第17話 バカンスの離宮(ウェズリー2)

 湖畔を散策していると会いたくない奴に出くわした。


「ジュール殿にプリシア王女」


 美男美女といった二人だった。


「ウェズリー殿にミシェル! どうしてここに?」


 ジュール殿が驚いた顔をした。



「陛下が勧めてくださって、こちらに部屋を用意してくださったんだ。ジュール殿はどうしてこちらに?」



 いるとは聞いてなかった。ジュール殿がいるのなら断ったのに!




「プリシアが暑いというものだから、急遽連れてきたんだよ」



「ウェズリー殿下お久しぶりですわね。そちらの方が婚約者の方ですか? あまり王宮では見慣れない方ですのね」



 なんだ? この違和感……。以前話をしたプリシア王女と感じが変わっていた。物腰柔らかな感じがしたのに。雰囲気が変わった? ようだ。



 恐らくミシェルとは身分が違うと遠回しに言っているのだろう。それともジュールとミシェルの昔の関係を知っての事か? まだ分からない事だらけだ。



「ミシェルはプリシア王女に会うのは初めてだろう? ジュール殿の婚約者で、東の国の第三王女だよ」



 挨拶を促してみたが、挨拶をしたらすぐにこの場を去ろう、滞在日数を減らす事に決めた。



「王女殿下に初めてお目にかかります。アルディ伯爵が娘ミシェルと申します。よろしくお願い致します」




 ミシェルは完璧な挨拶をした。




「あらそう、貴女がミシェルとやらね。覚えておきますよ」




 なんだ? こんな失礼な態度を取るような人ではなかった筈だ。よく見たら肌の色も不自然に白い……この国に合わせているのだろうか? 女性は大変だ。



「ミシェルがこの離宮によく来れたな。ウェズリー殿に感謝すると良い」



 ジュールが少しバカにするように笑いながら言った。



 ミシェルは笑みを浮かべたまま聞き流しているようだ。なんだこいつらは! 失礼極まりない態度だ……!




「私の婚約者がそんなに気に食わないとは……残念だ。ミシェル明日の早朝にはここを出ようか。陛下が用意をしてくださったが私はとても気分が悪い」



 ミシェルの肩を抱き悪意から守るように告げた。ここに来たのは私の失敗だ。

 そもそもミシェルは来たくなかったのだから。



「下賤な身で来るような場所ではありませんものね」



 プリシア王女が言うとジュールがそこまでの出ではないと宥めた。……下賤だと? ミシェルの事か……


「ミシェルと言ったわね?」


 プリシア王女がミシェルを見た


「はい」



「晩餐ではわたくしの近くへいらっしゃい。交流を深めましょう」



「……はい王女殿下」



 ミシェルが返事をした、してしまった。悪意の塊だ。



「ジュール様行きましょう」


 王女がジュールを連れて離宮の方向へ歩き出した。ジュールも変わったように思えた。




「ミシェル大丈夫?」


「えぇ、特に問題はありません」



 微笑むミシェルはこれは日常でもよくある事です。と言った。この国の高位貴族とはそんなに偉いのだろうか? 

 伯爵領は栄えているし伯爵も王宮では重要なポストに就いている。



 ミシェルの家は下手な格上と言われる侯爵家よりもずっと裕福だ。ミシェルが狭かったと言った世界は私が思っていたよりずっと狭かったのだ。



 以前伯爵に不満を言うと、悪いことばかりではありませんよ。それでも私はこの国にいます。と言って笑った。


 でもミシェルのことは自由にさせてやりたいし、息子も成長していくうちに自我が芽生えれば好きにさせてやりたい。と言った。



「ミシェル、晩餐では思ったことを言っても良い。ここでの事は私が責任を持って対処する!」



「まぁ、ふふっ。わかりましたわ」



 ミシェルの目が変わった。そして美しいほどの笑顔を見せた。



 この国の高位貴族とやらがどんなものか、この目で確かめようではないか。





 部屋に戻りメイド達に、ここを出る準備をしておいてくれと頼んだ。

 驚きを隠しきれない様子だったが、察したのだろう。返事が返ってきた。




 晩餐でミシェルの選んだドレスは南の国のドレスだった。

 この国のものとは明らかに違う素材で作られた私の母からプレゼントされたピンク色のドレスで、とあるバラ色のドレスだった。



 色が白いミシェルによく似合う。



「念のために持ってきましたの。これを着させてもらいますわ」




 私はミシェルが何を考えているか口にせずとも分かった。反撃開始だ。




「良いね。私も合わせよう」



 お互いに南の国の服装に着替え晩餐へと向かう。



「さぁ行こうか! ミシェル」


「えぇ。ウェズリー様」




 ミシェルをエスコートして晩餐の場へと向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る