この気持ちは恋心
ご飯を食べた後、お客さんである多賀城さんを先にお風呂に入らせ、その後に紫音がお風呂に向かった。
その結果、私と多賀城さんの二人だけが部屋に残る形になった。
「ねぇ、橘さん。橘さんは、しーちゃんのことが好きなの?」
「…好きだよ」
一瞬、好きなのかと聞かれてドキッとするが、おそらく友達としてだろうと思い、平然を装って言葉を返す。
「それは友達として?それとも恋愛対象として?」
だが、多賀城さんはどうやら友達としてという意味ではなく、恋愛的な意味なのかを知りたいようだった。
だから私は、今の自分の気持ちを探り探りに伝えていく。
「…多分、恋愛的に好きなんだと思う。…ただ、あまり自信が持てなくて、自分でも本当にそうなのかたまに分からなくなる」
「なるほどね」
「多賀城さんは紫音のこと好きなの?今日も腕を組んだり手を繋いだりしてたけど」
「好きだよ」
私は、今日一番気になっていたことを彼女に聞いてみた。
すると、彼女は何の躊躇いもなく好きだと言い切ると、私のことをじっと見つめてくる。
私は、多賀城さんが紫音を好きだと聞いた瞬間、また胸の奥がモヤモヤしてきて、それと同時にズキリと痛む。
「ふふ。冗談だよ。そんな怖いかをしないで。確かにしーちゃんのことは好きだけど、私は友達としてだから。
それに私、地元に彼女がいるから安心して?」
多賀城さんはそう言うと、何故か楽しそうに笑いながらカバンからスマホを取り出し写真を見せてくれた。
そこには紫音と多賀城さんともう一人、髪を短く切った、ボーイッシュな女の子が写っていた。
「この子が私の彼女で、宮本あずさ。私たちはあーちゃんって呼んでるの。私たち三人は幼馴染で、ずっと小さい頃から一緒だったんだ。
だから安心して?しーちゃんを取ったりしないから。むしろ応援してるから頑張ってね!」
私の手を取りながら多賀城さんはそう言うと、いつでも連絡を取れるようにと連絡先を教えてくれた。
「あ、それと。最後に自信がないって言ってたけど、あんなに嫉妬してるんだからちゃんとしーちゃんのこと大好きだと思うよ?
むしろあれで好きじゃなかったら、何が好きってことなのか私には分からないかな」
「嫉妬…」
多賀城さんから言われた嫉妬という言葉で、私が今日一日感じていたモヤモヤした感情が何なのかようやくわかった。
私はどうやら二人に嫉妬していたようで、言われてみると確かにと、すんなり納得することができた。
「そっか。私、ちゃんと紫音のことが好きなんだ…」
「うんうん。だから自信を持って!あとは行動するのみだよ!頑張って!」
「ありがと」
私は最後にお礼を言ったあと、多賀城さんがどうやって彼女と付き合ったのか、紫音にアピールするにはどうしたら良いのかを教わった。
その後は紫音がお風呂から上がると、私もすぐにお風呂に入り、みんな疲れていたこともあってすぐに眠りについた。
翌日になると、紫音はいつものように朝食を作ってくれていた。
今日は文化祭の翌日なので学校は休みだが、多賀城さんの分も作る必要があるので、少し早めに起きたようだ。
「んー!昨日もくったけんど、やっぱししーちゃんのご飯はうんめぇなぁ!」
「それ、この間帰省した時も言ってたべ」
「うんめぇのは事実なんだがら、こういうのはしっかり伝える事が大事だべ!な、橘さん!」
「うん。紫音のご飯はいつも美味しい」
「白玖乃まで。ありがとう、二人とも。あとゆーちゃんは訛りすぎ」
その後も、いつもより少しだけ賑やかな朝食を終えた私たちは、使った食器などを片付けていく。
「しーちゃん、このゴミはどごさなげればいいの?」
「そいづはそっちのゴミ箱さなげどいてけろ」
「わがった」
紫音は多賀城さんと二人で話すとき、どうしても訛ってしまうのか私と話すときよりも訛る事が多い。
(私もいつか、紫音が鈍ってても話をできるようになりたいなぁ)
小さな目標ができた私は、二人の会話と行動から、分かる範囲で何が何を意味するのか観察していく。
