押してダメでもさらに押す
翌朝。私は珍しく紫音より早起きをした。特に何かするために起きたわけでは無いが、なんとなく目が覚めたのだ。
私は紫音を起こさないようにスマホで時間を確認してみると、まだ5時30分ほどだった。
スマホをもう一度枕元に置いたあと、改めて紫音の方を見てみる。
(紫音の寝顔をちゃんとみるのは初めてかも。前は風邪引いてたからそれどころじゃなかったし。…それにしても紫音の寝顔をめっちゃ可愛いんだけど)
もともと紫音は美少女だし背も高くてかっこいいのだが、寝てる時の彼女はとても可愛らしくて胸がキュンとする。
我慢できなくなった私は、彼女を起こさないように頭を抱き込み、自身の胸元へと引き寄せて抱きしめる。
すると、紫音は寝ぼけているのか私の背中に腕を回して抱きしめ返し、さらに私の胸へと顔をすり寄せてきた。
(か、可愛い…)
あまりの可愛さに気持ちが溢れてしまった私は、彼女の頭に何度もキスをする。
そうしてしばらくの間、彼女の可愛さを堪能していると、紫音が目を覚ました。
「…ぅぅん?はくの…?」
「おはよ、紫音」
「…おはよぉ〜。なんか凄くいい香りがする」
紫音は蕩けた声でそう言うと、さらに私のことを強く抱きしめてくる。
(あ。これ私死ぬかも。紫音の可愛さに溺れ死ぬ。溺死って水じゃなくてもあり得るんだ)
もはや紫音の可愛さにやられた私の脳は正常な判断ができず、訳のわからないことを考え始める。
「…ん?おわっ?!ごめん、白玖乃!わー、寝ぼけてらずもねぇことした!」
しかし、ここで幸か不幸か紫音が完璧に目を覚ましたため、慌てて私から体を離した。
「だ、大丈夫だよ。凄く可愛かったし、私はいいと思う」
というか、そもそも最初に抱き寄せたのは私なのだ。なので彼女は何も悪く無いし、気にすることはないだろう。
まぁ、それと恥ずかしさは別なんだろうが。
その後、紫音が落ち着くまで少し時間を要したが、さっきの反応は私を意識してくれているみたいで凄く良かった。
(うーん、紫音は不意打ちに弱いのかな。なら、今後もタイミングを見て仕掛けていけば少しは私を意識してくれるかも)
一つの手がかりを手に入れた私は、今後どうやって彼女にアピールしていくかについて考えていると、気付けば隣に紫音はおらず、キッチンで朝食を作る準備をしていた。
「相変わらず切り替えが早い…」
そんな紫音の姿を見た私は、以前なら意識されてないと思い泣いていたが、覚悟を決めた今はむしろやる気が出てくる。
「しーおん」
「ほわっ?!」
私は紫音がまだ包丁などを持って無いことを確認すると、後ろからギュッと思い切り抱きしめて、少しだけ背伸びをして首筋にキスをする。
紫音はよほど驚いたのか、変な声を出して振り返ると、耳を少しだけ赤らめて口をあわあわする。
「は、白玖乃。なんだべさ、急に!そすたなことされたら驚くべ!?」
「したくなっただけ。それより、嫌だった?」
「いやってわけではねぇんだけんど…」
紫音はそういうと、一度天井を仰いで目を手で覆い、大きく深呼吸をする。
「白玖乃。今度からこういうことしたらだめだよ。いやってわけじゃないけど、急にされたら驚くし、何か持ってたら危ないからね」
「…わかった」
何故か子供を叱る母親のような雰囲気で紫音に止めるように言われたので、とりあえず反省することにした。
その後はいつも通りに朝食を食べると、学校に行く支度を済ませてアパートを出た。
学校に着いた私たちは、まずはお互いの席にカバンを置くため別れて向かう。
そして、私は自分の机の横にカバンを置くと、すぐに紫音のもとへと向かった。
「紫音」
「ん?どうしたの?」
「ちょっとごめんね」
私は一言謝ると、紫音の返事を聞かずに彼女の膝の上に横座りする。
「こ、今度はどうしたのさ」
