ、ご用意は終わりましたよ」
「騎士様がたも驚くわぁ」
「ふふふ…会心の出来ですね!」
「ラン様、こちらへどうぞ」
年配のメイドに手を引かれて、恐る恐る歩く。
生まれてこの方ドレスなんぞ着たこともないが、長すぎない裾なので踏まないで済みそうだ。なお、靴も王族が履くような華奢なものではなく、真っ白なショートブーツに似た物を用意してくれたので普通に歩ける。
初めはソロソロと、途中からは歩けるじゃん!と思って顔をあげると。
そこには知らない姫君がいた。
「だ、誰!?」
思わず口に出してしまう。
(あっ…鏡??)
目の前にはとてつもなく大きな扉のようなサイズの、今までにないクリアな鏡があった。
「うふふ、ラン様ですわよ」
「いっ…いやあの!!私、こんなんじゃ…?」
「あら。鏡がなかったのかしら」
(そうそう!!)
ブンブンと頷くと、垂らされたモスグリーンの髪が揺れる。
前髪は眉毛の少し上で切り揃え内側に軽くカールがかかり、背中まで伸びていた長い髪は途中からウェーブが掛かっていた。所々に真珠のような髪飾りが付けられている。
レースのたっぷりあるエンパイアラインという形をした桜色のドレスに、胸の下に繊細なパール色のリボンがあしらわれ、スカート部分はシフォンが三重になっている。
肩は出ているが細いせいか、色気というよりは華奢で繊細、という言葉が合いそうだった。
スクウェアカットの胸元は谷間が見えているが、レースでチラ見せ仕様になっている。
(マジで誰これ!?)
想像より10歳以上若返っている。高校を卒業したくらいの自分が、痩せたらこうかな、という感じだ。
そう言えばセイも28歳の割に若く…それこそ大学生くらいに見えると思っていたが、まさかそれが召喚特典で自分にも適用されているとは思っていなかった。
「殿下の衣装をお直ししたものだけど…」
「殿下よりも似合うかもしれないわね」
「これ、不敬ですよ。…しかし、殿下もそうおっしゃるかもしれませんね…」
「ええ。妖精の姫のようですわ」
(こ、こっ恥ずかしい…)
口々に褒められて、容姿で肌と胸以外は褒められたことがないランは思わず赤くなって俯く。
確かに、モスグリーンの淡い髪と王宮でも見なかった濃い桜色の瞳も相まって、神秘的な感じだ。
正直、自分が自分でないように見える。
(メイドさんたちの手腕、恐ろしい…!)
「まぁまぁ、胸を張って下さいませ」
勿体ないですと言っているので思わず苦笑する。
「そうですよ。とてもお可愛らしいです」
「これを最後の仕上げに…」
そう言ってメイドは両サイドの髪を一束三編みにして、繊細な意匠の宝石でできた花飾りを付けてくれた。
より妖精感が強まる。
(やばい、逃げたくなってきた…)
恥ずかしくて知り合いに見せたくない。
その時、ノックが聞こえた。
「着替えは終わったか?…一番にわたくしが見たいので来てしまった!」
聞こえた声は覚えがある。
メイドたちがすっと背後へと下がり、一人が扉を開けに行く。
開かれた扉からは、シルバーグレーの騎士のような衣装を身に着けた王女が颯爽とやって来た。
腰には剣を下げている。
(この人、王女だけど王子っぽい格好良さがあるよね…)
口調はわざとそうしているのかもしれないが、凛々しさがある。
今日も金の髪を編み込み後ろで纏めていて、15歳とは思えない背の高さで宝塚の男優を思わせた。
「おお!とても可愛らしいな!…まるで、妖精の姫のようだ」
うんうんとメイドたちも頷いている。
「あ、ありがとうございます…」
褒められたら否定せずお礼を返して下さい、と言われていたので渋々とお礼を返した。
「わたくしは胸がないからなぁ、羨ましい」
「いっ…いえあの、十分、殿下は美しいですよ?」
金の髪に青い瞳。髪を切ったら確実にイケメンだ。しかし美女でもあるので勿体ない。
「マーメイドラインのドレスとか、絶対似合いますよ」
