神田暁一郎「ただ制服を着てるだけ」書評

 Kindle Unlimitedで本を漁っていたら大当たりの本があったので紹介したいと思います。


 その名も「ただ制服を着てるだけ」ですね。


 表紙を見ると制服姿のJKが立っている構図で、いかにもラブコメな話が展開されるのかと思いきや、レビューが……(笑)。


 あまりにも「なんて重い話なんだ。でも、いい」という内容のものが多かったのですごい惹かれたというのがあります。そこはある意味レビュアー達の勝利なんでしょうね。


 ストーリーをざっくり説明すると、コンビニの管理職を務める主人公、堂本広巳どうもと ひろみはバイトのギャル、篠田舞香しのだ まいかと呑みに行った際に舞香の友人である藤村明莉ふじむら あかりというJKリフレで働く19歳の女性と知り合います。


 真面目一辺倒でそういった「夜のお店」には行った事の無い広巳は抵抗を示しつつも、半ば強引に呼ばれた明莉の店にハマりだし、すっかり常連となってしまいます。

(真面目な人が崩れていく典型的パターンの一つですね (笑))


 明莉――源氏名あゆみちゃんを指名し続ける内に二人の距離は縮まり、ひょんな事から同居する事となりますが、クソ真面目な広巳は無防備な明莉にまったく手を出しません。


 これは純愛なのか?


 そう思わせつつも、広巳が源氏名あゆみとして働く明莉にこだわる理由は別にありました。


 その悲しい過去とは……といったお話です。


 第一にすべての読者が思った事でしょうが、この書籍を出版しているのはGA文庫というレーベルでして、ライトノベルを出すところですね。


 ところが内容はライトとはほど遠く、重いです(笑)。断言出来ます。(笑)。


 この作品の何がすごいって、1。ここで終わっても全然通用するというか、まあ、2巻出てるんですけど(笑)。


 本作を読んで思い出したのは桐野夏生の「路上のX」ですね。


 あれはそもそもライトノベルじゃないのでより救いは無いのですが、それを彷彿とさせるほど本作のテーマは重く、かつライトノベルだからといってご都合主義に流れず、人生で向き合うべき苦みや辛酸に読者を向き合わせるというとんでもライトノベルであったと思います。


 本作では女子高生の持つ記号性やダメな男とくっついて不幸な方向へとずんずん進んでいく女の姿も描かれているし、それを優しく受け止めてくれる主人公広巳のトラウマや弱さといったものがこれでもかと描かれています。


 チートな主人公なんてこの作品にはいないのですよ。


 ああいったお店で働く女性の心理みたいなものもかなりよく描けているように見えましたし、ある意味これは人生そのものを包含するような作品だったのではないでしょうか。


 あと何がすごいって、これだけ重い話を書きながら性と暴力がまったく無い(笑)。


 これって至難の業だと思うのですが、おそらく私が似たような作品を書いたら性も暴力もフルスロットルになるでしょう(笑)。


 Amazonのレビューにも似たような感想はたくさんありますが、とにかくただのライトノベルやラブコメとは思わず、本作を読んでみて欲しいです。


 おそらく広巳の過去を知った辺りから泣きますよ。


 それでも人は助け合っていると思えた時、本当に人の温かさが理解出来る作品なのだと思います。


 まさかの大当たりでした。

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