風邪と夏祭り
一花たちとプールに行ってから数日後、その日は目が覚めると隣で紫音がまだ寝ていた。
紫音もたまには疲れて起きれない日があるのだろうと思い、私は最初にベットを降りて顔を洗いにいく。
顔を洗ってベットの近くに戻るが、紫音が起きる様子は無かった。
時計を確認してみるとすでに11時半で、さすがに心配になった私は彼女のことを揺すってみる。
「紫音。起きて?もう11時過ぎてるよ?」
「んー。白玖乃…?」
私の名前を呼びながらこちらを向いた紫音の顔は少し赤く、意識が朦朧としているようだった。
「紫音、もしかして熱あるんじゃない?」
「どうだろ。体は怠い気がするけど…」
熱を測るため、そう言う紫音の額に手を置くと、体温計など使わなくてもわかるほどに熱が高かった。
「熱あるね。確実に風邪だよ。今日の家事とかは全部私がやるから、紫音は休んでて」
「ん。ごめんね、白玖乃」
「気にしないで。むしろいつも紫音に頼り過ぎてたのが良く無かったんだ。
だから今日は任せてよ。それと、欲しいのがあったら買ってくるから言ってね」
「ありがと…。じゃあ、さっそくで悪いけど、喉乾いたから水もらえる?」
「わかった」
冷蔵庫の中に買い置きの水があったはずなので、私はそれを取りに行きコップに注いだ後、確か紫音が風邪を引いた時ようにと薬も買っていたことを思い出したので、薬も一緒に持って紫音のもとに戻る。
「お待たせ、水だよ。あと、一緒に薬も持ってきたからこれも飲んで」
「ありがと。…ふぅ、冷たくて美味しい」
「これからコンビニに何か買いに行くけど、食べたいのある?」
「プリンと桃のゼリー」
「わかった。それじゃあ行ってくる」
「気をつけてね」
紫音に見送られた私は、コンビニに向かって歩きながら他に必要なものは無いかと考える。
(うーん。看病とかした事ないから、何が必要なのか分からないなぁ。とりあえず一通り見て必要そうな物があったら買えばいいか)
そう決めた私は、早く紫音のもとへ帰るために早足でコンビニに向かった。
「ただいまー。紫音、体調はどう?」
コンビニで買い物を済ませて部屋に戻り、すぐに紫音に体調のことを確認するが返事はなかった。
買い物袋を床に置いて彼女の様子を見にいくと、どうやら紫音は寝ているようだった。
私は起こさないようにそっと額に手を置き熱を測ろうとするが、体温計では無いので正確な変化が分からなかった。
ただ、寝顔はとても穏やかだったので、薬の効果はちゃんと出ているようだと安堵する。
その後、買ってきた物を冷蔵庫に移していき、音に気を遣いながら洗濯や掃除を済ませていく。
家事が一段落したので時計を確認してみると、すでに14時を回っていた。
私はお昼を食べていないことを思い出したので、コンビニで買ってきたお弁当を食べる。
「なんか、紫音の作るご飯に慣れたせいか微妙かも」
そんな事を思いながらお弁当を食べ終えた頃、ちょうど良く紫音が目を覚ました。
「おはよ、紫音。調子はどう?」
「おはよう。薬のおかげで、朝よりだいぶ楽になったよ」
「よかった。紫音が食べたいって言ってたプリンやゼリーを買ってきたから、食べたかったら言って」
「ありがと。少し口の中が気持ち悪いから、歯磨きたたら食べる」
紫音はそういうと、ベットから降りて洗面所の方へと歩いて行った。
その間に私はプリンとゼリーを準備して紫音が来るのを待つ。
しばらく待っていると、紫音はスッキリした顔で戻ってきて、テーブルの上にある物に気づいた。
「あ、私が食べたいって言ったプリンと桃のゼリーだ。用意しておいてくれたんだ」
「うん。歯を磨きに行ったし、すぐに食べるかなって」
「ありがと。さっそくいただくね」
紫音はまだ本調子じゃないのか、少し元気がない。それでも、プリンとゼリーを美味しそうに食べているので、明日には元気になっているだろう。
「…ふぅ。美味しかった。やっぱり風邪のときは桃だね」
「そうなの?私はあまり食べた事ないけど」
「え?じゃあうちだけなのかな。うちは風邪を引いたら桃のゼリーや缶詰を食べるけど…」
私はこれまで、風邪の時に桃を食べるということはなかったが、家庭によってはそういう所もあるようだ。
また紫音が風邪を引くような事があれば、すぐに桃を買いに行こうと決心する。
「あ、白玖乃。お願いがあるんだけど」
「ん、なに?」
「寝てる間に汗かいちゃったから、タオルで体拭いてほしい」
紫音はそう言いながら、先ほど洗面所に向かった時に持ってきたのであろう、水で濡れたタオルを渡してきた。
「わかった。背中だけでいい?」
「前もお願いしたらやってくれるの?」
「お望みとあらば」
「ふふ。前は自分で拭くから大丈夫だよ」
どうやら前は自分で拭くとのことなので、私は背中にタオルを当てた。
