第7話 戦闘飛空艇
戦闘飛空艇が開発され、大空を飛ぶようになりました。
馬車と馬車の間には車が走り、事務所に勤める淑女はタイプライターを使って文書を作成するようになっているのですが、この世界には魔法というものが存在します。
魔法、魔獣、魔石、スタンピード、そんなものが存在するけれど、テレビもあるし、ラジオもある。
最近、魔石コンロや、魔石冷蔵庫が販売されたし、庭師は芝刈り機を使って芝を刈る。
「奥様!飛空艇です!飛空艇がこっちに飛んできています!」
4機で編隊を組んできた戦闘飛空艇が爆弾の投下を始めたのが見えた。
薄い幕が空を覆い尽くし、爆弾が幕の上で火花を散らしながら広がり、飛空艇がその上を滑るように横移動しながら飛んでいく。
「こんな街までやってくるなんて・・・」
庭師のおじいさんが顔を青ざめさせながら見上げていると、
「スコリモフスキ家がどれほどのものか偵察に来たんじゃないかしら」
と、隣でおばあちゃんが言い出した。
「おばあちゃん、どういうこと?」
「大魔法使いがまだ生きているのか、大魔法使いの魔法はどうなっているのかを確認に来たのでしょうね」
「えええ?」
ヴォルイーニ王家は今は無き古代王朝の流れをくむという事で、王家の人間は桁違いの魔力を持つと言われています。王族は守りに特化した力を持つため、ヴォルイーニ王国は常に、国土を特殊な結界で包み込まれているような状態でした。
ひいおじいちゃんが全盛期の時に、王族が紛争地での戦闘に巻き込まれた為に、大怪我を負ってその力を失う事となったそうです。その時に、王家の代わりとなって結界を張り巡らしたひいおじいちゃんは、稀代の大魔法使いと呼ばれるようになりました。
守護の力を持つ王族がまもなく現れたため、ひいおじいちゃんは役目を終える事となったそうなんですが、とりあえず、ひいおじいちゃんの結界は今見た通り、爆弾も防ぐ仕様となっているようです。
「ねえ、おばあちゃん、確か今、国に結界を作っているのって王太子のイエジー殿下よね?」
「そうね」
「イエジー殿下の容態ってそんなに悪いのかなあ」
「そのように思うわね」
飛んでいく飛空艇を見送りながら、おばあちゃんが小さなため息をつきました。
「なんでも、隣国ルテニアの親善パーティーに参加してからお体の具合が悪くなったっていうでしょう?しかも、殿下の帰国後、すぐにあちら側から宣戦布告をしてきたというのだから、殿下はルテニアで毒でも盛られたのかもしれないわねえ」
「殿下が結界を張れなくなったら、他に誰が結界を張る事になるの?」
「それは、王宮の上級魔法師たちが集まって結界を張る事になるんでしょうけど、あいつらがヘボだから86歳のおじいちゃんに召喚状なんて届く事になっちゃったのよ。しかも、こんな田舎町まで敵の戦闘飛空艇の侵入を許す事になっちゃうなんて、無能の集まりなのかしら」
ポズナンは王領となるブラス州にある小さな街で、王都から馬車で3日の距離にあります。車だったら丸1日程度って感じでしょうか。車は高級品なので、普及するのには、まだまだ時間がかかりそう。
田舎だし、特産物もないポズナンが最近、異常なほどに地価が高騰しているのは、有名な大魔法使いパヴェウ・スコリモフスキがポズナンに住んでいるからです。
大魔法使いパヴェウの力で、ポズナンがあるブラス州全体に結界が施されているため、例え敵の飛空艇が飛んできたとしても、爆撃を受ける心配がないわけです。
「ねえ、アグニエスカ、またパスカ家から手紙が届いたみたいだけどどうするの?」
ポストに突っ込まれていた手紙の束を引き出していたおばあちゃんがこちらを振り返りながら言いました。
「あら、あなたが前に婚約していたパデレフスキ家からも来ているわよ?」
ひいおじいちゃんの結界は特殊なもので、スコリモフスキ家に敵と認知された人間を弾くように出来ています。
生家であるパスカ家も、元婚約者の家であるパデレフスキ家も、一族郎党、全ての人間が、結界から弾かれてブラス州には入って来られないようになっています。
「ブラス州に疎開したいから、ひいおじいちゃんに結界を解いてくれとか何とか、そんなお願いの手紙でしょう?」
「そうね、パスカ家に至っては、この家で厄介になりたいとまで書いてあるわね」
「うちにお邪魔したい?馬鹿じゃないの?死ねばいいのに」
厚顔無恥にも程があるわよ。
父も、義理母も異母妹も、揃って土にでも埋まって死んでしまえばいいのに。
「マルツェルからも手紙が届いているわよ?」
「はあ?」
くるりと体の向きを変えた私は、家の方へと戻りながら、
「おばあちゃん、燃やしておいてください」
吐き捨てるようにして言ったのでした。
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