第29話 デュラはん、どこにいるの?
「私は観光に来たのです」
「ええい、嘘をつけ。なら何故あの頭部をもっていた」
目の前の男はいらだたしげに叫ぶ。
「それは機甲師団からお預かりしたのです」
「どこに向かおうとしていたのだ。なぜ預かる」
「なぜと言われましても守秘義務と言われておりますからお答えできません」
「どうして観光に来たのに機甲師団と関わっているのだ」
「それは馬車でこの帝都に向かう際に地竜が出たところをお助けいただいたのです。それからご縁が……」
「埒があかん。ともあれステータスカードを出すのだ」
「何故です。そもそもあなたたたちはどなたなのです。身分も明かさぬ方に好き勝手いわれる筋合いはないでしょう?」
小さな事務机がどんと叩かれ、コップが揺れる。
こんな問答なんてどうとでも答えられる。コラプティオの白磁の塔での尋問に比べると子供騙しだ。
僕はわかりやすく困惑の表情を浮かべた。
けれどもその裏では焦りが渦巻いていた。
この人たちは、誰だ。
僕は突然拉致られた。突然背後から襲われ、妙なものを嗅がされて体が動かなくなった。けれどもおそらく、それほど時間は経ってはいない気はする。窓がない部屋だから時間はよくわからないけれども。すぐであれば短時間で移動できる距離。そう考えると帝都カレルギア内かその近くだろう。
機甲師団と敵対している組織かどうかはわからないけど、先程からの質問ではデュラはんの出どころを探っているようだ。そしてデュラはんがどこに行ったのかわからない。
きっと僕と同じように捕まって……ひどいことをされていないだろうか。デュラはんは今は自由に動けない。僕を助けにコラプティオに来てくれた時と違って。
だから今度は僕が助けに行かないといけない。けれど武器も何もかも置いてきてしまった。心がズキリと痛んだ。
どうしたら。
どうしたら。
僕のせいで。
僕のせいでデュラはんが。
僕が帰ろうって言ったから。言わなければきっとこんなことにはならなかった。
リシャさんの言動からしても、この国の人にとってデュラはんは重要だったはずなのに。
あぁ。僕の見通しが甘すぎた。僕はどうしていつもこうなんだろう。
気づくとまた狭い部屋に閉じ込められていた。
ここも窓がなく、空気取りなのか入り口の扉の下と上が少しだけ空いている。人が時折通り過ぎるのか、その隙間を影が横切る。見張りがいる。この入口から逃げることは無理。コラプティオの部屋のように窓があれば……あれもデュラはんじゃないと出られなかっただろうけど、ともかく外の様子を探ることもできない。
探る……こと。
デュラはんの『スピリッツ・アイ』があれば脱出経路を調べて……。
駄目だ駄目だ。デュラはんは探れても、自由に移動できないじゃないか! 僕が一緒でないと。
僕は機甲師団から逃げるように飛び出してしまった。
だから僕を助けてくれる人はいない。そもそも僕がここにいることを知っている人はいない。ここは異国で、僕の唯一の知り合いはあの機甲師団以外いなかった。
ぐるぐると僕の中で行き場のない苛立ちと、自分への怒りが走り回っている。
部屋をうろうろしてもいい案なんて浮かばない。
やっぱりデュラはんを助けられるのは僕しかいない。
だから僕が助けないといけない。
何をしても。
だってこれは、僕が逃げ出そうとしたせいで、デュラはんは何も悪くないんだから。
それにデュラはんは魔物だ。そうだ、魔物なんだ。だから、どんな扱いを受けたっておかしくない。最悪なら今すぐにでも殺されてしまってもおかしくない。そんなことは耐えられない。
決意した。
僕はデュラはんを助ける。なんとかする。できるはず。
その決意を確認するためにうなずいた。そうすると、決意は僕の中に染み渡る。なんとしても僕はデュラはんを助ける。今度は僕が。必ず。
両手を祈りの形に合わせる。いつもやってる慣れた動作だ。
精神を統一。
ふう、と手の甲に息を吹きかけて床に両手をつく。
僕はアブシウム教の秘儀を使ったことはない。けれどもその行使方法は知っている。
いざというとき教会を防衛するために守秘義務誓約の対価として秘儀を習得はしている。だからそれで、デュラはんが助ける。僕にはデュラはん以外、大切なものなんてない。
大丈夫、成績は優秀な方だった。
何百年も前の転生者アブソルトは、『灰色と熱い鉱石』の魔女様が何百年も前に作ったこの島のおおよそに張り巡らされた魔術回路を利用して魔法を行使した。
けれども現在のアブシウム教国は、『灰色と熱い鉱石』の魔女様とは他の魔女様の領域境界によって分断されている。そこで今のアブシウム教国の偽神アブソルトというシステムは、分断された回路の中でアブシウム教国に溢れた魔力を自動的に貯め込み、『灰色と熱い鉱石』の魔女の名前で必要な時にその魔力を行使するシステムだ。
