第10話 魅了スキルの危険性

 それにしても相手を意のままに操れるとか、その力って相当ヤバいんじゃないだろうか。危険人物だからって殺されるなんてことはないよな……ないとは言い切れないのが怖い。


「あの、アンドレさん。俺ってどうすれば危険だと排除されないと思いますか……?」

 

 こういうのはストレートに聞いたほうが良いんだと思ってそう質問すると、アンドレさんは呆れた表情をしながらも口を開いてくれた。


「お主は素直すぎるな。ただまあ、今回はその方が良いだろう。とりあえずお主のスキルは、冒険者ギルドの上層部と国に報告することになる。ただそこですぐに排除とはならないだろう。リョータが何かをやらかさない限りは様子見だな。まあ知らず知らずのうちに監視が付いていたり、そういうことがないとは言い切れんが」


 随分とぶっちゃけてくれるんだな。俺の中でアンドレさんの評価が上がった。監視がつく可能性か……それはそこまで気にしなくても良いかな。要するに悪いことをしなければ良いんだろうし。この能力をできる限りこの国のために役立てて、牢屋行きとか処刑とか、そういう未来は回避するように頑張ろう。


 多分この能力は使い方によっては強いと思うんだ。魔物を従えられたら怖いものなしだし。まあ問題も多すぎるスキルなんだけど。


「教えてくださってありがとうございます」

「このぐらいは構わん。では検証の続きをするぞ。ナタリア、効果範囲は分かったか?」

「はい。十メートルほどのようです」

「思っていたよりも広いな……では次は十メートルの範囲内でも魅力に掛からない方法がないか確認しよう」


 それからアンドレさんが体を張って何度も検証してくれたところによると、魅了は同じ空間の中にいなければ掛からないということが分かった。要するに壁を隔てた隣の部屋に人がいたとしても、その人は魅了にかからないのだ。

 つまり俺が宿屋の部屋にこもって扉を開けない限り、他の人に魅了の影響がいくことはないということになる。また魔車と呼ばれる馬車のような乗り物があるらしいが、これに乗って窓を開けなければスキル封じなしでも移動できるということだ。


「リョータ、とりあえずお金を貯めて私達専用の魔車を買おうか」

「それが良いな。リラ、ありがとう」


 同じ空間にいなければ大丈夫というのは、本当にありがたい。宿で寝る時はどうすれば良いのかと心配だったのだ。最悪は野宿か、効果範囲に人がいないような、めちゃくちゃ広い高級宿に泊まらなければならなくなるところだった。


 同じ空間にいなくても俺が魅了を掛けようと思って声に魔力を乗せてしまえばダメみたいなので、声を発する時には気をつけようと思う。


「とりあえず、ここでできる検証はこのぐらいだな。あとは魔物に対してだが……そこのリョータに従っている従魔二体は、リョータに自ら寄ってきたんだろう?」

「はい。ただ人間ほど熱烈にではないです」

「そうか……その二体はヒールスライムとユニコーン、魔物の中ではかなり上位の存在だ。その二体が寄ってくるということは、魔物に対してもかなり効果があるだろうな。ただもっと強い魔物も多くいる。より強い魔物には効かない可能性もあるので気をつけたほうが良い」


 スラくんとユニーは上位の存在だったのか。それにヒールスライムって、やっぱりスラくんが俺のことを助けてくれてたんだな。スラくんと出会ってから疲れも喉の渇きも感じなくなったのだ。


「ヒールスライムって体力を回復したり傷を治したりできるんですよね?」

「そうだ。攻撃力はないが動きは素早く、人の前には姿を現さない珍しい魔物だ。ユニコーンは人に幻覚を見せて森を迷わせる能力を持つ。さらに蹴り技もかなりの威力だ」


 スラくんはヒールスライムだとバレたら危険そうだな。珍しい魔物で攻撃力がないなんて、連れ去られる未来しか見えない。

 絶対にスラくんは守る。俺はそう誓って腕の中にいるスラくんをぎゅっと抱きしめ直した。


「アンドレさんは、何でスラくんがヒールスライムだと分かったんでしょうか?」

「さっき街の外でリョータを襲ったうちの職員を撃退した時に、体液を飛ばしてるのを見たからな。あの色と輝きはヒールスライムだった」


 そういうことか。じゃあ体液を飛ばすところを見られなければ、とりあえず大丈夫ってことだな。気を付けよう。


「この街では、というかこの国では魔物を連れ歩くのって普通ですか?」

「ああ、テイマーもいるから珍しくはないな」

「分かりました。色々と教えてくださって、本当にありがとうございます」


 俺はアンドレさんとナタリアさんに、心からの感謝を込めて頭を下げた。何とかこれからやっていけそうなのはこの人達のおかげだ。最初に出会えたのが良い人達で本当に良かった。


「これから大変だと思うが頑張れよ」

「はい、できる限り迷惑はかけないように努めます」

「ああ、そうしてくれ」

「じゃあリラ、これから街を案内してもらっても良い? 宿も紹介して欲しいんだけど」

「もちろん!」


 そうして俺は何とかこれから生活していけそうな予感に安堵しながら、リラと共に冒険者ギルドを後にした。もちろん訓練場を出る前にスキル封じを掛けてもらったので、普通に街を歩ける状態だ。

 やっと街並みを楽しめそうだ!

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