第4話 囚われし者
このケチなスリが女頭領の部屋に来るほんの少し前、カ・ルマの騎士により無理難題とも言える事を押し付けられ…しかも、ギルドの接収までもその視野に置かなければならなかった中、この時の女頭領は彼の者達による無礼なまでの態度に怒りを覚え…手当たり次第にアルコールというアルコールを浴びるように飲んでいたといいます。
そんなところへ格好の
「…なんじゃぁー--ぎざまぁ゛ぁ……」
「(おおっと、こいつぁ相当荒れてなさるねぇ)イヤぁ、ナニ…ワシはステラバスターと言うケチな男でしてね?とりわけ旨い話を、あんたさんに持ってきたんだがねぇ…どんなもんだろ?」
「帰れ―――帰れ帰れ帰れ! 妾は当分、人には会いとうない! どいつも…どいつもこいつも、妾の事を小バカにしくさりおって…。 お主も、お主もそうなのであろうが?!今の妾を見て、そう思うておるのであろう!女だてらに、ギルドの
「(…)ああ、そうさね。 だがね、今のあんたさんの、その
「ならば…何の用じゃ……早々に云い、早々に立ち去れぇい!!」
「(…)それより、あんた―――」 「うん…?」
「言葉に、訛りがありなさるね。」 「…何が、言いたい―――」
「少なくとも、この地域周辺じゃあない。 もっと東南…そう、『ヴェルノア』辺り―――と言った方が妥当かねぇ。」 「(…)それで…?」
「そこの王族に、確か一人娘がいたっけねぇ…確か―――名を―――おおっと…」
「―――フンッ。 言いたい事は、それだけか……」
「いいや、まだ続くよ。 その一人娘は公主となり、何不自由なく暮らしてきた。 だが…ある日を境に、行方を
「それが今は、こんな処で大酒を喰ろうておるとでも云いたいのか……ナニが…ナニが、キサマのような平民出に、妾の心の闇が分かろうか! 妾の着たい、流行りモノも着れず、まるで着せ替え人形のように決められたようなものしか着せられず―――女中共は
「(成る程ねぇ~王室と言えど、全て何から何まで一緒―――って言うわけではないらしいねぇ…この二人がいい例だ。)」
『浴びる』程の大量の酒を摂取し、前後不覚になるまでになってしまっていた―――当初は語気を荒げ、つい先頃にまであったとされる屈辱の数々を忘れようとも忘れられなかった―――そこへ、ケチなスリが入ってきて頭領の慰み者になるかと思いきや…ケチなスリは頭領が使う言葉の訛りが東南の地にあるとされる『列強』のものだと指摘したのです。 しかも…その『列強』の事情をも語らい始めた時―――頭領の知られざる事情も語られ始めた……しかも、物事の展開はこの後思いも寄らぬ方向に―――?
「お主も―――お主も所詮は妾の身体目当てにここへと来たのじゃろう? ―――どうじゃ…中々のものであろうが?これを見て、妾の胸を見て、下心を見せぬ者などおらなかったのじゃぞ?! 今の…今の妾なら、何をしても構わぬ―――お主の意のままの人形ぞ?」
「(…ふう)醜い…。 醜いよ、あんた…今酔ってるからいいようなものを、
「う…っ、うぅ―――」
「あんたも、元は位の高かったお人だ…喋り方から、立ち居振る舞いを見てりゃすぐ分かるよ。」
「……ナゼ―――」 「ぅうん?」 「ナゼ、お主は妾の事を見抜けた…。」 「
この女頭領、ケチなスリに見事なまでにその出身や身元を暴かれた為か、
そして思う所となったのか、髪の乱れを気にし奥の部屋に引っ込んだのです。
そして数分くらい後、奥の方から現れたのは―――…
あの姫君にも
「済まぬ、いらぬ手間を取らせてしまったな。 か、髪を結い直したついでに…着替えもしてきた。 じ、じゃが、勘違いなさるなよ?わ、妾は…ほ、本来このようなモノは、着たくはなかったのじゃが…あ、生憎と、これしか着れそうなのはなかったのでな…。」
「まあ、そういうコトにしときやしょう。」
「うむ、取り敢えずは、そうじゃな…ところで話しとは何か?」