魔女様から直接力を引き出すわけではなく自然、いや、少し人為的に教会に貯めた魔力を利用するだけだ。だから教会とその周辺でしか使えないし魔女様たちに見逃されていた。
でもここはおそらく、今も『灰色と熱い鉱石』の魔女様の回路が生きているはず。魔力が溜め込まれた教会じゃなくとも、その回路を使えばアブソルトの魔法が使えるはずだ。だからまずはその回路を探さなければ。
[探知:ラルフュール]
魔女様、魔女様。
マギカ・フェルムを統べる『灰色と熱い鉱石』ラルフュール様。
回路に接続して地脈を探る。アブシウム教国では強固な地脈が存在する場所に教会を建て、その教会に魔力を貯めて必要な時に行使し奇跡を起こす。だから魔力が飽和していて、教会には妖精なんかの普通の魔力は入れない。デュラはんはよくわかんないけど。
でもこの国では予め魔力は貯められていないから、魔力自体を探さないといけない。いくらこの地に魔力がないといっても、この地の魔力を統べる魔女様本人にほど近いところになら、魔力はあるはず。魔女様の近くに滞留する魔力を少しだけお借りする。
秘儀の行使にはその回路にアクセスをすればいいだけだ。だからきっと秘技は使える。
行使はアブソルトへの口頭術式によるコード入力によって行われる。だから行使者の魔力や属性なんかは関係ない。
見つけた。
地面の奥底。ここが帝都カレルギアだとすると、方向はアストルム山、その奥に魔女様がいらっしゃる。けれども何かがおかしい。なんだか遠い。アブシウムで訓練を受けた時と異なる感覚。アブシウムだと既に貯めた魔力から力を集めるから違うのかな。
習ったことと違うところはなんだか不安。でも僕はどうしてもデュラはんを助けたい。
だからどうしても。お願い、直接お会いしたこともない魔女様、ラルフュール様。ほんの少しだけ僕にそのお力をお貸しください。
[接続]
その瞬間、僕に訪れた膨大な力に一瞬頭が混濁する。けれどもデュラはんのことをだけを強く思って意識を引き戻す。デュラはんだけは助けなきゃ。
僕の体積が何倍にも膨れ上がったみたいでひどく体が重い。この膨大な魔力に僕の体は耐えられないという実感。そりゃそうだ。本来魔女様が行う権能なんだから。
だから早くなんとかしなくちゃ。僕がなんとかできるうちに。頑張って、緩慢に体を起き上がらせる。僕はこの領域の情報に接続できていることを認識した。
魔女様はその領域内のことを全て把握する。これが魔女様の目。僕と世界の端っこが直接繋がっているような感覚とその力。ぐらぐらと目が回る。
自分がいるこの部屋からその認識範囲を少しずつ広げると、デュラはんはすぐに見つかった。
よかった、無事。少し離れた地下、空間。でも何人かの兵士に囲まれている。
早く逃げないと。最低限の魔力行使でできることは何だ。なるべくお借りする魔力は少なくしなければ。でもどこに逃げればいい? デュラはんが魔物でも助けてくれたのは機甲師団。機甲師団にとってデュラはんは必要。だから、その場所を探る。
ゆらゆらと観測点をずらす。
あった。ここは帝都カレルギアの中心近くだ。そこからしばらく西の方にいくと機甲師団がある。頭が割れそうに痛い。鼻血が出そう。でもそこまで逃げられればデュラはんはなんとかなる。
そこまでいけばデュラはんは大丈夫だから。
目がチカチカする。息がうまくできない。僕の周りの何かが空気を弾く。まわりにパチパチと星が飛ぶ。
魔女様は領域全てを統べられる。
だから大抵のことは自由自在。デュラはんのところに移動して機甲師団まで移動する。よし、できる。
けれどもそう思った瞬間、ひどい衝撃が起こってめまいがして、床に倒れた。ぐ、う。一体、何が? 原因を探る。……デュラはん? なんで。そっか。まずい、魔力を使い続けたらデュラはんが魔石になっちゃう。
でも体が硬直していて動けない。でも、でも、何か方法……移動だけなら問題ない。大丈夫。
[行使:転移:-10.8,+5.2,-5.2]
ブゥンと低く振動する妙な音がして、視界が揺れる。
横たわったままドスンと僅かな距離を体が落下する。目を丸くするデュラはんと目が合う。丁度良くデュラはんの頭に僕の左腕が乗っかっている。
[行使:転移:605.9,+275.4,+9.2]
再びブゥンと音がして、視界が切れ変わる。まるで粘度の高い水の中に閉じ込められたようだ。
よくわからない振動が響き、ザリリというノイズで目が半分くらいしか開かない。でも成功した。今は誰もいないけれど、ここは見慣れた機甲師団の応接室で、少し先にデュラはんが転がっていて何か動いている。
よかった。無事だ。
[解除:全]
そのコードとともに僕の中から大きな力がするりと抜け出るのを感じた。そうすると僕はもう息もろくにできなくて、苦しい。
でもこれでデュラはんは大丈夫だ。なんとかなる。
僕は……きっと、大丈夫。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます