第26話  そして現れる

「攻撃よ!攻撃しなさい!!死にたくないなら攻撃するのよ!!!」


 そんなリリィの声で我に帰る兵士達。数人づつではあったが応戦を始める。そんな仲間を見て他の兵士達も立ち上がる。

 生き残るために戦う、勝つために武器を取る。


 攻撃を始めた兵士達に続き、魔女やエクソシストたちも動き出す。


 兵士は銃で、魔女達は魔術で悪魔に攻撃を仕掛け、エクソシストたちは聖女と共に結界を強化する。



 死力を尽くす。



 持ち込んだすべての兵器を撃ち込む、魔女達も全魔力と媒介を掲げ魔術を行使している、聖女達もかなり厳しい状況。

 

 それでも悪魔は余裕を崩さない。一人、また一人と倒れていく。


 悪魔は遊んでいるのか、手足の1本を吹き飛ばすが殺しに来ない。いたぶって楽しんでいるのだ。


 指令も片腕が無くなっていた、それでも兵士達を鼓舞し、残った片腕で銃を撃ち続けている。


 嚙み締めた唇から血を流しながら、それでも攻撃を続けるリリィ。負けるもんか!そんな気持ちで術を行使する。




 だが悪魔には届かない。その余裕すら崩せない。




 現代兵器も、魔女達の魔術も、聖女達の力すら届かない。なんて理不尽な存在なんだろう。

 絶望を蹴り飛ばし、それでも踏み止まるリリィ達ではあったが、とうとうその魔力も、聖水や媒介、銃弾も尽きてしまう。


 力尽き、動けなくなった皆を悪魔が見つめる。その顔に強烈な残虐さを称えた笑みが浮かぶ。


「も…ハァハァ、もう無理…ね…ハァハァ」


「そ…うね」


 リリィの言葉に、返事を返したのは聖女一人であった。すでに指一本動かない絶望。他の仲間達は皆出血でいつ死んでもおかしく無い、返事も出来ないのだ。


「何…か、いい…残すこ…とある?」


 息も絶え絶えで、聖女が最後の懺悔でも聞くようにリリィに問いかける。最後まで聖職者なのね、そんな考えと共に浮かぶ嫌味な顔。


「そう…、ね、ひ…とこと…いい?」


「…え、え」


 リリィは大きく吸い込むと、残ったすべて力で叫ぶ。


「わ・た・る・の、ばかぁぁあああああ!!!!!」






「それは無いんでない?」






「「へ?」」


 素っ頓狂と言うか、場違いなと言うか、そんな口調で返事が返ってきた。

 