「うん、その前に…あんた、『皇』って者の事は?」
「うん?『皇』?『皇』とは…あの古代の王朝の中でも仁政を敷き、諸国の王侯や民は云うに及ばず、人に
「然様、それだけ知っていれば、これからの事、話し易い。 と、言うのはだね…その『皇』って方は、その仁政に於いてだけではなく、とても情け深い…慈しみのあるお方だったそうだよ。 だからねぇ…そのお方が崩御された折には、人民や精霊、果てまたは草木までもが嘆き哀しみ、皆この世の終わりをも予感させたそうだよ…。」
「そのような事は、何も妾でなくとも皆知っておる。 その『皇』といわれる方、死してなお今、神として崇め奉られておるではないか。」
「ああ、その通り。 だが、この話そこで終わってしまえば単なる昔話、何もワシが語るまでもなく、そこら辺のガキでも知っている事さね。 だがね、ワシが言いたいのは、この『皇』と言われる方はご自分の死期を悟ると、こう言われたそうだよ…。」
{我レ死シタ後、尚、人心麻ノヨウニ
「と、ね。」 「ま…っ!ま、まさか……それは?!」
「いかにも、知ってのように『皇の御魂』と呼ばれる代物だよ。」 「で…っ、では―――なぜそれをお主が…」
「ワシはね、公主さん。 その…『皇の御魂』を持った人間と、一緒に暮らしたことがあったんだよ、幼い頃にねぇ…。」 「な…っ、なんじゃと?そ…そのような事、本当に?」
「ああ、このワシ本人が言うんだ、間違いはねぇ…ワシ自身アレを見るまでは、これもまた伝承の一つよ…と
「ワシの姉―――とは言っても、血は繋がってない。 まぁ、義理の姉といったところかね、『ジイルガ』というお人だよ。 だが…今はもうこの世にはいない…あのお人は、自分の命と引き換えに…このワシに第二の命を与えて下さった。 今ワシがこうして生き永らえているのも、『皇の御魂』を持ったジイルガ姉ちゃんのお蔭なのさ。」 「成る程…そうか、お主一度死に憂き目に。 それで、そなたの身代わりになって、その方が
「うん…っ、ワシはあの時ほど、声をあげて哭いた事はなかったよ。 自分でも、こんな哀しみが内にあるのかと思うくらいにね…。」 「(成る程…)―――ん?し、しばし待たれよ?!お主が『皇の御魂』を持つ者と一緒に暮らしていた…というのは分かったが、それでは…」
「そう、これもここでお終いにしちゃあ単なるワシの回顧録だ。 ワシが一番に言いたいのはだね、今現在のこの世に、その『皇の御魂』を持つ者がいる―――という事だよ。」 「な…なんですと?!そ、それは真か!?」
「虚か実か…それはまだ確証には至っていない―――が、ここのところ奇妙な事が起きているのも事実だ。 ほれ、あんたがしているそのロザリオもその一つだよ。」 「これが?!いや、しかし、これはテ・ラ国の―――(ハッッ!!) ま…まさか!」
「そう、ワシの勘が鈍ってなけりゃあ十中八・九、今の『皇の御魂』を持っているお人は、カ・ルマの連中が血眼になって探している―――その手配書の女性だよ。」
「なんと…(それであやつらあのように) フ…っ、それにしても、なぜにお主斯様な事を妾に…?」 「んん?ワケを言えってかい?そりゃあんた…アレだよ、個人でそう匿え切れるものじゃあなし、だが組織だとどうなるかね?」
「しかし―――現にこれを聞いた妾が…心変わりを起こし、己の慾のために…彼奴等に売るかもしれんぞ?」 「なぁに、そん時ゃあそん時さね、運がなかったと諦めるさ。 だがね、こう見えてもワシには人を
「そうか…相分かった。 で…その方、今どこに?」 「さぁー--て、ねえ…案外、そこら辺にでもいるんじゃあないの? それじゃあね。」
そう…このケチなスリが女頭領に言い置いた事。
それは当代きっての名君と讃えられた『皇』の『御魂』であり、今まさにそれを有している者が、かの亡国の姫君だ…と、云うのです。
それにしてもただのケチなスリかと思いきや、
* * * * * * * * * *
そしてケチなスリが帰った後で……
「(ふふ…
女頭領、何かを思い立ったらしく急遽とある者の所へ使いを走らせたようです。
そう…昼間、事もあろうにヒジ鉄を喰らわせ、物別れに終わらせた両替商兼鑑定士の
「あ…あの、何か御用……で?」 「うむ、先程はすまなかったな、些かこちらにも手違いがあったようじゃ、まだ…痛むか?」
「え?い、いえ―――」 「ハハハ、そう警戒せずともよい。 いや、実はのう…アレからよう考えたのじゃが―――お主の願い、聞き届けてやらん事もない……と、そう思うてな。」
「え…? な、何を…です?」 「フ…なんじゃ、もう忘れたのか? ほれ、ここの―――ギルドの専属の鑑定士になるという事じゃよ。」
「な…なんッ―――でえ?マジで?」 「確かに、あの時は妾を
「(ム、ム~~~?)」 「まぁ…アレだけの事をしでかしたのじゃ、今すぐに信じよ―――とは、無理な話じゃが…。」
「ホ、ホント…なんでしょうね。 また油断した時に―――ってのはナシですよ?お互いに…」 「フフ、では商談成立じゃな。 ところでお主…ステラバスターとか云う男の事を存じておるか?」
「え?ええ―――よく…て言うか、あいつとあたし、同じところの出なんですよ。」 「ほぉう…どこの?」
「それは―――教えられません。 言っちまうと、あいつに嫌われるから…」 「成る程、とどのつまりそなたもあの男の事を…」
「ええ、そうですよ…で、なけりゃあ、ワザワザこんなトコまで追っかけてやきやしない。 それに―――ね…あいつ、あの時から…あの人を失った時から、まるで人が違っちゃってさ…昔はこんな事にまで手を染める人間じゃあなかったのに…。」
「『あの人』…とは、よもやジイルガと云われるお方の事か?」 「え?ええ…そうですが―――どうしてあなたがあの人の事を?」
「うん?まぁ…な、そうか、お主ら同郷の出であったか、なればあの者のしでかしそうな事―――」 「ええ、皆までとはいきませんが、多少の事なら…」
「そうか…(ふうむ) なれば、あの者が使っていそうな宿を教えて欲しいのじゃがなぁ…どうじゃ、頼めるか?」 「は?はい…でも、どうしてあいつが使いそうな宿なんかを?」
「それはお主の
「うむ!上出来じゃ!感謝致しますぞ?ナオミ殿! これ、何をしておる、早う認可証を。 さあ、心良う受け取られよ、これでお主はここの専属の鑑定士様なのじゃからな。」
「ハハッ!ありがとうに存じますッ!」
こうして…鑑定士は、晴れて念願のギルド専属の鑑定士となる事が出来たのです。
これから…歴史を左右しかねない―――そして、彼女自身には何のことはない、とある重要な情報と引き換えに…
* * * * * * * * * *
そして鑑定士が帰った後で、ギルドではまさに急ピッチである事がなされようとしていたのです。 それは…
「よいか!なんとしても、あやつらの手に落ちる前に! この方の身柄を、当ギルドにて確保するのじゃ!分かっておるな!」
「「「「応ぅっ!」」」」
「よしっ!では―――行けいッ!!」
それは、カ・ルマ所属の騎士団より早く、姫君の身柄を確保するという事。 そして、今まさしくここに策謀と権謀術中が渦巻いていたのです。
そんな事とは知ってか知らずか、『
「(ふぅ…)本当に、食事をごちそうになった上に…今度は雨露を凌げる場所の確保―――ですか。 至れり尽くせりですわね、わたくしって…(今頃…あの方は何をなさっているのかしら?)あら、うふふ…わたくしったら、国を亡ってそう経たないでいるというのに、一人の男性をこうまで思ってしまえるなんて…(でも…でも―――あの方、見かけよりも本当に頼りになるんですもの…)不謹慎…ですよね、わたくしって。」
あの邂逅がなければ生きているかさえも分からないでいるこの身の上、それに言われもなき罪に
しかし―――そうした思いに
「おっ!いたぞ!」 「ええっっ?!」
「おお!そうか-――(ガサ…) よしッ!確かにこいつだ!間違いねぇ!」 「な、何者ですか!無礼な! お控えなさい!」
「お…おい、どうする?かな~り芯が強そうだぜ…」 「えぇい!構うな!これを使え!」「おぉッしゃい! ちょーッくらごめんなさいよ……」
「(ぅぐ…っ) な、ナニ…を?!(な、ナニ?これ…だ、だんだん意識が薄れて―――あぁ!た、助け…)ス…ステ……ラ―――」
『*クロロフォルム;有機化合溶剤の吸引式麻酔薬。 この頃にはまだ滅多と
寝泊まりしている木賃宿のベッドの上に体を横臥させ休める姫君…すると夜の
そして―――状況の終了…
気が付き目覚めると、先ほどまで自分が身を
もしかすると、これは……夢? ですが、それにしては現実味がかなりあったのです。
「(ぅ…ん……)…えっ?!こ、ここは―――どこ?テ・ラのお城??も、もしかして―――夢…で、でもこの手触り、感覚は…幻では…ないわ。」
何より驚いたのは、逃亡をする最中に着替える余地のなかった自分の衣服が、何者かによって着替えされられていた…それに、自分も王族なのだからそれなりの贅沢品を所有していたものなのに―――なのに、今着させてもらっているのは以前の自分の持ち物よりも高級なモノ?!
そして未だ頭の整理がつかないでいる中、この部屋の主が顔を出したのです…
「おお、どうやらお目覚めのようですな?テ・ラ国の姫君…」
「(…え?)わ、わたくしの事を―――知っておられるとは…あなたは一体?!」
「フフ…妾はこの組織、ギルドの頭領格である者よ」 「(え!)あ、あなたが―――ギルドの
「いかにも…女だったので面食らいましたかな?」 「は、はい…。」
「フフ、まぁ素直なことは真に結構なことじゃ。 いや実はな、さある者から依頼を受けておって、姫君の身柄を確保せよ…と、こうせがまれておってな。 それで取り急ぎ心当たりのところを探させ、少々手荒ながらも身柄の確保に踏み切った…と、こういうわけなのじゃよ。」
「(え?)そ…その、さある者とは、もしやステラ・バスターというお方の事ですか??!」
「うん?いや、さし当たってその者の名は聞いてはおらぬが故に…」
「そ、そう―――ですか…そう―――ですよ、ね?あの方なら、こんなにも人道的に
「(…)あなた―――様は、その者の事を…絶対的に信頼されておられる――――ので?」 「はい。」
「もし―――この情報が…彼の者の手によってなされた―――と、したなら?」 「そ、そんな事は…絶対ありえないことです!」
「成る程―――つまり、姫君はステラ・バスターという男の事を、お慕い申し上げている―――と、こういうことじゃな?」 「そっ、それは―――そ、そんな事、あなたには関係のない事なのでは?」
「オオッと、これは失言でしたな、許されよ。 じゃがしかし―――寝ておる時に、しかもうわ言のように…その者の名を幾度となく、繰り返し、繰り返し…言っておられたものでしてな…。」 「ええっ?!そ、そんなに? 言って…いました…か?」
「そう、何度も、何度も…な。 そして妾は
「あぁっ…そ、そうでしたか、わ、わたくしのふしだらなうわ言のせいで…どうか、どうかお許し下さいまし…。」
「(…成る程、やはりこう言う事か。 こうも
女頭領、この誘拐
そして姫君、拉致されてから頭領の部屋で寝かされている間にも、あのケチなスリの名を呼んでいたようです。(羨ましいですね、想われている…って)〕
* * * * * * * * * *
その一方で、あのケチなスリは何をしていたのかというと―――左馬亭にて…
「はあぁ?ギルドの連中に連れてかれただってェ?!」 「ああ、そうなんだよ、3・4人がドカドカと上がりこみやがってさ。」
「ふぅぅむ…(成る程、それがあんたの
