第15話 ミシェルの思い


 ジュール殿下と私が一緒になる条件、それはジュール殿下が王族から抜ける事だったと聞いた。



 血筋や身分を一番に考えるこの国としては、王族と言う身分から一貴族に落とされるというのは屈辱的な事だったのでしょう。


 だからジュール殿下は返事をしなかった。それを望んでいなかった。単なるないものねだりと言った所かもしれない。


 ジュール殿下にお会いしたら少しは動揺するかと思ったけど、気持ちが動かなかった。




 そしてますます過去の事だと身に染みた。嫌なことしかなかったけど、王宮に行って良かったのかもしれない。


 ウェズリー様にはたくさんご迷惑をかけてしまったけれど……。






 それから数日後、ウェズリー様を招いて家族で晩餐をとっていた時にお父様が口を開いた。





「王妃様は療養の為、今後の公務には出席されないことになった」




 王妃様が? 陛下の言う罰とはこの事だったのかしら……?



「……療養、ですか?」



 王妃様が公務を欠席されると言うことは不在だと言っているもの。



「あぁ、心と体のバランスを崩されている。王妃様とジュール殿下の今までの行いに、陛下は我が家に対して謝罪をしてくださったんだ。そしてウェズリー殿下とミシェルの婚約は我が国との和平をもたらすし、お互い思い合っている事から祝福をしたいと、南の国にも親書を出すと言っておられたよ」



 お父様がそう説明をする。



「意外と早かったですね。こちらの国は身分を必要以上に気にする国柄なのに」



「それは南の国のアラニス侯爵家がミシェルの後見人に名乗り出たと言うのも大きい事です。陛下は王妃様のことを公式に療養と言いました。今後表舞台に出る事はまずありません。陛下と王太子殿下、それに婚約者のブリジッド嬢で公務をされることになります」



 アラニス侯爵家、叔母様の嫁ぎ先で三年間南の国でお世話になった家。



「侯爵様が……お世話になりっぱなしだったのにさらにこの先の後見人にまで」



「娘のようなものだと言ってくださったよ。南の国に行かせたのは間違いではなかったな」


 お父様が慈悲深い顔でこちらを見ていました。


「お父様、お母様ありがとうございました。まだ十二歳の子供を一人で外に出してくださって心から感謝します」



「私達が寂しいと言う理由だけで反対するのもミシェルの為にならないと思ったのよ。辛い事があったのに自分で考え行動した。わたくしが十二歳の時だったら、そのように考えることはできませんでした。少しずつ世の中も変わってきているわ。ミシェルが成長する姿を見れなかったのは残念だったけれど、随分と充実していたようだもの。わたくし達もミシェルに負けないように頑張らなくてはいけませんね」



 お母様も寂しく思っていてくれていたのに、わがままを言って外に出してくださった……。お母様も辛い思いをされたのに。




「侯爵家からは毎週手紙をもらっていたし、ミシェルからも楽しそうな手紙をよく貰っていた。後半はほぼウェズリー殿下の話題ばかりだったがな……」



 顔を赤くしてそれ以上言わないようにと止めた! 恥ずかしいじゃないですか!



「私の事はなんて書かれていたんですか? 気になるなぁ」



 興味深々と言った感じのウェズリー様にお父様は



「男親的には面白くない事もありました。どこどこに行ったとか、何をしたとかそんな事ですよ。他にはミシェルがウェズリー殿下に惹かれているのだろうと思われる文面もあったという事だけは言えます」




「へぇ~。それは頑張った甲斐があったと言う事ですね。ミシェルは私にはそういう素振りは一切見せなかったから、新鮮ですねぇ」



 ご機嫌なウェズリー様を他所目に



「知りません!」



 とだけ答えた。こうやってウェズリー様はたまに我が家に来て家族と交流を深めてくださった。三年後に南の国に嫁ぐ際に寂しい気持ちにならないようにと、いつも気を遣ってくださる。



 それから季節は変わり暑い日々が続いた。この国は夏は暑く、冬は寒い。南の国は冬はそんなに寒くなかったし、夏でもここまで暑くなかったのに。



 三年もの間に体が南の国仕様に変換されたようだった。




「暑いね……」



「はい、毎日冷たいものばかり欲してしまって、食欲も湧きません……」


 ウェズリー様も同じようだった。



「少し涼みに行こうか? 陛下がバカンスの為に離宮を勧めてくださって、湖があって涼しい場所らしいよ」



「……私如きが行ける場所ではありません」



 陛下が勧める場所は王族や高位貴族のみが許される離宮の事。

 私如きが行ける場所ではない。単なる伯爵令嬢の身分ではベールに隠された場所である。



「なんで? ミシェルは国同士が認めた私の婚約者なんだけど……。この国の身分差と言うのは理解しているが、卑屈になる必要はないし、そんな事では私も困るし大事な問題なんだよ。伯爵家と言う立場で嫌な思いをする必要はない。伯爵も夫人も立派な方で私は尊敬をしている、ミシェルは違うのか?」



 大事な事を忘れていたような気がする、いつも大事な事を気づかせてくださるウェズリー様……



「違いません! 両親を尊敬しています。ウェズリー様にも嫌な思いをさせてしまうところでした。気づかせてくださってありがとうございます……自分が恥ずかしいです」



「そういうところは素直なんだよな……。陛下が勧めてくださるんだ、せっかくだからバカンスを楽しもうよ」




「そうですね!」



 バカンスの為、離宮行きが決まった。

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