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愛憎色欲渦巻く不夜城「歌舞伎町」には、様々な“念”が渦巻いている。
因念、疑念、執念、邪念、情念、そして怨念。そうした“念”を抱えたまま死んでいった魂は、この街に充満する“陰の気”に囚われ、生者を呪う「悪霊」になっちまう。
俺たちの仕事は、そんな風に死んだ後まで生者に迷惑をかける奴らを退治すること。いわゆる“霊能者”ってやつだ。
信じられない? まぁ、その気持ちは分からんでもない。
セイのやつは金髪リーゼントにスカジャン、鋲付きの革靴。俺は短髪にグラサン、無精ひげに黒革のコート姿。おまけに咥えタバコとくれば、どう見たって街のチンピラだもんな。実際、今のボスに拾われるまでは、俺もセイもこの街でくだを巻くだけのチンピラだったわけだが……って、それは今も大して変わらねえか。
俺たちが依頼主の店『cabaretclub Lady』に着くと、金文字筆記体で店名の書かれた黒地の看板の前には、安っぽいストライプ柄の背広を着たチャラけた中年男が立っていた。
「おぉ、来た来た。こっちだ“クズ星兄弟”」
背広の男が俺たちを見つけて手招きする。“クズ星”は、俺の苗字「葛生」とセイの苗字「星崎」の星をくっつけたあだ名だ。“兄弟”はセイの馬鹿が俺を“兄貴”と呼ぶのを街のやつらが面白がって、いつの間にか定着しちまった。
「星のクズ」と「クズの星」一体どっちがマシなのかね。
「状況は」
「それが、閉店後の掃除中にいきなり現れやがってよ。店を散々ぶっ壊した挙句に、逃げ遅れた女の子を拉致って居座ってやがんだよ」
とんだ大損害だと、背広の男はこぼした。
「じゃぁ、“そいつ”はあんたらにも見えたってこと?」と、セイが横から口を挟む。
「あぁ、ハッキリ見えたよ。だから最初は着ぐるみでも着てるイカレ野郎かと思ったが……」止めようと殴りかかったらすり抜けちまった。と、男は言う。
「着ぐるみ?」
「あぁ、人の姿じゃなかったからな。なんて言えばいいのか……“ヘドラ”っていたろ?公害怪獣の。あんな感じだった」
ヘドラってのは、ゴジラに出てくる怪獣の名前だったか。
「形が変わってるってのは結構ヤバイぜ。兄貴」
それまでヘラヘラとニヤけていたセイが、眉根を寄せてこっちを見る。
確かに急いだほうが良さそうだ。俺たちは店舗のある2階へ続く階段に向かう。
「ところで」
階段の手前で足を止め、俺はスーツの男に振り向く。
「捕まってるのは、“そいつ”から毟った例の女か?」
男は一瞬ポカンとした顔で俺を見たあと、思い出したように「あぁ」と手を打つ。
「ミユキだったら野郎が死んだ日に“消えた”よ。警察にあれこれ聞かれるのが嫌で逃げたんだろうさ。捕まってるのは新人の弥生って子だ」
なるほど、コイツはマジでヤバい状況らしい。
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