第50話 ダンジョン攻略

 動きを止めている魔物達をざっと見回すと、多種多様な魔物がひしめき合っているのが分かる。魔物同士で争いも起きているのか、すでに息絶えているやつもいるようだ。


「気持ち悪いね……」


 リラが思わずといった様子で呟いたそんな言葉は、魔物達が動きを止めていることで案外静かなこの空間に響いた。


「ははっ、分かる。早く倒しちゃおうか」

「そうだね。全部綺麗にしよう」


 リラは目の前の光景がかなり嫌だったようで、いつもより気合いを入れて火魔法を発動させた。


「ファイヤーストーム」


 するとそんなリラの魔法は、いつもより強力に魔物達を灰にしていく。数百はいただろう空洞にひしめき合っていた魔物達は、端から魔石へと姿を変えていき……数十秒後には跡形も残っていなかった。


「ふぅ、綺麗になったね!」


 そう言って汗を拭いながら笑みを浮かべたリラは爽やかだ。まさか数百もの魔物を一瞬で燃やし尽くしたとは誰も思わないだろう。


「やっぱりリラは凄いや」

「ふふっ、ありがと。まあリョータの魅了があるからこそなんだけどね。無抵抗の魔物なんて誰でも簡単に倒せるから。でも私の魔法は全部を綺麗に燃やし尽くしてくれるから良いよね」

「うん。あれだけの数の魔物の死体が残るのは……ちょっと想像したくない」


 本当にリラが火魔法の使い手で良かった。風魔法で切り刻まれた魔物が残るとかだったら、こんなに穏やかな気持ちで冒険者をやってられなかったと思う。


「魔石を全部拾っちゃおうか。それからダンジョンコアを破壊しよう」

「そうだね。ダンジョンコアを壊すと強制的にダンジョンの外に排出されるらしいから、先に拾っておかないと手に入れられなくなっちゃうかも」

「そうなんだ。じゃあ尚更ちゃんと回収しようか。スラくんも好きなだけ食べて良いよ」


 俺は魔石の山に瞳を輝かせている……ような気がするスラくんを地面に下ろしてあげた。するとスラくんはぷるんぷるんっと嬉しそうに体を揺らして、近くにある魔石を取り込んでいく。


「ユニーは地上に戻ったら果物をあげるからな」

「ヒヒンッ!」


 それから皆で魔石を集めること数分、空洞に散らばった魔石は全てアイテムバッグの中に収まった。あとこの空間の中にあるのは、なんとなく妖しい色に光っているダンジョンコアだけだ。


「これって刃物で簡単に割れるんだよな?」

「そうらしいけど……こんなに大きくて綺麗な石を割っちゃうのは、少し勿体ない気がするね」

「うん。ちょっとそう思う」


 ダンジョンコアは両手でやっと抱えられるほどの大きさなのだ。こんなに大きな宝石があったら、相当な値段になると思う。


「でも放っておいたらまた魔物を作り出すんだよな」

「そうだよ。だから壊しちゃおう」


 それからリラと少しだけ話し合って、今回はリラがダンジョンコアを壊してみることになった。ナイフを手に持ったリラがダンジョンコアに近づいて……思いっきりナイフを振り下ろすと、ガキンッという硬質な音が響き渡り、ダンジョンコアはさらさらと砂のように崩れていく。


「うわぁ……こんなに綺麗なんだ」

「凄く不思議な石だなぁ」


 それからしばらくダンジョンコアが崩れる様子を皆で見守って、ダンジョンコアが跡形もなくなったところで、突然強い光に身体中を包まれた。


「リラ、大丈夫!? ユニーとスラくんも!」

「うん。ちゃんといるよ」

「ヒヒンッ」


 リラとユニーの声が聞こえてきて、腕の中にいるスラくんのプルプルボディーを感じられたことで少し安心する。変なところに飛ばされたり、地中に閉じ込められたりしないよな。そんな不安を胸に抱きつつ強い光に身を預けていたら……突然、強い光が消えたのが分かった。


 恐る恐るまぶたを持ち上げてみると――そこは、ダンジョンの入り口があった森の中の谷底だった。


「戻ってきた、のか?」

「……そうみたいだね」


 隣にはリラとユニーがいて、腕の中にはスラくんがいる。俺は全員が無事なことにほっとして、安堵のため息を吐いた。


「これで依頼達成かな。思ったよりも簡単だったな」

「うん。何事もなく終わって良かったね」

「うぅ〜ん、王都に戻ろうか。一泊の短いダンジョン生活だったけど、やっぱり疲れたみたい」


 大きく伸びをしながらそう言うと、リラも共感するように頷いてくれた。


「数日はゆっくり休みたいね」

「じゃあユニー、王都まであと少し頼んでも良い?」

「ヒヒーンッ!」

「ははっ、ありがと」


 ユニーはやる気に満ち溢れているようで、前足を持ち上げて嘶いてから、俺の顔をべろっと舐めてくれる。

 そうして俺達がダンジョンを潰せた達成感からのんびりと戯れていると、俺達の声が聞こえたのか上から数人の騎士が谷底を覗き込んできた。俺達の姿を確認して、さらにその隣にあったはずのダンジョンの入り口が無くなってるのを確認して、驚愕に声を張る。


「も、もうダンジョンコアを壊したんですか!?」

「壊してきましたよー。なのでここの見張りは今日で終わりで大丈夫だと思います」


 リラののんびりとしたその返答に、騎士達は大騒ぎだ。やっぱり二日間でダンジョンを潰したのは普通じゃなかったみたいだな。


「王都に戻ったらまずはギルドに報告かな」

「それが良いかもね。騎士さん達のこの様子だと騒ぎになりそうだし」


 それから俺達は騎士達に、ダンジョンコアは破壊したよーというような簡単な報告だけを済ませ、ユニーに乗って王都に戻った。そして王都の冒険者ギルドに向かうと、まだ情報は届いていないのか、ギルド内はいつも通りな雰囲気だ。


 受付に声を掛けて応接室に案内してもらうと、中にはギルドマスターであるウスマンさんがいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る