 声がした方向、振り向いた先、だが地上には居らず、見上げた先に渉が浮かんでいる。


 何が起こったのか、なんで渉がここに居るのか、理解が追い付かないリリィ。対して聖女は、初めて見る渉に驚いていた。


 作戦前、再び姿を消していた渉。聖女にとってはアドバイザーの存在はどうでもよかった。

 今回の作戦に同行する訳では無い。すでに作戦も決まってる。ならば渉と言う存在は、居ても居なくても良かったのだ。


 だが、突然目の前に現れた存在は?宙に浮きながらこちらに話し掛けている存在は?一体何なのか、そんな疑問が浮かんでいた。


 混乱する聖女を余所に、リリィに話し掛ける渉。


「いやぁ~、ちょっと協力するために交渉をして来たんだよね~」


 ニヤニヤと、いつものムカつく顔をする渉、怒っていいのか殴っていいのか、どちらをぶつけるか悩むリリィ。どちらも八つ当たりである。


 突然現れた渉に警戒したのは、悪魔も同じであった。それでも自分には敵うまい、と魔法を放ってくる。


 すると振り向きもしない渉の背後に迫った巨大な炎は、一瞬で消え去ってしまった。


 呆気にとられる悪魔。一瞬の出来事で声すら失ったリリィ&聖女。


「ちょっと邪魔だね」


 そうつぶやくと、四方から突然現れた光の鎖が悪魔を搦め取る。一瞬で身動きを封じられ慌てる悪魔だが、再び魔法を放とうと試みる。


「あ、それも邪魔」


 そんな渉の軽い発言。


 悪魔は焦る。発動するはずの魔法が発現しない。魔法を封じられた!そんな焦りを見せる悪魔に対し、渉は首だけで悪魔を見る。


「ちょっと彼女達と話をするから、そこで大人しく待ってなさい!」


 そう言われても、身動きも魔法も封じられた悪魔はもがいている。当然の動きだが、渉は悪魔を無視して皆を見た。


「あぁ~これはまずいかな、今にも死にそうじゃないか」


 そう言うと、恰好付けるように指を鳴らす、そのポーズが気障ったらしい感じがして、うんざりしたリリィだが、その後の効果には驚いていた。




 みんなの手足が戻っていた。傷も消えていたのだ。




 これにはリリィも驚きを隠せないでいたが、それ以上に聖女は驚愕していた。その瞳は神の軌跡を目撃したような、そんな顔であった。


「ごめんごめん、これで一先ず安心かな、後体力も減ってるみたいだから、『パチン』これでどう?」


 再び指を鳴らすと、さっき迄限界で動けなかった身体に力が戻る。

 自身の身体を確認したリリィはもう一度驚きを見せるが、聖女は何故か涙を流していた。


「他のみんなもその内目を覚ますから安心してね」


「あ~~~~~~!も~~~~~!!それで!?どうしてアンタが此処に居るのよ!てか、その力は何!?どうやってここまで来たのよ!?」


「いやいや、東方の魔法使いとか言ってたの君でしょ?それなら解んないかな?w」


「わ・か・る・わ・け・ないでしょぉぉぉおおおおおお!!!!なんなのよ!その非常識な力は!!!魔女や魔法使いに謝りなさいよ!!!!!」


 この地球に存在するすべての魔女や魔法使いを超える力、当然リリィに理解は出来ない。横では聖女が祈り始めていた。


「まあ、俺って魔法使いじゃないからね~。どんな存在かについては、ひ。み・つ(ハート)」


 イラっとしたリリィは履いていた靴を脱ぎ投げつける。そんな靴をヒョイと躱しニヤ着く渉。聖女の顔は真っ赤。


「で?一体どうゆう事なの!?アドバイザーじゃなかったの!?」


「いや、アドバイザーだったよ?さっきまではね」


「どういう意味よ…」


「そうだね、今回のダンジョンは人類では対応出来ない。そんな結末になるだろうと予想したんだ。案の定みんな死にそうでしょ?で、対応の許可を取るために、上司へ伺いを立てに日本へ戻って、ついさっき許可が下りたんだよね~。いやいや大忙しだったよ」


 片手を肩に添え首を左右に動かしながら、大変でしたアピールする渉に疑問をぶつけるリリィ。


「ついさっきって、何時のことよ!それならどうやってここまで来たのよ!?」


「え?さっきはほんの10分か15分位前で、ここまではリリィさんの魔力辿って転移で来ましたが?」


「……」


 もう何も言葉が出てこないいリリィ、渉の存在が非常識すぎる。横で聖女は感激していた。


「もう少し詳しく話すと。このダンジョンを放置すると、その規模はイギリス全土に及んでしまう。そうなると今度は別の地域にダンジョンが発生する、そんなになるんだよ。ダンジョンが増え続けると中には氾濫、スタンピードを起こすダンジョンが発生する可能性も出て来る、強大なモンスターに人々が襲われる。だけどそれだけでは終わらない。が滅ぶ結果とはならない、この星すべての生態系が破壊されてしまう。滅んでしまうかもしれない。そんな事態はだ。であるなら俺の力を行使しても何ら問題無いって事」