そんな風に午前を過ごして午後になった頃、そろそろ多賀城さんが帰る時間になったらしく、私たちは近くの駅まで見送りに来ていた。
「んじゃ。しーちゃん、またね」
「気をつけてけーるんだよ」
「わがってる」
「あーちゃんにもよろしくね」
「うん。それと、橘さんも頑張ってね。もしよかったら今度遊びにきてよ」
「ありがと。絶対行くね」
「楽しみにしてる」
多賀城さんはその言葉を最後に満足そうに一度頷くと、東京駅に向かうため電車へと乗って行った。
「さてと!私たちも帰ろうか!」
「そうだね」
私はそう言うと、紫音と手をそっと繋ぐ。出かける時はいつも何気なく手を繋いでいる私たちだが、今日は多賀城さんが帰ったことで紫音が少しだけ寂しそうだったので、その寂しさに寄り添う意味を込めて私から繋いでみた。
紫音は少しだけ驚いていたが、すぐに嬉しそうに笑うと握り返してくれた。
「白玖乃、夜ご飯は何食べたい?」
「んー、シチューかな」
「わかった。楽しみにしてて!」
そんな何気ない会話をしながら私たちは、帰りに食材を買ったりしながらアパートへと帰るのであった。
次の日。今日は午前中が文化祭の後片付けに当てられているため授業がなく、私たちはみんなで協力しながら片付けをしていた。
紫音は一花と二人で大きいものを片付けており、私は雅と一緒に小物を片付けていた。
私は以前の夏祭りの日に雅からアドバイスをもらったことへのお礼と報告をしたいと思っていたので、二人きりになれたのはちょうどよかった。
「ねぇ、雅」
「なにかしら?」
「前に夏祭りの時に紫音とのことでアドバイスくれたの覚えてる?」
「えぇ、もちろんよ。それがどうかしたの?」
「私、紫音が好き。友達としてじゃなくて、一人の女の子として好きなの」
「…そう。答えが出たのね」
雅はそう言うと、どこか安心したような嬉しそうな顔で微笑んでくれた。
「それじゃ、これからどうするのかしら?」
「アピールするつもり。でも、何をしたらいいのか分からないから、相談に乗って欲しい」
「なるほど。そうね。…手を繋ぐとかはいつもしてるのを見てるし、抱きしめるのも紫音からしてるものね」
雅は真剣な顔で色々と考えてくれているが、どれも今までやったことのあるもので、新鮮味に欠けるものばかりだった。
「一緒にお風呂に入るとかは?」
「たまに入ってる」
「…一緒に寝るのはどうかしら」
「毎日一緒に寝てる」
「……あなたたち、なんでそれでまだ付き合ってないわけ?」
言われてみれば確かにその通りだ。手を繋いで抱きしめあって、一緒にお風呂に入って寝てるのに何故付き合っていないのか。
むしろこれ以上のアピールとかない気がしてきた。
「これ、アピールするとかないかも。詰んだ?」
「詰んではないと思うけれど…そうねぇ。白玖乃から抱きしめてみるのはどうかしら」
「私から?」
「そう。私たちが見た限りだと、いつも抱きしめるのは紫音からだし、白玖乃からっていうのはあまりないんじゃないかしら」
「そうかもしれない」
「なら、いつもする側が突然される側になると少なくとも意識しちゃうと思うのよ」
「なるほど。一理あるかもしれない」
雅から言われたことには、私も思い当たる節がある。実際私自身も今は慣れてしまったが、最初の頃は紫音に抱きしめられたりするたびに意識してしまっていた。
それに、以前私から抱きしめた時には彼女も驚いていたし、多少意識はしてくれていたと思う。
「ありがと。今日からは私からもやってみようと思う」
「頑張るのよ。何かあれば相談になるからね」
「うん」
こうして、紫音に私を恋愛対象として意識してもらうためのアプローチが始まったのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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