「む?それはどういう形だ?」
「…セイレーンの尾ひれのような感じです」
最近読んだ魔物図鑑を思い出しつつ言うと、絵を書いてくれと言われる。
胸元を大胆にV字にして背中も開けつつ、腰を絞って裾にレースをあしらうような絵をざっと描き上げると、感心したように目を見張る。
「セイもそうだが、お主も絵がうまいの…」
「私は以前の職業柄ですかねぇ」
文系のプログラマでプレゼン資料もだいぶ書いた。そういうのが苦手な理数系の同僚の分も。
食べ物屋の絵日記も描いていたので、プロには程遠いが、要領を掴んだ絵は描ける。
「これにヴァルキリー…あっちの戦乙女というか神様みたいな、頭飾りを付けたらバッチリです」
頭に羽飾りをつけると若干コスプレのようになったが、彼女なら着こなせるだろう。
「ふむ…今度余剰が出来たら、作らせてみるか…」
メイドたちも興味深げに見ているし、期待の籠もった瞳だ。
もしかしたらソフィア王女は、金が掛かりそうなドレスを仕立てていないのかもしれない。
「ぜひ、見たいです」
「わかった」
(よっしゃ、言質取った!)
ニマニマしていると、これを、と手渡された。
銀の鎖で編んだような、剣を下げる帯だ。
「あ…これですね」
収納から王族の証である小ぶりの剣を引き出すと、メイドが受け取り腰回りに付けてくれた。
「むぅ、剣ではなくペンダントか帯飾りにするのだった…」
勇ましい妖精姫になってしまったと言う。
「いえ、そもそも妖精姫じゃありませんし…冒険者ギルドの、ギルドマスターですから…」
「ふふっ、そうだな。勇ましさも無ければ務まらんか。では、ゆくぞ」
「…どこに?」
「まずは、控室だ。お主の友人が待っている」
やっぱり2人には見られる事になるらしい。ランは観念してメイドにお礼を言い、ソフィア王女にエスコートされながら部屋を出る。
「こちらは歩いたことがあったか?」
「いえ。薄暗い廊下と離れ?からの渡り廊下までですね」
「やはり、庭園の…城壁の穴か」
「あ、見ました?」
「ああ。あのバカめ…」
チャービルをバカバカ言っているが、まぁバカなのだから仕方ない。
ちなみに壁は補修済みで、聖女を攫い捨てた傭兵はひっ捕らえて鉱山へ送ったとか。
「そう言えば、私を捨てた時の乗り物って?」
行きに感じた疑問を口にすると、ソフィアは大変申し訳無さそうな顔になった。
「バカが御者を脅してな。ペガサスだ」
やはりあの乗り物だったらしい。
「そなたを森に置き去りにしたあとに悪事に使われたと気付いてな。命令を無視して御者や傭兵共を置き去りにして先に帰り、そのまま馬房に籠もって出ないしで大変だった」
馬房から出てくれたのは、ギルドの許可を告げにセイがレーベの町へ来た時だと言う。
あの時は黒鹿亭でソワソワしていて、行きも帰りもアレックス達が門へ見送ったから知らなかった。
(そっかー、悪いことしたなぁ。帰りに何か好物でもあげておこう)
別にランが悪いわけではないのだが、引き籠もりになったと聞いてつい可哀想になった。
なお、御者は脅されたとは言え宰相に相談すれば済むことだったので、減給の上に異動だそうだ。
「あのバカには何も出来ないと勘ぐっていたが、地位と権力がそのままだったのが不味かった。そなたを召喚した神官は、もちろん」
「あ、言わないでいいです…」
聞くのも恐ろしい。ランはつい遮ったがソフィアは笑った。
「安心せい。爺だからな、強制労働では役に立たないから送ってない。ま、もう悪さは出来ないしお主の前に現れない」
「ありがとうございます…」
きっと神官では無くなっているだろう。あんな信仰状況でよく上役へと推薦してもらおうと思ったものだ。
「えっと…王子じゃない、元王子は?」
「あいつなら、浄化を受けたぞ」
「エッ」
となると、普通の浄化ではなくシャンタルをシャンメリーに変えたあのセイの浄化だろう。
