第17話 愛は盲目
『許してあげる』ただその一言が言えなかった。
君が人殺しだと分かった時、許してあげなければならなかった。
僕が、僕だけが、世界中でたった一人、君の全てを受け入れる存在になりたかった。
お互いにお互いを受け入れたかった。
隠し事ばかりで、自分の罪を認めようとしない、ふらっと現れ、気づけば消えている、自分勝手で独占欲は人一倍強い。僕を不安に、不安定にさせる。
だから僕は君を不安に、不安定にさせたかったんだ。
僕が、僕だけが、世界中でたった一人、君の全てを受け入れる存在。僕が消えたら君は生きていけない。そんなことができたらどんなに愉快だろうか。
お互いがお互いの命を握る。
でも、でも、できないのはいつも僕だ。
君を殺し、血で自分の顔が汚れた時、僕は不愉快だった。
これほどまでに望んだ君の死を、僕は惜しんだ。
君について僕は何も分かれなかったと気づいた。後の祭りだった。
君はいつか僕の書く世界は感情が欠落していると言った。だから好きだと言った。
『じゃあもう僕の書く世界は色褪せたでしょう。僕の感情がこれほどまでに色づいてしまったから』
もう僕の全ては誰でも受け入れられる。単純で凡庸な彩溢れるものになってしまった。だから言うよ。僕の未練は君を許せなかったことだけだと。誰も僕の愛に文句なんて言わせないと。
最初から君はこの結末を予想していたのかもしれない。
僕も薄々分かっていた。君の世界から抜け出せない感覚が好きだった。
ナイフが刺さり、自分の血でカスミソウの押し花が染まる。心が揺さぶられる。
消えるのは怖くない。ただ不愉快だよ兄さん。
僕は君に殺されたかった。
『あれ?でも兄さんはなんで…』
先生、先生。
「ごめん私ちょっと頭が痛くて、部屋で休む」
思い出そうとすればするほど、晴れかけた頭の霧が濃くなっていく。頭が割れそうだ。
「大丈夫?」
「休んだほうがいいですよ」
「平気か?」
みんなが私を見る。霧が一気に晴れる。部屋に駆け出す。
短い廊下なのに、いつまでもたどり着けない。めまいがする。吐けるものが残っていたら吐いてた。
「凌ちゃん先生…」
部屋に入り、扉を閉め、崩れた。
その時私は初めて知りたくないと思った。
「凌ちゃん先生が永遠の罪を犯すわけないっっ…!!」
凌ちゃん先生が
私の初恋は高校の担任、凌ちゃん先生だった。
約60年越しの気持ち。
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