第十話 三空母の斬り込み攻撃 赤城編
空母蒼龍・加賀の突撃に続くように、空母赤城も行動を開始していた。
赤城に狙われたのは、戦艦ペンシルベニアだ。敵太平洋艦隊の旗艦であり、司令長官のハズバンド・キンメル大将が乗艦するこの艦は、一航艦元旗艦赤城にとって不俱戴天の敵であり、狙わないという選択肢はなかった。
そのペンシルベニアの状況は、前部に搭載していた主砲二基六門はその能力を喪失、さらにまともな装甲を持たない副砲や高角砲も少なくない数が破壊されていた。しかし、キンメル含む太平洋艦隊司令部員や艦長以下幕僚達は生存しており、指揮系統は全く健全であった。
こうした状況の中、赤城の突撃は敢行された。この突撃はペンシルベニアの混乱もあって、艦同士の距離八千メートルまでまったく被害を受けなかった。だが、体勢を立て直したペンシルベニアから、後部主砲からの砲撃やいまだ健在な副砲・高角砲による射撃が開始された。
ペンシルベニアからの攻撃に、艦長の
だが、距離三千メートルからはペンシルベニアの射撃精度も向上、副砲や高角砲からの砲弾を次々と受け始めた。幸いにも、巡洋戦艦から改造された赤城には少なくない装甲が施されており、戦闘への支障は全く発生していなかった、
しかし、距離二千五百メートルに近づいたとき、遂に赤城は左舷中部・右舷前部の二箇所に主砲弾を被弾した。二発の主砲弾は、元巡洋戦艦の薄い装甲を簡単に食い破り、船体に甚大な損害を与えた。幸いにも、機関や二十センチ砲などの主要区画への損害は最低限に抑えられたが、被弾箇所からの浸水が大きく、赤城の速力は二十八ノットにまで低下、二度ほど左舷に傾斜した。
長谷川は、この事態にすぐさま対応、態勢の立て直しのために操艦へ全力を注いだ。だがこの損害は大きく、赤城は主砲弾の直撃は避けたものの、副砲・高角砲弾を多数被弾、船体はだんだんと蝕まれていった。
長谷川が死を覚悟し、キンメルが勝利を確信したその時、ペンシルベニアに多数の主砲弾が降り注いだ。戦艦比叡から支援砲撃が行われたのである。実は、赤城の苦戦を確認した比叡艦長の
比叡からの砲撃は、『赤城を救え』と魂を燃やす乗員達の努力も相まって、実に第二斉射目で一発の三十五・六センチメートル砲弾を命中させた。さらに、第三斉射目では三発の砲弾を命中させた。
被弾した三発の主砲弾は、第四主砲塔と前部船体に命中した。艦同士の距離が一万メートルを切っていたため、第四主砲塔は全壊・前部船体も大きく破損した。比叡からの砲撃は、その後もペンシルベニアへ損害を与え続け、比叡の勝利も時間の問題と見られた。
しかし、ペンシルベニアに残る最後の主砲、第三主砲塔からの一発の砲弾が比叡第二主砲塔に直撃、弾薬庫への引火すらありえる緊急事態に陥った。最終的には弾薬庫への引火は阻止されたものの、延焼防止作業のために比叡は砲撃の中断を余儀なくされた。
この状況に、長谷川は赤城を突進させ続けた。ペンシルベニアとの距離が三百メートルにまで迫った時、長谷川は赤城を大きく転舵させた。
この謎の行動に艦内では困惑に包まれていたが、長谷川が次に行った命令に誰もが驚愕した。
「砲術長!砲撃可能なすべての砲塔をもって、敵ペンシルベニア級戦艦艦橋に砲撃を敢行せよ!キンメルを我々の手で黙らせるんだ!」
この命令を受け、使用可能な二十センチ砲や十二センチメートル砲による砲撃が敢行された。常軌を逸した長谷川の賭けではあったが、軍配は赤城に上がった。ペンシルベニアの艦橋は多数の砲弾の命中によって崩壊、太平洋艦隊司令部員は艦橋もろとも全員戦死した。
三空母の執念ともいえる行動は、日米初の艦隊決戦に終止符を打ったのであった。
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