第31話 王都に到着
王都の街中に入ると兵士に囲まれた大きな魔車はかなり目立つようで、街の人にじろじろと訝しむような視線を向けられる。兵士に囲まれてるから、犯罪者だとでも思われてるのだろうか。
街並みはまだ王都の端だからかそこまで建物は密集していなくて、木々や花々がそこかしこに散見される感じだ。
「この辺は住むなら穏やかで良さそうな場所だね」
「うん。実際に住むなら都会よりもこういうところが良かったりするんだよな」
「……良いなぁ」
大通りを歩く家族をじっと見つめて、リラがポツリとそう呟いた。リラは幼い頃から孤児院で育ってきたらしいから、家族への憧れがあるんだろう。
俺も家族に会いたいな……一人で都会に出てアイドルになって、実家には年に一度ぐらいしか帰ってなかった。まだこの世界に来て一ヶ月、日本にいても家族には会いに行かなかっただろうけど、会えないと思うと会いたくなる。
俺の日本での扱いはどうなってるんだろうか。行方不明ってことになっているのなら、心配させてるよなぁ。心配し過ぎず元気に生きてくれてたら良いけど。
アリエーテも二人で続けているのか、活動休止か。十周年でまだまだこれからってところだったのに。
何もすることがなくて窓からぼーっと景色を眺めているだけだと、ついついネガティブなことを考えてしまう。
俺はそんな思考を振り払うために、魔車の横を歩くユニーとスラくんに視線を向けた。皆から注目を浴びているからか得意げな様子で歩いているユニーと、その背中でプルプル震えているスラくんが可愛い。……めちゃくちゃ癒される。
それからも王都の街並みやユニーとスラくんを眺めながら魔車は進み、街に入ってから一時間ほどが経過して、やっと目的地に到着したのか魔車は止まった。
窓から外を覗いてみると、王宮にほど近い場所にある建物の前みたいだ。
「今日泊まる宿かな?」
「そんな感じだよね」
「……ここって、かなりの高級宿じゃない?」
「私もそう思ってた。……ちょっと、気後れしちゃうね」
リラとそんな感想を述べながら窓から建物を見上げていると、魔車のドアが叩かれてギヨームさんに声を掛けられる。
「到着したが、開けても良いか?」
「はい。あっ、ちょっと待ってください! リラ、スキル封じを頼んでも良い?」
マジで危なかった……魅了スキルのことを完全に忘れて魔車のドアを開けるところだった。魔車の中はスキル封じをかけなくても良いのが便利だけど、魅了のパッシブスキルについて忘れそうになるのが危ないな。これからは気をつけよう。
「……危なかったね。私も忘れてたよ」
「気をつけないとだな。思い出して良かった」
小声でそんな会話をして笑い合って、リラにスキル封じをかけてもらった。そしてギヨームさんには平静を装って返事をする。
「ギヨームさん、もう大丈夫です」
「じゃあ開けるぞ」
ドアが開いて魔車から降りると、ユニーとスラくんがすぐに寄ってきて顔を擦り付けてくれた。本当に二人は可愛いなぁ。
二人を撫でながら改めて建物を見上げると、かなり高さのある建物だということが分かる。さらに横幅も大きい。こうして案内されなかったら一生縁がないだろうなと確信するほどに、気品溢れる建物だ。
「リョータ、リラ、ここが今日から滞在してもらう宿だ。謁見の日程は明後日だが、五日間はこの宿を借りてある。遠慮なく泊まってくれ」
「ありがとうございます」
「さっそく中に入るぞ」
「はい。従魔は大丈夫ですか?」
「もちろんだ。中は広いし一緒に入ってもらってくれ」
ギヨームさんの後ろに付いて宿の中に入ると、すぐに制服のようなものをビシッと着こなした男性に出迎えられた。
「お待ちしておりました。王宮の方からご依頼を承っております。リョータ様とリラ様でございますね」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いいたします。すぐにお部屋へ向かいたいとのことでしたので、手続きは全て済ませてありますがいかがいたしますか?」
「鍵だけいただけますか?」
「かしこまりました」
男性の問いかけにギヨームさんが答えると、男性は他の従業員に合図をしてすぐに鍵を持ってきてくれた。俺のスキルのことがあるから、すぐ部屋に行けるよう手配してくれたんだろう。本当にありがたい。
「宿の使用法や注意事項についてはお部屋に案内が置いてありますので、ご一読ください。何かございましたら当宿のスタッフ、こちらの制服を着ている者でしたら誰でも対応可能ですので、お気軽にお声がけいただければと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
男性から最低限の説明を聞いて、俺達は宿の部屋に向かった。国が確保してくれたのはスイートルームだったようで、ギヨームさんと数人の兵士と共に部屋の中へ入る。もちろんスラくんとユニーも一緒だ。
「うわぁ……広っ」
スイートルームは入ってすぐのところにまずリビングがあった。ソファーセットとテーブルセットが置かれているけど、それでもまだかなりの空間が余っているほどに広いリビングだ。
そしてそんなリビングにはドアが六つあり、四つはそれぞれベッドがある個室になっていて、他の二つはお風呂とトイレみたいだ。個室には鍵がかかるので、今回俺とリラはこのスイートルームに一緒に泊まることになるらしい。
「リョータ、リラ、ここに座ってくれるか?」
ギヨームさんの指示に従ってソファーに腰掛けると、ギヨームさんはさっそくこれからの予定を確認するために手帳を開いた。
「まずは今日と明日の話だが、特に予定はないため自由に過ごしてくれて良い。ただできれば宿から出ないでもらえるとありがたい。謁見の前に色々と打ち合わせがある可能性があり、王宮の近くにいてもらいたいとのことだ」
外に出るのはダメなのか。それは退屈だけど仕方がないな……謁見が終わってから王都はいくらでも見て回れるだろう。
――謁見で捕まるようなことがなかったらだけど。
「分かりました。宿にいることにします」
リラのその言葉に俺も頷くと、ギヨームさんはほっとした様子で頷いてくれた。万が一にでも俺達が行方不明なんてことになったら、責任を問われるのはギヨームさんなんだろう。
「明後日は朝から予定が詰まっている。朝食後はすぐに王宮へ向かってもらい、謁見の準備だ。謁見は午前中に予定されていて、終わればそのあとは自由となる。この宿に戻っても良いし、他の場所に向かっても良い。好きに動いてくれ」
「謁見はどの程度の時間がかかるのでしょうか」
「普通は十分もかからないほどだが、二人はもう少し長いかもしれない。したがってスキル封じの制限時間を過ぎてしまう問題についてだが、周りを騎士に囲まれた厳戒態勢下でなら、謁見の間でスキル封じを使用して良いことになった」
おおっ、それは朗報だ。マジで良かった。スキル封じの効果が切れて王族や騎士を魅了しちゃうとか、そんなことになったら牢屋どころか処刑台へ一直線になりそうだと思ってたんだ。
それからもギヨームさんは明日についての注意事項をいくつか話し、数十分後に兵士を連れて部屋を出ていった。
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