 渉の台詞に何とか答えるリリィ。


「なんなのそれは、人類が滅びるのは構わないように聞こえるわ。人類滅亡が世界の危機、って話じゃないのかしら?」


「それは人類の危機であって、の危機ではないんだよ。人々が滅んでもこの星自体には特に問題が無い、数万年もすれば新たな人類が生まれるかもしれないからね」


 渉の言葉に納得が出来ない。人類滅亡が世界の破滅、危機だと考えていたリリィ。そんな事は無いと言ってくる渉が不気味に見えて来た。

 一体渉は何者なのか?姿は人、にもかかわらずその言動が人ではない。まるで違う立場から発せられたその言葉に、リリィは問いかけるように聞くのだ。


「それは…、その言い方だと人類は滅ぶ事を望まれている。そう聞えてしまうのは私だけかしら?」


「そう考えるのも君が人だからだよ。別に人類が滅べば良いなんて考えてる訳じゃ無いけど、この星は何も人だけで構成されている訳じゃ無い。様々な生命が存在する事で今この星がある。動物達も共に生きている仲間だ。生きるために他の生物を食べ命を奪うけど、それは生きる為の本能でしかない。腹が膨れれば必要以上に殺す事もし無い。人類だけが好き勝手してるような物だね」


「その話し方は好きじゃないわ、まるで私たちが悪い存在みたいじゃない」


 ムッとしながら返事をするリリィ、渉はその様子を優し気に見ていた。


「話を元に戻すね。基本俺って日本人の召喚事件対応のために仕事しているんだ。此処とは違う世界だから、出来るだけその世界に干渉しないように行動している。だけど世界の危機であればを行使する。異世界であれば自己裁量で動くことを許可されてるんだ。現実世界ではこれが初めてだから、影響を考えて上司の許可を貰ってきたって事」


「やっぱり意味が解らないわね…、それに許可って何よ。政府にでも許可を取るの?貴方の言い方では、まるで神にでも伺いを立てて来たみたいよ」


「よくわかったね。まさしく神々に会って来たんだよ」


「……」


 渉の言葉が理解出来ない。神々に会って来たとは一体…。渉の存在がもっと解らなくなる。けれど、その言葉に嘘が無いとも感じていたリリィは、只困惑するばかりであった。

 

 神の使い、神の使徒が目の前にいる。聖女はもうどうにかなりそうだ。


「それじゃ、説明も終わったし、倒していいよね?」


 そう言いながら悪魔へと振り返る渉。説明中、何とかしようとずっと足掻いていた悪魔だが、渉が振り返るとビクビクとその身体は小刻みに震えている。


「では、ごきげんよう」


 渉の言葉と共に、一瞬で巨大な光の柱が悪魔を包む。光が収まったそこには、消し炭すら残さず悪魔は蒸発していた。


 あっという間の出来事。

 

 皆でアレだけ頑張っても傷一つ付けられなかった存在が、一瞬で蒸発したのだ。リリィと聖女は当然理解できない。


「さてと、次はの番だね」


 そう言うと、現れた扉に向かい手招きをする渉。すると扉の向こうから虹色に光る球体が現れた。そのまま誘導され渉の胸元まで来る。


「さて、ダンジョンコア君。幸いな事に今回死亡者は出ていない。情状酌量の措置が有ると思う訳よ。なので元の世界に戻って、一から出直してください」


 そう言うと、渉は両手で胸元の球体を叩いた。その姿が一瞬で消えるとリリィに向き直り渉が言う。


「これにて一件落着ってね」


「まったく意味がわからないわ…」


 力なくそう答えるリリィ。それでも決着が付いた事に安堵していた。

 

 横の聖女は神の軌跡の連発で、すでに目にハートを浮かべている。


 二人は、そんな聖女に気が付かなかった。








 渉、ヤヴぁい女性(メンヘラ聖女)に目を付けられた。





───────────


いつも、読んで下さりありがとうございます。


イギリス編終了間近ですがお知らせです。


第一話から第七話までですが、内容が急ぎ過ぎ、色々と足りないと感じ、順次修正していきます。


今日明日にも第二話を修正する予定です。流れ自体は変わりないので、読み返す必要はありません。


今後とも、よろしくお願いします。


 












 


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