第20話 私の奇妙な客。
我が帝都カレルギアは巨大な城郭都市である。
高さ10メートルを超える分厚い城郭に都市の全てが取り囲まれて、その入出は特定の門を通じてしか行えない。まさに鉄壁の守り。私たちは街道と直結する一般門を通り過ぎて城郭沿いを進んでいく。
私などはもはや慣れてはいるが、この城郭の威容はやはり訪れるものを圧倒するらしい。だがこの程度の高さがなければ竜種の類を圧倒できぬのだ。
「大っきいねぇ」
「ふわぁ……すごい」
「ふふ。そうだろう」
「やっぱでっかい恐竜とか来るん?」
「む。そうだ。時折スタンピートが起きる。流石にこの壁を超える大きさのものは稀だが、それでも翼竜が飛んでくることもあるからな。ほら、あそこに大きな台があるだろう?」
見上げると、視界には巨大な城壁が青い空を四角く切り取っている。下からははっきり見えないが、城郭上部には10メートル毎に大型の迎撃兵器がしつらえてある。
「んー、あのちょっとお尻見えとるんはバリスタ的ななんかなん? 飛んでくるやつ撃ち落とすん?」
「お。わかるのか。アレは我が兵団が開発した最新式でな」
「リシャ様お口が過ぎます」
む……。そうだったこやつらはまだ敵かどうかもわからぬのだ。
とはいえどうにも敵とは思えぬし憎めない。けれども専門の諜報員というものは、あの手この手で情報を手にするという。そういった輩は私には到底扱いきれぬ。だから私の考えは単純だ。相手が情報を得る前に対価を求めるのだ。それであれば取引だ。開示する情報をこちらで管理すればよいだけのこと。
だがどう見てもこのボニという者はこちらを欺瞞しようとしているようには見えない。
しかし色々と不自然すぎるのだ。戦いの心得がある動きにも思えぬ。にもかかわらず、あのソイル・ダカリオスの動きを一瞬でも止めた。どういうものか仔細はわからぬが、それなりの兵装を持ち合わせている。民間人の自衛手段を大きく超える戦力だ。
それにアブシオム教国。あの国も特殊な国だ。こちらとしても教国の情報は引き出したい。この世界の敵であるアブソルトを祀る国の情報を。
やがて竜車は軍用門にたどり着き、様々な手続きを部下に任せる。
2人を応接室で待たせて様子を観測させ、その間にも細々とした下調査を進めさせる。その間に私も着替える。機甲をまとっていても外に出れば砂に塗れる。髪が少々ゴワゴワするのが鬱陶しい。
部下からの報告では、キョロキョロと応接室内を見て回った以外におかしなことはしていないようだ。
さて、まずは入国目的を吐かせる必要がある。観光名目で入国したようだが、どうだかな。油断せぬようそのように一人気合を入れてソファに対峙したのに、開口一番気が削がれた。
「俺の体を作りに来たん。機械の体いうんがあるんやろ?」
「ちょっとデュラはん。あの、でも本当なんです」
「……なぜわざわざ魔物の体を作るのだ」
「そら俺とボニたんは心の友やから」
ハハッと笑う声には悪気はなさそうにみえる。
「デュラはんには本当に助けてもらっているんです。僕が処刑されそうになったところを助けてくれたんです」
「処刑? そうすると貴殿は罪人なのか? なぜ入国できた」
「それはその、無実の罪なので身分証を使いました。それに僕は死んだことになっていて、多分」
「多分?」
言っていることが頓狂すぎて話にならぬ。
魔物が人を助ける。この国にはデュラハンはおらぬゆえ調べさせた。デュラハンというのは人に死をもたらして回る高位の魔物であるという。それが人を助けたという話も聞かぬ。むしろその生態は魔物というよりは何らかのシステムのように思える。いや、ついこの間、この国の外で起きた大戦の際に一部の魔物が人を助けるような妙な動きをしていたという話があったとは聞いたが、そもそも信憑性が薄いと判断されていたはずだ。
けれども確かに目の前には動く首がある。身体は失ったとは聞いたが、そうすればデュラハンというものは首が本体なのだろうか。そしてこのデュラはんとボニたんはなんというか、確かに友人のように親しそうであった。
混乱等の精神汚染呪文がかけられているような節もない。
全く何がどうなってるかわからん。
「あの、隊長よろしいでしょうか」
「何だ」
「もしやそのデュラはんというのは、転生者か転移者ではないのでしょうか」
背後に控える部下がそのように声かける。転生者? 魔物が?
「お、そうそう、わかるん? 多分転生」
「何を言っているのだ。人ではないのだぞ」
そんなことがありうるのか?
「リシャ様、この領域の外では稀にスライムであったりゴブリンであったり、そういった者に魂を移すこともあると聴きます。そして黒髪黒目の転生者は人に親和的であると聴きました」
「黒髪黒目というのはデュラはんの種族特性ではないのか? 私は他に見たことがないのだが」
「隊長が見てないんならこの隊の誰も見てませんよ」
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