第33話 バイオレンスなピクニック
「はーるーこうじょうのーはーなーのーえーんー」
「うわぁ」
「変な歌」
「著作権切れとる歌ってあんまないんよ、コレド」
なんて言ったらいいんだ? これ。
なんだか色々なことが馬鹿馬鹿しくなってくる。またドンというすごい音がして、体長4メートルはあろうかという地竜が1匹吹っ飛んでいった。
今、デュラはんは体長5メートルはある大型機甲を操っている。
うーん。
僕は基本的に非戦闘員だ。
でも姫様ほどじゃないけれど、肩書きも色々ある。第一機甲師団輜重隊員として前線で戦闘員の機甲修理をする。同兵装開発部第三ラボ室長として前線の経験をもとに新しい兵装の設計開発をする。それから近衛見習いとして姫様のお役に立つ、こと。
それで色々経験を積んでいたところだ。でも経験って本当に必要なのかな。そんな気がしていた。
僕の経験では地竜ってものは五人か十人一組で一体に対峙して、まあ時には複数の竜に対するとしても、囲って油断を誘っ倒すもの。ずっとそう思ってた。けれどもそう、なんていうか。しかも鞭?
軍に所属して5年くらい立つけど、こんな馬鹿馬鹿しい光景は見たことがない。
「ハァ~こんな鞭ビシビシ自由に使えたことないわぁ。最高やわぁ。いっつも障害物あってん。レベル6いうんマジすごいねぇ」
「え? デュラはんは修行してレベルあげたわけじゃないの?」
「ええと、なんや最初からレベル6やったわ。他の奴らは3~6くらいやからスキルガチャ的なもんかもしれへん」
「ガチャ?」
巻き上がる砂埃と共に巨大な機甲が地を踏み込めば、もろく乾いた赤土の地表を踏み割り、その反動でズゥとジープが沈んでガタリとその段差に乗り上げて、軽く宙を飛んで着地する。
「うう、気持ち悪い。デュラはんもっと普通に戦って……」
「あ、ボニたんごめん、また酔いよるん? 酔いどめとかあるとええんやけど」
「うぷ」
新しく現れた翼竜に向かって鞭を横薙ぎに一閃。それだけで最大長10メートルもある鞭がしなって風を切り、3匹の翼竜にまとめて絡みつき、ベチッという大きな音とともに地面に叩きつけられた。
あー。
振り返ると屍累々だ。ドダンドゴンと竜をいなすデュラはんの通った道には点々と竜種の死骸が転がっていた。なにせこの辺りの竜種は生の魔力を発生させるデュラはんに向かって押し寄せてくる。僕とボニさんはデュラはんに守ってもらうわけだから、離れるわけにもいかずに揺れっぱなし。
「ぅえ。コレドさん、あとどのくらいで着くのでしょう……」
「えっと、火口まで一時間程度かな。ボニさん、大丈夫ですか?」
「頑張ります……」
ともあれもうすぐ火口が見えてくる。先ほどから火口付近を飛んでいる巨大な龍種がチラチラ見える。
こんなに間近で龍を見たのは初めてだ。普段はもっと低い位置で採掘をしているから。なんていうかものすごく、迫力がある。龍は自力で体内で魔力を生成できる。だから竜のように魔力を得るために魔力を食べたり、魔力の多い獲物を狩る必要もない。だから火山の外で見かけることはほとんどない。
竜と龍は一見似てるけど全然違う。
竜はトカゲの仲間で人と同じ肉の体を持っている。けれども龍は魔力の塊が分厚い皮を纏ったもの。高度な知性があり、体内の強大な魔力を消費して精緻な魔法を操る。
その身が巨大であればあるほど包含する魔力は大きい。魔力の多い国では山に匹敵する大きさの龍がいると聞く。
この領域は魔力が少ないけれど、それでも3メートルから10メートルほどの龍が3匹ほど空を泳ぎながらこちらやカレルギアを眺めていた。
「あの飛んどるんは襲って来んねぇ」
「あれは龍だから何を考えてるかわからない。でもさっきから襲ってくる地竜や翼竜と違って魔法も使うし賢いんだ」
「へぇー羨ましいなぁ。俺も飛んでみたいん。なんで俺は魔法使えんのやろ」
「それは本当にわからない。今でもわからないもんなの? 魔石から魔力を使ってるんでしょう?」
「そない言われたかて、ほんまわからん」
今のデュラはんは頭部に魔石がある。
調査した結果、魔石は頭蓋骨にへばりつくように発生していて、一番固まっているところの近くの髪の毛をちょっと剃って伝達腺のプラグをテープで貼り付けている。そうするとプラグから特殊な波動が出て、ちょっとだけ魔石を溶かしてその時に出るエネルギーを利用して機甲を動かしている。
それで普通は魔石を機甲の各部分にセットして使用する。
魔石というのは様々な魔物から取り出されるけど、生活環境や種類で少しずつその性質に違いが出る。デュラはんが乗っている大型機甲はたくさんのパーツを組み合わせて作られている。なるべく同種同状態の竜種から掘り出される魔石を使ったとしても、末端部にいけばその性質の違いから僅かなラグが生まれる。
日用機器なら多少ラグがあっても問題ないけれど、コンマ1秒を争う戦闘では使い物にならない。
けれどもデュラはんは違う。
デュラはんが乗るのに合わせて大型機甲、デュラはんは勝手にデュランダム
だからデュラはんには前の自分の体と同じように、神経が通ったような感じで動かせる、らしい。その証拠にデュラはんの鞭捌きは機甲を動かしているとはちっとも思えなかった。
うーん、デュラハンっていう種族はもともと首と体が別れてるらしいけど、体を非接触の魔力で動かしているのかなあ? 他の領域には魔力が大気に溢れているらしいから、そこを伝達して少し離れた体を動かしている?
よくわからないけどそのシステムをこの領域でも応用できないかな。
そう思っている間にもまたデュラはんは地竜を2匹投げ飛ばしていた。
けれどもそこでとうとうその快進撃は止まった。
火口まであと1キロ地点まで迫った時、6メートル級の竜が一頭、ゆったりと舞い降りてきた。
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