「なぁ…ちょいと?スーさん。」 「え?あ…あぁ、イヤすまなかったね。 こいつは迷惑料だ取っときなよ。」 「そいつはいいんだけどさぁ、なんかヤバイヤマに首突っ込んでんじゃあないの?」 「(ヤバイねぇ…)ま、そうだとしてもこっちまではきやしないよ、ンじゃあね。」
姫君の拉致現場を
この時間の穴を埋める鍵はどこにあるのか…ケチなスリが考えながら歩いているところに、当事者の一人であるあの鑑定士に出くわしたのです。
「よう!ア~ンタ、元気してるかい♪」 「いよう、ナオミ。 どうしたい、えらく機嫌がよさそうじゃあないか。」
「いャあ~ナニね? あ、それよりさ、これ見てくれよ。」 「んん?ナニナニ…認可状じゃあねぇか、どうしたんだ?こんなもん。」
「なんとさぁ…あたし、ここの専属の鑑定士になれたんだよ~!」 「ほぉ~そいつはおめでとう。 んで?どんな手柄を立てたんだい。」
「それがさぁ~~たった二つの宿屋、教えただけで向こうさんが取引に応じてくれてねえ~~~。」
「(うん?)どこと…どこだい…。」
この時鑑定士は、よほど浮かれていたのでしょう、この盗賊に―――言わなくてもいい―――言ってはならない事を、つい喋ってしまったのです。
「そりゃ、あれだよ、あんたがよく利用していた―――」
『
「な、なんだってぇ? そうすると、あれか…お前が喋ったッてぇのか?!(な、なんて事だ…)」
「え?ど…どうしたってぇんだよ、そ、そんなに血相変えちまってさ…。」
「(く…!)これじゃあ、ワシがみすみすあの人の居場所を話しちまったって事も同然だ…。(それにしても、考えたもんだ…初めは
「な、なあ、そんな事よりもさぁ。 このあたしの、専属就任を祝して、今夜…一緒に食事しないか?」
「気の毒だが、そいつは受けてやれねぇ…。」 「え…?な、なんで、だよ。」
「自分がやってしまったことの、過ちの重大さに気付かないお人なんて、ワシはゴメンだね。」 「ええ??なんだって? 『過ち』?事の…重大性?? な、なんだい、そりゃあ…。」
「あばよ、達者でやんな…。」 「そ、そんな!ち、ちょいと待っておくれよ! なんなんだよ、一体…話しておくれよ!」
人間と言うものは舞い上がると喋らなくてもいいことまで喋ってしまう―――そういう性質があるものです。 それはこの両替商兼鑑定士も同じでした。 それに未だに自分のしてしまった過失、その重要性に気付かないこの両替商兼鑑定士に対し、道教人であるケチなスリは、その訳を…決定的な事を言い放ったのです。
「お前ェはな…現世に甦らんとした
「え…えぇっ?!あ、
「そんなつもりがなくってもなあ、現にこうなっちまってるんだよ! 全く…何から何まで!」 「ああっ!ゴ、ゴメンよ…こ、この通り謝るからさ、許しておくれよ…。 全く悪気はなかったんだ、だから…だからあたしを一人にしないでおくれよ!あたしは、ホントはこんな認可状なんかどうでもよかったんだ…ただ、あんたと一緒に―――あんたを追いかけて『ラー・ジャ』からこんなとこまで来たの、分かってるんだろ『タケル』…」
「余計な事をベラベラ喋んじゃあねぇよ! 頭ンくるねぇ!」
この男からの怒りを激しく買い、あわてて弁明をするも出る言葉毎に彼の怒りの火に油を注いでしまう女。
しかし、その言葉には、彼女の本心が紛れもなくあったのです。
そして男も、その本心を知っているが故に、それ以上の追求はしなかったのです。
ですが、今はそれどころではないのです。
「(く…)急がねぇと―――手遅れになっちまう!!」
「あぁ―――タケル…タケル~~! あ…あたし…何やってんだ―――なんて、取り返しのつかないことを……してしまったんだ!!」
『覆水盆に帰らず』―――その言葉どおり、取り返しのつかない事をしてしまった女は、ただ、ただ―――そこに
己のしてしまった、破廉恥な行為に、ただ―――ただ―――そこに
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