紫音の体はいつも一緒にお風呂に入っているので見慣れているはずだが、こうしてゆっくりと眺めるということはなかったので少しだけドキドキする。
「紫音の肌は綺麗だね。シミとか跡も無いし、雪みたいに白くてほんとに綺麗…」
「そう?自分ではよく分からないけど、改まってそう言われると照れるね」
汗を拭き終わった後、紫音はベットに戻ると後片付けをしている私をじっと見つめてきた。
「どうかした?」
「いや、白玖乃に面倒見てもらうのもたまにはいいなって思ってね」
「そういうことか。ごめんね、今まであまり手伝わなくて」
「大丈夫だよ。私も好きでやってることだし、白玖乃の面倒見るのは特に好きだしね」
「うーん。それはちょっと複雑な気分かも。明日からはもう少し手伝うようにするよ」
「楽しみにしてるね」
紫音は最後にそう言うと、また眠りについた。後片付けが終わった後は、干していた洗濯物を畳んだり、夜ごはん用に紫音のおかゆを作ったりして過ごす。
ちなみにだが、おかゆを出した時は紫音にとても驚かれた。
どうやら彼女の中では、私はおかゆすら作れない女だと思われている様なので、明日からのお手伝いを本気で頑張ることにした。
紫音の体調も翌日には良くなり、バリバリ私の面倒を見ようとしてくれたが、さすがに病み上がりは心配なので、二人で手分けして家事を行なった。
それから数日後、今日は一花たちが帰る前に遊べる最後の日で、予定していた通り夏祭りに来ていた。
私は紫音に着付けをしてもらい浴衣に着替え、紫音もその後に浴衣に着替える。
私は淡い水色に白の花柄の浴衣を着ており、紫音は黒に薄ピンク色の大きな花が描かれた大人っぽい浴衣で、見た目がクール系の彼女にはよく似合っていた。
「似合ってるよ、白玖乃。とっても可愛い!」
「ありがとう。紫音もすごく大人っぽくて綺麗だよ」
お互いに褒めあった後、私たちは下駄を履いて部屋を出て、一花たちとの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所は祭りの会場近くにある公園の前で、私たちが来た頃には一花たちも浴衣を着て待っていた。
「いつも待たせてごめんね」
「大丈夫よ。今日は時間通りだし、私たちが少し早く着き過ぎただけだから」
お互いに挨拶を済ませた後、私は二人の浴衣姿を見てみる。
一花は濃い青に向日葵柄で、元気な彼女には向日葵が良く似合っていた。
雅は白に鮮やかな紫色の紫陽花柄で、日頃から清楚なイメージのある雅だが、今日は特にその印象を強く受ける。
「それじゃ、みんな揃ったことだし行きましょうか」
雅のその言葉を合図に、私たちは祭り会場へと向かった。
祭り会場は当然の如く人が多い。なので、私たちは逸れないようにそれぞれ手を繋いで行動する。
私はいつものように紫音と手を繋ごうと思ったのだが、雅から誘われたので今日は彼女と手を繋ぐ。
それから私たちはいろいろな屋台を見て周り、定番の金魚掬いや射的、くじ引きなどをやって遊んだ。
その後はお腹が空いたので、焼きそばやたこ焼きなども買った後、花火を見るための場所を確保しに向かう。
幸いにも空いている場所があったので、私たちはそこで花火を見ることにした。
「紫音、一花。私買い忘れてしまったものがあるから、買いに行ってきてもいいかしら」
「いいよ!なら、私たちはここで待ってるね!」
「ありがとう。白玖乃、悪いけど一緒に来てくれる?」
「わかった」
私は雅が買い忘れたものを一緒に買うため、彼女について行くことになった。
紫音たちと離れてから少し経つと、雅が私に話しかけてきた。
「ねぇ。白玖乃。あなたに聞きたい事があるのだけどいたかしら」
「改まってどうしたの?」
「あなたは紫音のことをどう思ってるの?」
「好きだよ?」
「それは友達としてかしら。それとも恋愛的な?」
そこまで聞かれると、私はすぐに返答することかができなかった。
前から自分でも疑問には感じていた。だが、その事を深く考えないよう無意識に避けていた。
だって、仮に私が恋愛的に紫音を好きだとしたら、今後どうやって彼女に接すれば良いのかが分からなくなる。
想いを伝えたとしても、拒絶されたら悲しいだろうし、同じ部屋で暮らしていくのも辛くなる。
「すぐに答えは出さなくてもいい。あなた達のペースで進んでくれればいいわ。ただ、何も答えを出さないまま終わるのだけはやめてね。ちゃんと自分なりの答えを出してあげて」
「わかった」
今後、私がどんな答えを出すかはまだ分からないが、しっかりと自分の気持ちと向き合っていこうと決めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『人気者の彼女を私に依存させる話』
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