「どこに置いても厄介な想像しかつかなくてな」
「そうですねー…」
嫌われ者だから城下町に置いても嫌がられるだろうし、一人で稼げるとも思えない。
むしろ、王家の血が流れている事で、変な輩に担ぎ上げられそうだ。
「いっそ死刑に、と思ったのだが、それをするなら浄化をしてみないか、と宰相が言ってな」
「…それって…一番怖いような…?」
人格が変わるなど、個人の死と変わりないような、とランは思う。
ソフィア王女は頷いてくれた。
「だろう?…皆、それはいい案だというので、正直、恐ろしかったよ」
シャンタルのことは報告を受けていたので、すわ洗脳か、と王と王女だけが青くなったらしい。
宰相は中々の腹黒さのようだ。
「で?…やっちゃったんですか?」
「実行された。セイは宰相…ガーディの頼みは断れんのでな。まぁ、見事に…お前は誰だ?と思うような人物になったよ」
「…でしょうね」
セイは「真面目な人になれ」と願いを込めて浄化魔法を実行したらしい。
その後のチャービルは今までの自分と決別をしますと宣言し、法律の勉強を始めたとか。
(シャンの事もあるし…もしかしたらアイツもうーんと小さい頃は、真面目な子だったのかなぁ)
先代と先々代が国庫を浪費しまくったから王様は忙しかっただろう。そうなると…祖父といた時間が長かったのかも知れない。
(でも、ソフィア王女はそうならなかった)
彼女と話していてもチャービルとは天と地ほども違う。どこかで道を間違えたのかなとは思うが。
「…それなら、王宮から出しても大丈夫そうです?」
「ああ。…あまりに違うので、王族の血を引く遠縁の伯爵の息子としたよ」
既に廃嫡はされているが、痩せて見た目が変わるまで世に出さないことにしたらしい。
「いっそ、名前を変えては?」
シャンメリーのことを話すと、なるほど、と頷いた。
「ガーディもそう提言していたが…そうするか。その方がアレには良さそうだ」
チャービルという名前は地に落ち、民の間でも王子の名をあやかって多い名前だったのだが、役場へ改名が殺到したくらい不名誉な名前だと言う。
「お主ならなんと付ける?」
「え?えーっと…」
シャンタルはシャンメリーにした。チャービルは…。
「チャー、シュー…」
うっかり、あの丸々太った身体から焼豚を、チャーシュー麺を思い浮かべてしまった。
それ以外にはチャーハンしか思い浮かばない。
「チャーシュ?」
この世界にはチャーシューはないようだ。もういいやとランは悪ノリした。
「うーん、チャーシュウ、の方が愛称付けやすいかな」
イントネーションを変えて告げてみる。→→ではなく、→↓だ。
「そうか。以前の愛称はチャービィだったのだ。それをシュウ、と変えられるな」
納得顔のソフィアには、名前の元になった物体を絶対に教えないようにしようと思った。
後でセイにも口止めしないといけない。笑わないようにも。
「そなたたちに頼むと、解決の糸口がよく見える。本当に聖女というのは賢いな」
「とんでもない。あっちにはもっと賢い人がいっぱいいますよ」
四年制大学は出ているが経済学科だ。そんな人は五万といるし、法律や理数系の学科を選んだ人の方が…と考えた所で、高学歴なのに現場にこれじゃ駄目だと叩かれていた設計士を思い出す。
「適材適所かな…」
「ふむ、良い言葉だな。高等学校を出ていても要領が悪くて文官に向かない者もいる」
「そうですね。殿下は王女様というより、王子様みたいです。カッコいいし」
言ってから不敬だったかな、と様子を伺うが、ソフィア王女はとても良い笑顔だった。
「そうか!精霊姫に言われるととても嬉しいぞ」
「えええ、姫は止めてくださいよ、姫!」
互いに姫という呼称を押し付け合いながら、控室に入ると、アレックスたちが出迎えてくれた。
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