「何となく。だめだった?」
「んぐっ。だ、だめじゃないけど」
「よかった」
紫音は恥ずかしそうにしながらも、私が座りやすいように腰に腕を回して落ちないようにしてくれている。
(こういう気遣いしてくれるところ、ほんと好き)
その後は紫音から何かを言われることもなく、結局チャイムがなるまで私は紫音の膝の上に座っていた。
午前の授業が終わると、私たちはいつもの4人でお昼を食べるために集まる。
「紫音」
「なに?」
「また座るね」
「…え?」
私は何をするかだけ簡潔に伝えると、紫音が呆けてるうちにすぐに彼女の膝の上に座る。
「あの、白玖乃。さすがにこれだとお昼食べれないんだけど…」
「大丈夫。私が食べさせてあげる。…はい、あーん」
「いや、でも…」
「あーん」
「くっ。あ、あーん」
私が何を言われても止める気がないことを悟ったのか、紫音は観念して与えられた物を食べる。
「いいこ。次はこっちを食べて。あーん」
「あーん」
「なぁ、うちらは何を見せられてるんだ?てか、もしかして付き合ったのかな」
「さぁね。でも少なくとも付き合ってはいないと思うわ。だって付き合ってたら、あの紫音があんなに我慢してるはずないもの」
「確かに」
一花と雅が何か話していたようだが、今は私にお世話をされている紫音が可愛くてたまらないので、それ以外の情報が頭に入って来ず、何を話していたのか分からなかった。
後に私は、この時二人の会話を聞いていなかったことを後悔することになるのだが、それはもう少し先の話となる。
その後も、私は紫音にご飯を食べさせながら彼女のことを愛でていく。
紫音がご飯を食べ終わる頃には、気付けば休み時間も残り20分ほどとなっていたため、私は急いで自分の分のお弁当も食べ終えて後片付けをする。
「あ。白玖乃、待って」
「なに?」
私は片付けたお弁当を持って紫音の膝から降りようとした時、突然紫音から呼び止められたので彼女の方を振り向く。
すると、紫音は私の方に少しずつ顔を近づけてくると、唇の少し横の部分にキスをしてくる。
「っ?!」
「ご飯粒ついてたよ」
「な、なら、手で取ってくれれば…」
「白玖乃が私の上になってるんだから無理だよ。ごめんね?」
「だ、大丈夫、です。…はい」
突然のことに思考が回らず、まともに喋ることもできない。
そして、顔はこれまで感じたことのないほどの熱を持っているということが感じられ、鏡を見なくても真っ赤なのが自分でも分かる。
(何で私がこんなにドキドキさせられてるの。ほんと紫音はずるい。
不意打ちであんなことされたら心臓が持たないよ。てか、紫音の唇柔らかすぎる。もう何もかもがやばい…)
「ほら、白玖乃。そろそろ戻らないと時間なくなるよ?」
「う、うん」
私はこんなにもドキドキしているのに対して、紫音はほとんど雰囲気が変わっておらず、慌てていたり照れている様子もなかった。
そんな彼女の姿が何とも釈然とせず、次はどうやって攻めてやろうかとあれこれ考えながら自分の席へと戻ろうとした時--
「こんなの生殺しだよ。早く…」
後ろから何か聞こえたかと思うと、全身にゾワっとする感覚が駆け巡る。
そう、まるで肉食獣に狙われるウサギのような。きっとそんな感覚に近い何かを感じた。
「どうしたの?」
私は慌てて後ろを振り向くが、そこにはいつもと変わらない紫音しかおらず、先ほど感じた感覚もすでになくなっていた。
「な、何でもない」
「そう?体調悪かったりしたら言ってね!」
「ありがと」
さっきのあれが何だったのかは分からないが、現段階では考えてもどうすることもできないと思ったので、とりあえず気にしないことにして自分の席へと戻るのであった。
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