第二話 三空母被弾

 被弾した空母は、赤城だけにとどまらなかった。


 赤城と同じ一航戦所属の空母『加賀』では、艦長の岡田次作おかだじさく大佐が発砲炎確認後から、決死の操艦を行っていた。


 「発砲炎を再度確認しました!こっちに来ます!」


 「取り舵一杯急げ!」


 岡田は、そう絶叫した。だが、現実は非情だった。


 「ダメです、間に合いません!」


 「総員、衝撃に備えろ!」


 岡田がそう言い放ち、頭を押さえながら少ししゃがむと、瞬時にすさまじい爆発音と艦の揺れが伝わってきた。この時、加賀は実に四発の敵弾を受けた。艦後方右舷、前部エレベーター、前部リフト、艦中央やや左舷の順番で命中し、赤城と同じように甲板の機体が誘爆し、甲板は炎上した。奇跡的に艦橋へは被弾せず、艦長以下戦死による人事不省に陥る最悪の事態は避けられた。実際、海戦後の各種調査では、被弾箇所があと一メートルずれていたら、人事不詳に陥ったと結論付けられている。


 一方、空母『蒼龍』では多くの乗員が赤城・加賀の被弾を目撃していた。蒼龍艦長の柳本柳作やなぎもとりゅうさく大佐も、そのうちの一人だった。


 「赤城に加賀まで………、一航戦は壊滅か!すぐにこっちにも敵弾が来るに違いない。総員戦闘用意!ならびに面舵一杯急げ!」


 柳本の声に、艦橋の人々が慌てて動き出した。加賀とは違って面舵を命じているが、これは蒼龍の前方には被弾して速度を落とした赤城が、左前方にも同じく被弾した加賀がいるため、面舵を命じることしかできなかったからだ。


 柳本は必死の操艦を行ったが、米太平洋艦隊が誇る戦艦八隻の攻撃には、耐えきることができなかった。


 「右舷前方から、再度多数の発砲炎確認!数え切れません!」


 「取り舵一杯、急げ!左舷各乗員は艦内へ急ぎ退避し、乗員は衝撃に備えよ!」


 柳本がそう命令した後、急いで舵がきられたが、遅々として艦は動かなかった。柳本が被弾を覚悟し、目を閉じると同時に蒼龍は被弾した。


 この時、蒼龍は三発の敵弾を受けた。三発の敵弾は、左舷前方・中央・後方のエレベーターに命中した。敵艦隊発見から、被弾までの時間が一航戦よりかは長かったことで、甲板の爆弾や魚雷は海へ投棄されていたおかげで、被害は左舷艦体の破損のみで済んだ。しかし、艦内に残っていた爆弾が誘爆したことによって甲板は大破し、蒼龍は空母としての能力を完全に失った。


 幸いなことに、赤城・加賀・蒼龍が米戦艦の敵弾を引き受けたことによって、飛龍と五航戦ら残存空母は、二航戦司令官山口多聞やまぐちたもん少将の指揮で、空母の高速性を活かして逃走することに成功した。


 だが、一航艦が保有する空母戦力の半数を失ったことには変わりはなかった。発艦準備中だった第二波攻撃隊は、半数が炎上する三空母と共に焼失し、逃げ遅れた数名の搭乗員・整備員も死傷した。


 帝国海軍の誇る第一航空艦隊は、主力三空母の戦線離脱によって半身不随に追い込まれたのだった…

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