第21話 買い物

 冒険者ギルドを後にした俺とリラは、屋台風のお店が立ち並ぶ市場にやって来た。ゴブリン村を討伐した特別報酬で懐は温かいので、必要なものはほとんど買い揃えられるだろう。


「とりあえずは服だよね」

「うん、とにかく服を買いたい。後は靴もかな」


 靴はダンスが踊りやすいようにと動きやすいものだったから大きな問題はないんだけど、耐久性に難があるんだ。森や草原を歩くには、膝ぐらいまで長さのある革靴が良いらしい。


「私のおすすめのお店で良い?」

「もちろん。案内をお願いしても良い? 俺は全然分からないから」

「了解! じゃあまずは……あそこのお店ね」


 リラがそう言って指差したのは、服がお店から溢れるんじゃないかっていうほどに並べられたお店だった。店員は恰幅の良いおばさんで、数人いるお客さんと楽しそうに談笑している。


「おばさん、こんにちはー」

「おおっ、リラじゃないかい。また服がダメになったのか?」

「ううん。実は私パーティーを組んだんだ。それでそのパーティーメンバーのリョータに、このお店をおすすめしようと思って」

「そうなのかい!」


 店員のおばさんはリラと顔見知りみたいだ。リラのパーティーメンバーという紹介を受けて、俺に視線を向けてくれた。


「あんたがリラのねぇ〜。ずいぶん頼りなさそうだけど大丈夫なのかい? まあリラが襲われる心配はなさそうだけど」

「確かに頼りないかもしれませんが、リラの足は引っ張らないように頑張ろうと思ってます。とりあえず、リラに危害を加えるようなことは絶対にしません」


 俺が苦笑しつつそう答えると、おばさんはしばらく俺のことをじっと見つめていたけど、納得できたのか表情を緩めてくれた。


「そうかい。あんたは良い人そうだね、私は安心だよ。リラは強いから仲間は強くなくても問題ないからね。人柄が大事さ」

「おばさん、リョータは腕っぷしは強くないけど他が強いんだよ。詳しくは言えないけど凄いスキルを持ってるんだから。それに従魔も二人いるんだよ?」


 リラがそう言って、買い物客の邪魔にならないようにとお店の近くで待機していたユニーを呼んだ。ユニーが首を下げておばさんの前に顔を出すと、おばさんは驚いたのか一歩後ろに下がる。


「まさか……ユニコーンかい? 抱えてるスライムだけじゃなかったのか」

「そうなの。リョータも凄いでしょう?」

「ああ、ユニコーンを従えてるのは凄いね。あんたやるじゃないか!」

「ありがとうございます」

「それで今日は服が欲しいんだったね。私が似合うのを選んであげるよ!」


 おばさんはユニーを見ると途端にやる気になったようで、張り切って店のあちこちから服を持って来てくれる。どこにどんな服があるのか全部覚えてるのかな……凄いな。


「リョータ、ごめんね。悪い人じゃないんだけど、私のことを心配してくれてて」

「大丈夫だよ。悪気がないのは分かってるから」


 それに俺が弱いのは本当のことだからな。少しは強くなれるように筋トレぐらいから始めようかな……


「こっちに来な。ちょっとこれを着てみてくれるかい?」

「分かりました。ありがとうございます」


 奥に試着スペースがあるみたいで、靴を脱いでそこに入った。そして渡されたズボンとシャツ、そして上着に着替える。スラくんは着替えの間は床にいてもらったけど……そういえばスラくんって性別はあるのだろうか。


 もしあるならこれってセクハラ……? 今度リラに聞いておこう。気にしなくても良いのかもしれないけど、一度気になったら俺も考えちゃうし。


「お待たせしました」


 着替えて試着スペースから出ると、おばさんは真剣な表情で俺の上から下までを見回した。


「ちょっとズボンが小さいか、あんた意外と筋肉あるんだね。上着はもう少し小さくても良いかな。でも腕が長いから袖はこれ以上短くできないね。ふふっ、腕がなるよ」


 おばさんはそう呟いて楽しそうな笑みを浮かべると、先ほどたくさん選んでいた服の中から俺に合ったサイズのものを探してくれた。そしてまた俺の腕の中は、新しい服でいっぱいになる。


「次はこれを着てくれるかい?」

「分かりました」


 それからは試着をしてはおばさんが確認をして、時にはその場で少し丈の長さを直してと、何着もの俺にピッタリと合った服を用意してくれた。


「これぐらいあれば十分かい?」


 そう言っておばさんがポンと叩いた服の山には、上着が二つにTシャツが四つ、そしてズボンが二つ積み上げられている。


「はい。本当にありがとうございます」

「仕事だから当然さ。リラのパーティーメンバーが、サイズの合ってない粗末な服を着てるのなんて嫌だからね」

「おばさん、ありがとね」

「良いのさ。そうだ、下着は持ってるのかい?」

「いえ、今着てるのだけしか……」

「じゃあ下着も買わないとじゃないか!」


 俺の返答におばさんは驚いたように瞳を見開き、奥から布製の袋に入った下着のセットを持ってきてくれた。


「あんたの体の大きさならこれで問題ないはずだよ。この袋と中の下着はサービスでつけとくからね」

「え、良いんですか!?」

「たくさん買ってくれたからそのお礼だよ。その代わりまた服が必要になったらうちに来とくれよ」

「それはもちろんです。本当にありがとうございます!」


 そうして俺は必要な服を全て手に入れて、おばさんのお店を後にした。おばさんは笑顔で手を振って俺たちを送り出してくれている。

 ああいうちょっと世話焼きなおばさんって鬱陶しいなって思う人もいるんだろうけど、この世界に家族も友人もいない俺としては、世話を焼いてくれるのが思いの外嬉しかったな……また服が欲しい時はあそこに行こう。


「リラ、良い店を紹介してくれてありがとう」

「気にしないで。じゃあこれで服は手に入ったから、次は鞄を買いに行こうか。その服もずっと手に持ってるのは大変だからね」


 それから俺達は鞄屋で、冒険に出る時用のスラくんが入る場所と荷物を入れる場所が分かれている多機能カバンと、服や生活雑貨などを入れて宿に預けておく用の大容量のカバンを買った。

 これから俺はこの鞄に入り切るものだけで生活していかないといけない。ミニマリストもここに極まれりだな。

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